「雄二、戻ったぞ。調子はどうだ?」
「ああ。ぼちぼちだ。そっちはどうだ?」
「楽勝だ。まあ、明久が少し犠牲になったが……」
「……そうか。アイツはいい奴だった……」
「ねぇ雄二!? 僕は死んでないよ!?」
「ああ、バカ正直で、バカみたいに真っ直ぐで、バカみたいに鈍感で、バカみたいに……
「一体僕は何回バカって言われるの!?」
半分くらい褒めてたんだけど……
「まあいい。次の試合までこっちを手伝うぞ」
「おう、頼んだぞ」
「ねぇちょっと!!!」
…………
「剣、ちょっと手を貸して」
「姉さんか。どうした?」
「妙なクレーマーが来ててねぇ……」
「うん?」
『オイ! このケーキマズすぎるぞ!!』
『責任者を出せやゴラァ!!!』
「…………あれは厨房責任者代理の僕に対する宣戦布告と受け取って良いんだな?」
「ええ。殺っちゃって」
「よーし雄二、殺る……って、居ないな。トイレか?」
仕方ない、一人でやるか。
……それに、面が割れてない方が良い事もあるかもしれないからな……
……
「全く、責任者はまだか! ここのクラス代表ゴペッ!」
「私が厨房責任者代理の空凪剣と申します。
何かご不満な点でも御座いましたでしょうか?」
「ふ、不満も何も、たった今ツレが殴り飛ばされたんだが……」
「おや、それは私のモットー、『パンチで始まる交渉術・改』に対する冒涜でしょうか?」
「ふ、ふざけんなよこの野郎!! 何が改ふぎゃあっ!!」
何が……改? パンチを入れる瞬間に蹴りを3発ほど入れた事だが……
「そしてこれが『キックで繋ぐ交渉術・零式』です。
更には『味覚を直す超交渉術』や『性格を矯める絶対交渉術』などが御座いますが」
簡単に言うと、異常な味覚を直して(治してではなく)やり、クレームを付けるような歪んだ性格を矯正してやるというなんとも良心的な交渉術である!!
「わ、分かった!! こっちはこの夏川を交渉に出す!!」
この坊主頭が夏川……か。覚えておこう。
「ちょ、おい常村! 俺を売る気か!?」
そしてモヒカンの常村……と。
まとめて常夏コンビだな。
制服の校章の刺繍の色を見る限りでは3年のようだが……ふむ。
「お客様方、どうします? まだまだ交渉のレパートリーは残っていますが?」
「い、いや、遠慮させてもらおう!!」
「そうですか。では……ていっ!!」
「ぐぎゃぁ!!」
「『真・プロレス技で締める交渉術』で御座います。何事も締めが肝心……ですよ?」
「お、覚えてろよ!!」
テンプレな捨て台詞を吐きながら
……さて、
「お客様方、大変ご迷惑をお掛けしました。
厨房責任者代理として深くお詫びを申し上げます」
『安心しろ~! マズい事なんて無いぞ!』
『お兄さん格好良かったよ~!』
『スカッとしたぜぇ!!』
別の意味で満足頂けたように聞こえるが、これはあくまで声が大きい部類のお客様だけだ。
なので……
「お詫びと言ってはなんですが、ここに居るお客様一名につき小ケーキを一個無料で差し上げます」
『太っ腹ぁ!!』
『ヒューヒュー!!』
何かおかしな空気になってる気がするが……客の不満の大半は解消されてくれただろう。
「ごくろーさん、剣」
「んじゃ、僕は時間まで厨房に居るから、また何かあったら呼んでくれ」
「ええ。ケーキ代を稼いでもらわなくっちゃね」
大体20人に配布するとして、販売価格が100円だったから2000円か……
まぁ、大丈夫だよな……?