「お帰り~って、どうしたの二人共、酷い顔よ!?」
「ああ、空凪妹か。悪ぃけどちょっと飲み物か何か買ってきてくれないか?」
「う、うん。待っててね」
さっきの出来事のせいで俺も翔子も疲労困憊だ。
一体誰が、遊園地であんな事件が起こる事が予測出来た?
しかもわざわざ煽るなんて。普通じゃ考えられない。
その常識外れな事をあえてやってのけるのがあの空凪剣という
「……あの……雄二……」
「……どうした?」
「……その……ごめんなさい」
「……お前が謝る事はないさ。
俺がもっとしっかりしてれば、こんな事にはならなかった」
「そんな事は無い! 私が……」
「翔子。
きっとあいつならこう言うはずだ。
『命は無くなったら戻らないが、腕くらい放っとけば治る』ってな。
まだ、大丈夫だ。お前はまだ何もやってない」
「…………」
「……なぁ、一つだけ、約束してくれないか?」
「?」
「これからも、お前を怒らせるような事があるかもしれない。
そんな時はさ、まずは話して欲しい。
約束、出来るか?」
「…………(コクリ)」
「約束したからな? 守ってくれよ?」
「…………うん」
「飲み物買ってきたよ。大丈夫?」
「ああ。とりあえず落ち着いた」
「良かった。じゃ、次の企画が待ってるから」
「一体どんなおもてなしが待っているのやら」
さっきみたいな過激なものはもう無い……はずだ。
「なんか昼食の後に大きいのをやるっぽいよ」
そう言えばもうそんな時間なのか。
「さぁさぁこっちよ。付いてきて」
……ところで、仕掛け人である事を隠す事は完全に止めたんだな。
………………
やたらと豪華な昼食も終えた所で再び空凪妹が姿を現した。
「そろそろ次のイベントなんだけど……」
『皆様、本日はこの如月ハイランドのプレオープンイベントにご参加頂きありがとうございます!』
「あ、始まったみたい」
『これより、本日の目玉イベント、『如月ハイランドウェディング体験争奪クイズ大会』を開始したいとおもいま~す!!』
「ん? 争奪大会? てっきり出来レースでも組まれるのかと思ったが……」
「直前で剣が慌てて差し替えてたわ。
『出来レースだと!? こういうのは壁が高いからこそ価値があるんだ!!』とか言って」
「ああ、言いそうだな。あいつなら」
って、直前?
腕が折れた後に差し替えたのか……?
『それでは、クイズ大会への参加を希望する方はこちらの列にお並び下さい』
「……雄二、頑張ろう」
「……ああ。そうだな」
ウェディング体験……か。
……剣が仕出かしたせいであまり深く考える時間が無かったが……本当にこのままで良いのか?
翔子は俺の事が好きだと言っている。が、それはおそらく勘違いだ。
こんなろくでなしと一緒にいるべきでは……
プルルルル
「ん? 非通知?」
ガチャ
『やぁ雄二。切られないように非通知設定にしてみたよ』
「お、お前はっ!!」
『僕はサイコメトラーでもテレパスでも無いからお前の心理を完全に読みきる事は出来ないが、想像くらいなら出来る。
見えないものを無理に見ようとするな。見えないものはどんなに目を凝らしても見えないのだから。
不可視なものに対して出来るのは、ただ信じる事だけだ。自分を、そして自分が信じる相手を』
「そんな哲学的なうんちくより、腕は大丈夫なのか!?」
『しっかりと消毒してがっちりとテーピングした。じゃあな』
ブツッ
「ちょ、おい!?」
骨折ってテーピングで治る……わけが無いよな?
「坂本君。相手はあのアホ兄さん?」
「ん? ああ」
「何か腕がどうとか聞こえたんだけど……」
「…………本人に訊いた方が早いだろう」
「それもそうね」
ピッピッピッ
「あ、もしもし? なんか腕が……」
「え? そんな事より私も大会に出ろ?」
「っっ!!! 良い度胸ね……
いいでしょう。覚悟しておきなさい!!」
ガチャッ
「って訳で代表、私も出るから」
一体どんな会話があったんだ!?
「……パートナーは?」
「秀吉く~ん!!」
「む、どうしたのじゃ?」
「秀吉君、私たちも大会に出るわよ」
「なぬ? ワシらは主催者側のはずでは?」
「その主催者側から出ていいってお墨付きをもらったわ。さ、行くわよ!!」
「ちょ、ちょっと待っ!!」
「……とりあえず、俺たちも行くか」
「……(コクリ)」
………………
参加したのは8組のペア。俺たちと秀吉・空凪妹ペアを除けば6組か。
……ん? 何か見覚えのある顔があったような……いや、きっと気のせいだろう。
『え~、それではルールを説明致します』
いつの間にか剣が司会役をやっていた。
腕は大丈夫なのか?
『今から問題を出します。
皆さんはお手元のフリップボードに答えを書いて頂きます。
見事正解した方は1点加算されます。
これを5問繰り返し、最終的に最もポイントが高かったペアの勝利です。
なお、同率一位を避ける為、微妙にニュアンスの違う二つの回答が出た場合には『最も正解に近い答え』のみ正解とします。
中には無回答が正解……なんていう捻くれた問題もありますから、気をつけて下さい。フフフ。
以上です。それでは始めます。
それでは第1問!』
アイツが考えた問題なんだろうか……一体どんな問題が……
『ヨーロッパの首都は?』
いきなり度肝を抜かれた。
「(翔子、俺の記憶が正しければそんなものは無いはずなんだが……)」
「(……私もそう思う)」
ヨーロッパというのは州の名前であり、決して国名ではない。
なので首都なんて存在しないはずだが……
「(……でも、最も正しい答えが回答になるなら……)」
「(ここは普通に『空欄』で十分だとは思うんだが……)」
「(……競争相手に光と優子も居る。その答えじゃ出し抜けない)」
「(そうは言っても……って、木下姉?)」
俺の疑問を他所に、翔子はさらさらと答えを書いていく。
『……時間です。それでは答えを発表して下さい』
事前の警告もあったせいか、殆どが『無回答』。チンピラっぽいカップルが何故か『ドイツ』。
そして俺たちが……
『なるほど。綺麗に分かれましたね。
無回答でも正解のつもりでしたが……想定した模範回答をきっちり叩き出すとは。
坂本・霧島コンビにプラス1点です!!』
「(……ふぅ)」
「(お前……流石だな)」
俺たちの答えは……
『レイキャビグ・タブリン・ロンドン・パリ・(中略)・ブカレスト・ソフィア・アテネ』
……と、ヨーロッパ州の国々全ての首都を並べ立てたのだ。
翔子の能力が遺憾なく発揮された回答だと言えよう。
『まあ、
そして……一つ訊きたいのですが……
首都を訊かれて何故ドイツになるんですか』
『あン? ヨーロッパの首都っつったらドイツに決まってんだろ!!』
『そーよそーよ!!』
……驚いた。明久以上のバカが2人もこんな所に居た。
世界って……広いんだなぁ。
『では、次の問題です。
さる筋では有名なクソゲー、『ファイナルクエスト~国王最後の聖戦~』ですが、最初のチュートリアルバトルからいきなりラストバトルに突入できる裏技が存在します。
その方法とは?』
……何だそのクソゲーは?
「(……雄二、分かる?)」
「(……全く分からん)」
まさか、そんなコマンドは無い……とか?
それ以外まともな答えが思いつかないんだが……
『……時間です。答えをどうぞ』
殆どが無回答。
そして一組だけ……
『ヒロインに『捕食』コマンドを使った後、ダレイオス三世と勇者アークに対して『お前はもう死んでいる』を使う』
……何だそのムチャクチャなコマンドは……っていうかあのペア……
「(明久!? 何で、こんな、ところに!?)」
「(それは、こっちの、台詞だ!!)」
『はい。正解者は1組です。
補足しますと、製作者によれば
『おかしな裏技を作ってはみたけど、あっさりラストバトルに入れると色々マズいので、ビギナーなら絶対に選ばないような組み合わせにした』
とのことです。
まあ、味方、しかもヒロインに対して『捕食』なんてコマンドはそうそう使わないし、明らかにヤバげな技を味方に使うなんて事はまずしないでしょうからね……』
っていうか、何でお前らは知ってたんだよ!!
『では第3問。
先ほどの食事でも出てきましたが…唐揚げと豚カツ。
仮に一つずつ買うと合計972円とします。
そして二つの価格差は127円とします。
安い方の価格はいくらでしょうか?』
これは、よくある引っ掛け問題をさらにややこしくした形だな……
「(……いや、そもそも問題として成り立ってない)」
「(……確かに)」
二つの平均金額は486円。
そして価格差が127円なのでー63.5円で、馬鹿正直に答えるなら答えは『422.5円』となる。
条件に合致させるにはそれしか無いが、当然、今の日本では円より細かい単位は使われていない。(形式的な呼び方としては使われてはいるが)
つまり『解なし』……で良いのか?
「(……剣だったら平気で少数付きの答えを要求するような気もする)」
「(逆もまた有り得る……どっちなんだ?)」
これは問い手の心理の読み合いになる。そうなったら奴の妹が断然有利……
「(……いや、そんなはずはない。アイツが妹に有利な問題を作るとは思えない。
何か…何か手がかりがあるはずだ)」
くそっ、そもそも何でこんなややこしい問題を……待て、問題をややこしくする理由……
「(……まさか、もしかして、そういうことなのか!?)」
「(……何か分かったの?)」
「(……お手上げだということが分かっただけだ)」
答えを書く。『422.5円』
『……時間です。それでは答えを』
どうなった?
『359』が4組。そして……
『無回答』が2組。
『422.5円』が2組。
これで……どうだ……?
『そうなりましたかぁ。
正解者は……
4組ですね』
「よしっ!!」
「(……どういうこと?)」
『分かる人はすぐに分かったと思いますが、この問題には正答が2つあります。
小数点以下の円を認めて強引な値段を付けるか、それとも出題ミスとして無回答にするか。
この選抜クイズでは少ない方どちらかを正解にしようと思ったのですが……同じになってしまったので4ペアとも正解にします』
「(全く、本当にイイ性格してやがるな。
真に問うべきは回答者の心理って訳だな)」
単に運を絡ませようとしただけかもしれないが。
「(……何で雄二は答えを書く方にしたの?)」
「(んなもん勘だ)」
明久のペアと同率一位……しかも空凪妹のペアもすぐ後ろに居る。
油断はできないな……
『では4問目。
え~このコインを見てください』
剣が取り出したのは見たところ何の変哲も無い100円玉。
『よ~く見て下さいね』
そう言いながらくるくると100円玉を回す。何だ? 何がしたいんだ?
『ではこれからこれを5回投げます。
その時、裏表が『表、裏、裏、裏、表』となる確率は何分の1でしょうか?』
「(……単純に考えて、2
「(……それしか無い…よな?)」
急に問題の難易度が下がった? いや、今までがおかしかったのかもしれないが……
とりあえず1/32と書く。
「…………あっ!!」
『時間です。回答を』
「(……失敗した)」
「(どういうことだ?)」
『1/32』または『32』と回答したのが3ペア。
様々な回答をしているのが4ペア。
そして、空凪妹が……
「危なかったぁ……」
『∞』
「(!? どういうことだ?)」
「正解は……
1ペアです」
「なっ!!」
『実はこのコイン……偽物です。
そして、両面を加工してありまして……両方とも表です』
「(そうきたか。それだったら確かに確率はゼロ……)」
『そして問いは『何分の1か』なので、確率ゼロを示す分数は1/∞。
よって答えは『∞』です』
してやられた。確かに執拗に『見て下さい』とは言ってたが……
『今のところ同率一位が3ペアですね。
それでは最後の問題です!!』
これで最後……一体どんな問題が……?
『では……
ピーン パシッ
表か裏か』
「(……な……に!?)」
ここに来て、純粋な運……?
いや、集中モードの剣なら表裏の操作なんて楽勝なはずだ。
だが…………
「(…………裏)」
「(本当か!?)」
「(……多分……そう見えた)」
「(…………よし。じゃあ裏だ)」
『時間です。それでは答えを発表して下さい』
2ペアの答えは……両方とも『表』果たして……?
『さて、正解は……『裏』です!!』
「よしっ!!」
「……やったね雄二!!」
『おめでとうございます。
ウェディング体験を見事勝ち取ったのは坂本・霧島ペアです!!
お2人はそのまま準備があるので、係員の指示に従って下さい。
今回残念ながら勝ち取れなかった方々も参加賞が御座いますので、そのままお待ち下さい』
さて、勝ったは良いが……本当に勝って良かったのか?
「おメデとうございマス。それデハ、こちラへ」
「……はい」
「……ああ」