バカ達と双子と学園生活   作:天星

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幕間 Switching Gemini

 僕が厨房ではなく接客に回っていた時の話である。

「おかえりなさ

「やっほー、偵察に来たよ~」

 Bクラス副代表、御空零っ!

 つい先ほど格好良く去っていった後に接客というのも何だか妙だが、今は勤務中。

 ……やるしかない。

「……お帰りなさいませお嬢様」

「う~ん、流石はAクラス。規模が大きいね~」

「それでは、お席にご案内致します」

「うん。ところでさ……

 

 吉井君は女装してないの?」

 

「……お嬢様、本気でおっしゃっておりますでしょうか?」

「うん。アレが仕事してれば自然とお客さんも集まるんじゃない?」

「それは本当でしょうか? お嬢様」

「ちょ、光!?」

「兄さん……もし儲かるなら、吉井君は女装しての接客に回すわ。

 どうなの!?」

「そうだな…………

 あの女装は普通の女子と遜色ないレベルだ。

 だが、そのせいで普通の女子が落ち込んでやる気を無くしてしまう恐れも……」

「そのレベルなら即決定ね。吉井くーん!」

 

ダダダダダッ(謎の悪寒に襲われた明久が厨房から一目散に逃走する音)

 

ガシッ(面白そうな事を嗅ぎつけた雄二が明久を捕獲した音)

 

ズルズルズルッ(その明久を引き摺って連行する音)

 

「は、離せ雄二!! 僕は健全な男子でありたいんだ!!」

「そうはいくか。何たってこれは大事な()()()のご注文だ!」

「い~や~だ~!!!!」

「……諦めろ明久。これは決定事項だ」

「そんな事言うなら剣も女装してみればいいさ!!

 僕の気持ちが少しでも分かるはずだよ!!」

「…………断ったら?」

「…………」

 ノープランらしいな。これなら押しきれ……

「じゃあ剣君も女装してよ。

 大事な()()()のご注文だよ~」

「キサッ、お、お嬢様、本気でおっしゃっていやがりますでしょうか!?」

「あははは、メッキが剥がれかけてるよ」

 くっ、まずは深呼吸して……

 スーハースーハー……

 ……よし。

「御空、キサマ本気で言ってるのか?」

「空凪君、完全にメッキが剥がれたわよ」

「そんな瑣末な事はどうでもいい」

「いや、良くはないでしょ。良くは」

 さて、御空は簡単に要求を撤回するような奴ではない。

 となると素直に女装するしか無いわけだ。

 しかし素直に従うのも癪だ。

 …………よし。

「じゃあ、どうせだから光も男装してみるか?」

「っっ!!」

「せっかくの機会だから、やってみたらどうだ?」

「…………断ったら?」

 僕が明久にしたのと同じ切り返し。

 だが甘い。その手は当然読んでいた!!

「お前が断るなら雄二を女装させる!!」

「おいっ!?」

「(断ったら、女子更衣室に居た事を、霧島にバラす!!)」

「キサマ俺に死ねと言うのか!!」

 いや、光は要求を呑むはずだ。

 何故なら……

「……こんなのが女装してたら確実に客足が遠のくわね……

 仕方ない。やるわ」

「こんなのって……まあいいけどよ」

「じゃ、行くぞ明久」

「あ~~~~~!!!!!」

 

  ……数分後……

 

  ……御空side……

 

 ちょっとした冗談のつもりで言ったんだけど……凄いわねコレ。

「うぅぅ……」

「…………(パシャパシャッ)」

「ちょ、ムッツリーニ!? 撮らないで!!」

 空凪君が言ってた『普通の女子が落ち込んでやる気を無くしてしまう』ってのも冗談じゃなかったのね……

 にしても空凪兄妹はまだかしら?

「「お待たせ~」」

「遅いわよ。客を待たせ……え?」

 そこに居たのは、いつも通りの空凪君と空凪さんだった。

「あの~……女装や男装は?」

「何言っている。ちゃんとしてるだろう」

「そうね。姉さんの言う通りよ」

 え? え~っと…………アレ?

「ま、まさか……入れ替わってる……?」

「何ィィィっっ!?」

「フフッ、よく気づいたな」←光

「まあ、私が姉さんって言ってる時点でバレるとは思ってたけど」←剣

「お互いの癖とかも可能な限り真似したし、ほくろとかも化粧で誤魔化してるからそうそうバレないとは思ったんだけどな」←光

 え、えぇぇぇぇぇっっっっっっとぉぉぉぉぉぉ…………

 …………

 

「ちょちょちょちょっと待って!! なにそのフルコピー具合!! どういう事!?」

「いや待て待て待て待て。入れ替わってると主張しているだけかもしれない!!」

「坂本君? 第四回戦でやる予定の外道な作戦をここで暴露しても良いんだけど……」

「よし分かった信じよう」

 本人しか知らない情報……かな? 示し合わせる事も出来るとは思うけど……

「それじゃ、接客を再開しますね。

 お嬢様? ご注文はお決まりですか?」

「あ、えっと……じゃあ……

 ……このおすすめケーキを……」

「かしこまりました。

 では少々お待ち下さい」

 ……あ、しまった! フルーツパフェを頼むつもりだったのに!!

 うぅぅ……仕方ないか……

 

『あ、空凪さん、衣装の予備なんだけど……』

『剣! 倉庫に調味料が無いんだけど……』

『ん? 分かった。付いてきてくれ』

『ん~。確かこっち。付いてきて』

『あれ? 空凪さんどこに向かって……』

『おい剣、そっちは衣装置き場じゃ……』

『『何してる(の)。早く付いてきて(こい)』』

 

「わ、私が悪かったから! 今すぐそれ止めて!!!!」

 何、何なの!? これって新手の嫌がらせ!?

「……チッ、これからが面白かったのに……」←剣

「流石に悪ノリが過ぎるわね。こんなもんにしておきましょう」←光

「は、ははははは…………」

 

 教訓、この双子は決して一緒に女装&男装させてはならない。

 ペースをどんどん乱されてこっちの精神が保たないから……


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