バカ達と双子と学園生活   作:天星

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06 協調

  ……Aクラス教室……

 

「…………客の入りがおかしい」

「ん? ……言われてみれば確かにそうだな」

「え? さっきまでと変わらないように見えるけど?」

「明久、それが異常なんだ。

 ここは飲食店企画だから、昼時に近付けば近付くほど客は増えるはずだ」

 偶然という可能性もあるが…………

「光、実際の量は?」

「えっと……確かに増えてないわね。

 微妙に減ってるような、そうでないような…………」

 『増えてるかもしれない』ではなく『減ってるかもしれない』レベルか……

 ふむ……

 

ガラッ

 

「失礼します」

 ん? 意外な来客だな。

「坂本君は……居るね」

「お前はBクラス副代表の……御空だったか?

 どうした?」

「今うちの店にクレーマーが来てて、鬱陶しいから追い払いたいの。力を貸して欲しい」

「何でわざわざ……

 っていうかそれはそっちの店の問題じゃないのか?」

「人に頼む理由に関してはチンピラに目を付けられたくないから。

 何故ここに持ち込んだかに関しては半分以上この店が関わってるから」

「どういう意味だ?」

「そのクレーマーが大声で喚いてるのがここの悪評なの」

「……随分と命知らずな奴が居たもんねぇ……

 剣、殺ってきなさい」

「おう、任せろ」

「ちょ、ちょっと待ってください? 暴力沙汰は勘弁して。こっちの店の悪評が広まるから」

 むぅ……情報提供者であるBクラスに迷惑をかけるわけにもいかんか……

「じゃ、とりあえずBクラスで様子を見るか。

 雄二と明久も手伝ってくれ」

「ああ。そのクレーマーとやらの面を拝んでやろうじゃねぇか」

「そうだね、ブチのめしてやろう!」

 いやだから暴力沙汰は……とにかく移動するぞ。

 

 

  ……Bクラス教室……

 

 

「そういえば、ここの企画って何だっけ?」

「明久、ライバル店のリサーチくらい済ませておけ。

 落ち着いた雰囲気と奇をてらわない素朴さを生かした普通な感じの喫茶店だ」

「……まあ、準備が面倒だからって事でそういう名目で手の掛からない企画にしただけなんだけどね」

 それは……ぶっちゃけすぎじゃないか?

「とりあえず、店の奥の方で待ちましょう。

 クレーマーが来たら呼ぶから」

「そんなに頻繁に来るのか?」

「ええ」

 

  ……そして3分後……

 

「来たわ」

「早いな。そのクレーマーとやらはよっぽど暇を持て余してるんだな」

「そうみたいね。こっちは良い迷惑よ」

 どれどれ?

 

 『2年Aクラスの企画は酷かったなぁ! 接客態度も最悪だしよぉ!!』

 『商品のケーキもジャリジャリしててとても食えたもんじゃ無かったよなぁ!!』

 

「……やはりあいつらか」

「知ってるのか?」

「ちょっと前にAクラスに来てたクレーマーだ。

 交渉術で穏便にお帰り頂いたんだが、痛めつけ……交渉が足りなかったみたいだな」

「一体どんな交渉術だったのよ……」

「とにかく、あいつらを追っ払えば良いんだな?」

「じゃあ早速サクッと殺っちゃおうか!」

「何度も言うようだけど……騒ぎを起こすのは勘弁して?」

「そうは言うがな、あいつらは騒ぎを起こすのが目的のようだから、完全に騒ぎを起こさないようにするのは不可能だぞ?」

「可能な限りで良い。可能な限り被害を少なく」

「…………よし、ここの女子用の制服を貸してくれないか?

 あと、身だしなみを整える類のものもあるだけ」

「良いけど……一体何をする気?」

「…………あ、なるほど。雄二、秀吉も呼んでおこうか?」

「そうだな。あいつも居た方が良さそうだ」

「結局……一体何するの……?」

 

  ……更に数分後……

 

「制服に、その他の身だしなみセット。これだけあれば十分かしら?」

「ああ。だよな秀吉?」

「ワシは何をするのかさえ聞いておらんのじゃが……」

「勿論、これを着るんだ」

「わ、ワシは着れぬぞ!? これ以上姉上に迷惑は掛けられぬ!!」

「流石にあれだけ騒動になった後でお前に動いてもらおうとは思っちゃいない」

 僕はある意味では第2の被害者なわけだし……

「着付けとか、そういうのを期待して呼んだ。

 演劇部ホープの力を見せてくれ」

「そういう事なら……手を貸せるのぅ」

「秀吉じゃないなら誰が着るの?」

「んなもんお前に決まってるだろ明久」

「…………What?」

「何? って言われてもな……

 とりあえず、雄二の作戦を聞いた方が理解出来るだろう」

「作戦っつっても単純だ。

 あの腐れクレーマー供には痴漢になってもらう」

「……ああ~、なるほど。

 悪役に仕立て上げてしまえば堂々と追い払える……という訳ね」

「そうなる。

 そこで被害者役が必要になる訳だが……」

「流石にそこまで手は貸せないわ。クレーマーに襲わせるなんて、問題しか見当たらないから」

「で、今いるFクラスのメンバーに絞られる。

 そしてさっき秀吉は除外したな。残り3人。

 まず雄二だが……明久、コレが女装した姿を2秒で良いから想像してみろ」

「……オエェェッ」

「女装が似合わないというのは嬉しいが、その反応は微妙にムカつくな」

「で、僕に関してだが、僕はもう既に面が割れている。

 それに加えて、秀吉と同じような理由で無理だ」

「え? どゆこと?」

「僕も意外と光と似てるんだよ。木下姉弟ほどでは無いが。

 迷惑を掛けるのは出来れば避けたい」

「という事は…………」

「お前が女装しろ」

「イヤァァァアアア!!!!」

 

  ……更に更に数分後……

 

「うぅぅぅぅ……」

「何というか……似合ってるんじゃないか?」

「その言葉は僕にとって何の救いにもならないんだけど!?」

「ハハッ、そりゃそうだな。

 じゃ、上手く逝ってこい」

「な、何か今微妙に発音が……」

「何を言っている、なぁ雄二?」

「そうだそうだ。発音なんざ関係ない。

 安心して逝ってこい」

「うぅん……じゃ、行ってくるよ……」

 

『お、お客様、少々宜しいでしょうか?』

『あン? 何だこんなカワイイ娘も居たのか。

 何の用だい?』

『そこをお掃除しますので、少々宜しいでしょうか?』

 

 掃除か。なかなか上手い事を言うな。

 

『ん? ああ。さっさと済ませてくれよ』

『ありがとうございます。それでは……』

『ん? どうして俺の腰に抱きつくんだ? まさか俺に惚れて

『くたばれやぁぁァァアアア!!!!』

『ぐぼわっ!!』

 

「(今だ、明久、助けを呼べ!)」

(……何のサイン?)

 

「こ、この人今私の胸を触りました!!」

 間違ってはいない。

「ちょ、ちょっと待て! 胸を当ててバックドロップをきめたのはそっちぐへあっ!!」

「公衆の面前で痴漢行為する奴が居るとはなぁ! このゲス野郎が!!!」

 おっと、先越された。僕も参加しないと。

「全くだな。良い度胸だ。……覚悟は良いな?」

「き、貴様等一体何を見ていたんだ!? 明らかに被害者はこっちだろう!!」

「黙れこの変態が!! たった今コイツはウェイトレスの胸を揉みしだいていただろう!!

 俺の目は節穴ではないぞ!!」

 何故だろう、急に節穴にしか見えなくなってきた。

「うちのクラスのウェイトレスに手を出すとはねぇ……

 副代表として許可します! 殺っちゃって下さい!!」

 お墨付きも頂いた事だし、やるぞ!!

「「任せろ!!」」

「なっ、に、逃げるぞ夏川!!」

「うぐぅっ、仕方ないっ!!」

「逃すかよぉっ!!」

「この変態野郎供が! 逃げられると思うなよ!!!」

 

  …………

 

「くそっ、逃したか」

「情報が聞き出せたら楽だったんだが……」

 とりあえず『女子に痴漢した3年の夏川と常村、どこだぁぁああ!!!』と言いながら追いかけたのでしばらくは顔を出せないはずだ。

 叫び倒したせいで場所が割れて逃げられた……というのもあるかもしれんが。

「お帰りなさい。二人とも大丈夫?」

「ああ。店に被害は無いか?」

「大丈夫よ。店に被害は出てないわ」

「そうか。多分大丈夫だと思うが、またあいつらが来たら呼んでくれ。

 ほれ、携帯だ」

「ん~……確かに連絡が付いた方が便利ね。

 はい、どーぞ」

 手早く連絡先の交換を済ませる。赤外線って地味に便利だよね。

「完了っと。じゃ、お前たちは先に帰っててくれ」

「どうした? 何か用事でもあるのか?」

「まぁ……ね」

「そうか。じゃあな」


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