バカ達と双子と学園生活   作:天星

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05 痛み

 …………………………

 

 …………………………

 

 ………………あれ?

 

 いつまで待っても衝撃が来ない。

 まさか、衝撃など感じる時間も無く三途の川を渡ったとでも言うのだろうか? いやいや。

 ゆっくりと、目を開けてみる。

 

 目に映ったのはバットを振り下ろした姿勢の翔子。

 そして俺と翔子の間に割って入ってる誰かの人影。

 ……いや、こんな丁度いいタイミングで割り込める奴なんて一人しか居ない。

 

「……剣?」

「痛ってぇ……試召戦争の時より痛いぞ」

「……そこを退いて」

「いや退けないね。お前は一体何をしようとしてるんだ?」

「……雄二にお仕置きしないといけない」

「お仕置き、お仕置きねぇ……

 お仕置きと言うからには雄二に何かしらの非があったと?」

「……雄二が、酷い事を言った」

「……だそうだが?」

「俺はとりあえず否定しておけば良いのか?

 それともお前を怒れば良いのか?」

「とりあえず否定してくれると凄く助かる」

「……俺は何もやってない」

「だそうだが、反論は?」

「……私は確かに聞いた。雄二が嘘を言っている」

「言い分を信じずに断定か……

 まあいい。まさかとは思うが、コレの事か?」

 

カチッ

 

 『姫路の方が翔子よりも好みだな。胸も大きいし』

 

「……その声」

「これは秀吉の声帯模写を録音したものだ」

「っ!!」

「反論は?」

「…………」

「……つまり、お前は勘違いで雄二にお仕置き……

 いや、言い方が生温いな。

 お前は勘違いで雄二を殺そうとしたんだ」

「ちがっ

「違わないさ。これを見てみろよ」

 

 剣が左腕を差し出す。

 その、金属バットによる『お仕置き』を受けた腕は、暗がりでもはっきりと分かるほど歪に曲がっていた。

 

「断言しよう。これが頭に直撃したら、人は死ぬ。即死だろうな、間違いなく」

「……そんな……事は……!!」

「補足するなら、僕が止めなければ脳天直撃コースだった。

 そして寸止めするような気が無かったのはこの腕を見れば明らかだ。

 改めて断言しよう。お前は雄二を殺そうとしたんだ。

 そして、それは即ち……

 お前は雄二の事を信用してないんだ。これっぽっちも」

「違うっ!!」

「主張するだけなら赤ん坊でも出来るさ。

 もっと筋道が通った反論をしてみせろ」

「………………」

「…………ギブアップか?」

「………………」

「………………反論する気が無いのであれば、僕は行かせてもらうぞ」

「おい! ちょっと待てよ!!」

「……何か?」

「お前は結局何がしたかったんだよ!?」

「………………じゃあな」

「おいっ!!」

 

プルルルル

 

「こんな時にメール……って、あいつからか」

 

 

 From 空凪 剣

 To 坂本雄二

 sub 問題の認識と解決方法

 本文

  潜在的な問題の存在を証明する最も手っ取り早い方法は何だと思う?

  答えは簡単だ。その問題を起こしてしまう事。

  こうする事で、問題の存在だけでなくその深さまで推し量る事ができ、更には共通の認識に組み込む事が出来る。

  今回の件を上手く使って、この問題を解決して欲しい。

 

  追記

  僕はこれ以上、体を張る事は無い。

  喜劇を作り出すのか、悲劇に終わるのか、

  後はお前たち次第だ。

 

 

「あの馬鹿野郎っ!!」

 あいつがした事は分かりやすく言うとこういう事になる。

 『そこに爆弾があって危険だからいっそのことマッチか何かで爆破してしまおう』

 最短最速の解決方法だが、火を付ける人物は当然ながら真っ先に爆風を受ける事になる。

 普通の人間は余計な怪我をしないように様々な工夫を凝らす。

 だが、その工夫をとっぱらった場合、ある利点が生まれる。

 それはその爆発の威力を肌で体験出来る事だ。

 また、もしその爆弾を放置して、何かの拍子に爆発したらどんな大惨事になってたかを完璧に表現できる。

 

 だから、あいつは正面から受けたんだ。翔子に一切の反論を許さないように。翔子を完全に論破する為に。

 ああ、そうだ。これが最短最速にして最高効率の解決法だ。

 だが……あまりにも酷い。本当にお前が腕を折ってまでやる必要があったのか?

 なぁ……どうなんだよ…………


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