バカ達と双子と学園生活   作:天星

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 from 坂本雄二
02 悪鬼羅刹の物語


  ……デート当日……

 

 

「……もしもし? 全員配置に着いたね? じゃ、後は各自上手くやってくれ。

 あ、電話が入ったみたいだ。ちょっと待ってくれ。

 非通知か。もしもし?」

『…………………………………………………………………キサマヲコロス』

「やれるもんならやってみろ。(ブツッ)

 あ、もしもし? ああ、大丈夫大丈夫。ちょっと脅迫電話が届いただけだから。

 え? 何があったかって? だから脅迫電話がね」

 

 

  ……2時間後……

 

 

「……そろそろターゲットが来るぞ。準備はいいな? それじゃ、健闘を祈る」

 

 

  ……side out……

 

  ……雄二side……

 

 

 朝、目が覚めたら部屋に翔子が居た。

 驚いて警察に通報してしまったが、相手にされなかった。

 お袋を問い詰めたらケロッとした顔で翔子を部屋に入れたと認めやがった。

 ……これだけならまだ良い。休みの日の朝っぱらから精神的ダメージを受けただけだからな。

 だが問題は、翔子がアレを持っていたという事だ!

 あのチケットを管理しているのは剣のはずだ。

 つまり、何をトチ狂ったのかあいつは翔子にチケットを渡してしまったという事だ。

 幸い問題のチケットは学園長が回収済みらしいが……何も企業が用意したジンクスを流す手段はそれだけでは無いだろう。

 強制的に結婚させられる事が無くとも、結婚をするかもしれないという雰囲気が出来るだけでも厄介な事になる。

 なので丁重に断ろうとした。だが!!

 

『……行かなかったら即挙式って約束してくれた!』

『内容がやや捏造されてないか!?』

 

 本来の約束も『婚姻届に判を押す』だから本質的には変わらな……いや、問題はそこではない。

 軽い気持ちで口にしたとは言え、約束を破るのは嫌だ。

 あくまで約束は如月ハイランドに『行く』事だ。

 家から出発する(行く)だけで約束は(一応)果たせる。

 幸い、如月ハイランドは公共交通機関を乗り継いで2時間ほどある。その間に逃げられれば……

 

 

 

 

「……俺は…………無力だ…………」

 何なんだあの警戒っぷりは! 逃げ出す隙なんざ全くなかったぞ! スパイの容疑者が相手でもあそこまでは警戒しないぞ!?

「……やっと着いた」

 隣に立つ翔子の顔を見ると心なしか嬉しそうだ。

 うんうん、それじゃあ……

「帰るか」

 

ミシッ

 

「……ダメ。絶対入る」

「翔子、俺の肘関節はそっち側には曲がらないんだが?」

 口は災いの元とはよく言ったものだ。

 黙って逃げ出してれば……更に悲惨になったか。

 ……肘関節を極められながらのんびりと心の中で解説出来るようになってる自分が少し怖いな……

 

 ……ん? あいつは……

「おお代表、奇遇だな。こんな所で会うなんて」

「つ、剣ィィィッ!! キサマぁぁぁっっっ!!!!!」

 どの面下げて来やがったこの野郎!!

「はっはっは、どうした? 顔が引きつってるぞ?」

「お前のせいだろうが!!」

「そんなどうでも良い事は置いておくとして……」

 どうでも良いのかオイ!

「霧島、貴様は一体何をやっている?」

「……恋人同士は皆こうして手を組んでいる」

 お前はあの仲睦まじい行為をサブミッションと同じものだと思ってたのか……?

「…………ちょっと失礼?」

 

ミシッ

 

「痛っ!」

「その痛い事が貴様が雄二にやっている事だ。

 もうちょい肩の力を抜いてみろ」

「……こう?」

 っ!! 拘束が緩んだ! 今のうちに!!

 

ヒュン(剣が投げたナイフが頬の数ミリ横を通過した音)

 

 あ、危ねぇ! 決断があとコンマ一秒早かったら……いや、考えるのは止そう。

 って言うか、何でそんな物騒なモンを持ち歩いてんだよお前は!!

「それじゃあお前ら、楽しんでこいよ」

「あ、ああ……」

 って、そうじゃない!! 何とか逃げないと……

「いらっしゃいマセ! 如月ハイランドへようこソ!」

 くっ、ここの係員か!?

 もう逃げ場は無いのか!? くそっ!!

「本日はプレオープンなのデスが、チケットはお持ちですカ?」

「……はい」

「拝見しマース」

 しかしずいぶんと訛りがキツいな。外国人か? 少なくともアジア系っぽいので良く分からんが……

 

プルルルル

 

「ア、ワタしですネ。少々おマちヲ」

『「もしもし、そいつらが例のターゲットだ。最高のおもてなしをしてやってくれ」』

「剣っ、テメェ電話する必要無ぇだろ!!」

 って、そっちじゃない!! 何だその不穏当な会話は!!

「エ~、少々おまチ下サイ。(ピッピッピッ)

 私だ。例の連中が来た。ウェディングシフトの用意を始めろ。確実に仕留める」

「おいコラ。待ちやがれ」

 ウェディングシフトだと? 何度も言うように、問題のチケットは回収されたはずだが……

「……ウェディングシフト?」

「気にしないデくだサーイ。コッチの話デース」

「おいアンタ、さっき流暢に日本語を話してなかったか?」

「オーウ。ニホンゴむつかしくてワカりまセーン」

 お、落ち着け……突っ込んだら負けだ。

 とにかく、ウェディングシフトとかいうのは何か嫌な予感がする。

 全力で拒否させてもらおう。

「特別なおもてなしは要らん。入場だけさせてくれたら後は放っておいてくれ」

「そんなコト言わずニ、お世話させてくだサーイ。トッテモ豪華なおもてナシさせていただきマース」

「不要だ」

「そこをナントカお願いしマース」

「ダメだ」

「この通りデース」

「却下だ」

「断ればアナタの実家に腐ったザリガニを送りマース」

「やめろっ! そんなことをされたら我が家は食中毒で大変なことになってしまう!」

 あの母親は間違いなく伊勢海老だと勘違いして食卓に上げるだろう。

 何て恐ろしい脅迫をしてくるんだ、この似非外国人め……!

「では、マズ最初に記念写真を撮りますヨ?」

「……記念写真?」

「ハイ。サイコーにお似合いのお二人の愛のメモリーを残しマース」

「……雄二と、お似合い……」

「そういう訳だから、スペシャリストを呼んである」

 ナチュラルに会話に入ってくるお前は一体何がしたいんだ?

「…………」

 無言で俺たちの前に姿を表すカメラマン。

 ……おかしいなぁ……見覚えがある。

 どう見てもウチのクラスのムッツリにしか見えないんだが?

「ハイ撮るぞ。3・2・1、」

 

パシャッ

 

「スグに印刷しマース。そのまま待っていて下さイ」

 ……間違いなく奴はムッツリーニだ。

 ということは、他の奴も来てるのか?

「ほら写真が……

 …………」

「おいどうした?」

 引き攣った顔で写真を見る剣。

 何だ? 背後霊でも写ってたのか……?

「……早く見せて」

「あ、ああ、済まん。ほれ」

「……ありがとう。

 ……雄二、見て、私たちの思い出」

「……何だこの写真は」

「サービス加工も入れておきまシタ」

 写っているのはやや鋭い目つきをした俺とほんの少し頬を赤らめている翔子……

 そしてその二人を囲うようなハートマークと『私達、結婚します』という文字。

「…………これは…………あざと過ぎないか?」

「そう思うなら何故止めない!?」

 企業に(多分)協力してる剣ならいくらでも止められたはずだが!?

「いや、撮影をするという事自体は聞いてたんだがな、

 ここまであざといとは思わなかった」

「……お前らしくないな。

 いつものお前なら可能な限り情報を集めようとするはずだが?」

「かもな。まぁ気にするな」

 そう言われるとかえって気になるが……そんな簡単に口を割るような奴じゃないからなぁ……

「今日は可能なら楽しんでくれ。

 じゃ、また会おう」

 色々と気になるが……とりあえず進むしかないか。


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