「今日はこんなもんね。
皆、お疲れ様。解散よ」
「「「「「お疲れ様でしたぁ!!!」」」」」
この場をとりしきってる光の号令で解散する。
何故代表である霧島ではなく副代表(になった)光が指揮を取っているのか?
代表の霧島はサボってるというわけでは無いのだが……
雄二が連行されていないという事は、まだ見つかってないんだろうな。
となると……
「明久、ちょっといいか?」
「どうしたの?」
「例の学園長に直訴する件だが……
クラス代表の雄二も居た方が良い。
どこに居るか分からないか?」
「えっと……予想するだけなら簡単だけど……
剣にも分かるんじゃない?」
「単純に一人より二人の方が精度は高いだろうし、お前の予想の方が当たりそうだ」
「じゃあ……そうだね。
霧島さんから逃げてるんだよね?」
「ほぼ間違いなく」
「じゃあ、女子が入れないような所、男子トイレや更衣室には……
……まず居ないだろうね」
「同感だ」
あの男がそんな単純な場所に隠れる訳が無いし、まだ見つかってない訳も無い。
「だったら逆に女子トイレ……は流石にマズいから女子更衣室とかかな?」
「……なるほど。
だが割と範囲が広いな。もうちょい絞り込めるか?」
「単純にAクラスの女子更衣室じゃないかな。
近いから一番疑われにくいよね?」
「ビンゴだ」
「じゃあ早速……」
「覗き魔の二つ名を頂戴したいなら止めはしないが、そうじゃないなら適当なAクラス女子と話してから行くべきだな」
「うっ、そ、そうだね」
場所が場所だからなぁ……
雄二もそれだけ切羽詰まってるって事だと思うが。
「じゃあ光……は忙しそうだな。
あ、お~い木下姉!」
「あっ、えっと……な、何?」
「僕達は現在雄二を探しているんだが……
どうもAクラスの女子更衣室に居るっぽい」
「な、なんでまたそんな所に……」
「あえて男子禁制の所に隠れるだろうという予測だ。
居なかったら居なかったで良いから、ちょっと付き合ってくれると助かる」
「それじゃあ……とりあえず行ってみましょうか」
……Aクラス女子更衣室……
「よぉ雄二、奇遇だなこんな所で会うなんて!!」
「……一体どんな偶然があったら女子更衣室で鉢合わせするのか教えてくれ」
「まさか本当に居るなんて……」
まぁ気持ちは分からんでも無いよ。
「いやさ、お前を探し回ってたら
これを偶然と言わずに何と言う!!」
「明らかに作為が混ざってるじゃねぇか!!!」
「そんな事はどうでもいい。話がしたいからとりあえず場所を移すぞ。
木下姉、ありがとな」
「あ、うん……どういたしまして……」
……屋上……
「で、わざわざどうしたんだ?」
「このままだと姫路が転校するらしい。
主にFクラスの環境のせいで」
「環境? ……なるほど、問題点は三つか。
『設備』、『建物』、『クラスメイト』だな?」
「ああ。設備に関しては清涼祭の収益で改善、
Fクラスの評判に関しては召喚大会で姫路と島田が優勝するらしい。
建物に関しては……」
「……学園長に直訴……だな?」
「そゆこと。クラス代表として手伝ってくれ」
「OK。早速行くぞ」
……学園長室……
よし、まずはノックを……
「「失礼しまーす!」」
いやお前らノックくらいしろよ!!
ほら、開けてみたら学園長だけじゃなくて
「全く、これも貴女の差し金ですか学園長?
これではまともに話を続ける事も出来ない」
すいませんね教頭。こいつらが常軌を逸して非常識だっただけだ。
「何であたしがそんな事しなきゃならんのさ。
アンタの言ってる事は見当違いだよ」
「そうですか……それではこの場ではそういう事にしておきましょう。
では、失礼します」
そう捨て台詞を残して、教頭先生は去って行った。
何だろうなぁ、穏やかな感じでは決して無かったが……
まあいい。僕には関係無い事だな。
「んで、そこのガキ供は一体何の用だい? あたしゃ忙しいんだよ」
前も同じ事を言ってた気がするな……
「本日は、学園長にご相談があって参りました」
なっ!! あの雄二が……敬語を使っている!?
って、別に驚くほどの事でも無いんだけどサ。
「人に何か頼む時はまず名前を名乗りな」
「失礼しました。2年Fクラス代表、坂本雄二と、」
「2年Fクラス副代表、空凪剣と、」
「こちらは2年を代表するバカになります」
「ちょっと、雄二!?」
チッ、先に言われたか。
「どこかで見た顔だと思ったら、あの時のクソジャリかい。
そして残り二人が坂本と吉井かい」
「学園長!? 僕はまだ名乗ってませんよ!?」
雄二はFクラス代表として目立ってるからまだ分かるんだが……
明久の名前を知っているのは意外だな。
このヒト、生徒には興味無さそうなのにな。
「
気が変わった。話を聞いてやろうじゃないか」
話を聞かずに追い払う気だったんだろうか……?
「有り難う御座います」
「礼を言う暇があったらとっとと要件を話しな。このウスノロ」
前にも思ったが……これが教育機関の長の台詞なのか……?
「我々は、Fクラスの設備改善を要求しに来ました」
「そうかい。ヒマそうで羨ましいこった」
「Fクラスは窓はボロボロ、畳はバサバサ。
たとえるならそう、学園長の脳みそのような惨状です」
なるほど上手いたとえだ。これほどしっくりくる表現は他に無いだろう!
「この有様では学園長のように縦穴式住居で生活を送ってるような原始的な老いぼれならともかく、現代の一般的な生徒が体調を崩す恐れがあります」
僕にはここまで相手を罵倒するスキルは無い。流石は雄二だ!
「要するに、体調を崩す生徒が出てくるからとっとと教室を直せクソババア。
という訳です」
しっかしよっぽど怒ってたんだな。その気になれば普通に敬語で通せただろうに。
まぁ、あの言葉遣いじゃ無理も無い。
「……なるほど、言いたい事は良く分かった」
「それじゃあ、教室を改修してくれるんですね?」
「却下さね!」
「雄二、このババアコンクリに詰めて東京湾に捨てよう」
「落ち着け明久。環境汚染になるだろう」
「……理由をお聞かせ願えますでしょうか? 学園長」
建築基準法とか、その辺の法律を知らないはずは無いんだが……
「理由も何も、設備に差を付けるのはうちのルールさ。
今更ガタガタ抜かすんじゃ無いよ!」
まさか違法性が理解出来てないのか?
いや、そんな愚か者では無いと思うんだが……
「……と、本来なら言ってる所なんだがね」
「?」
「可愛い生徒の頼みだ。
こっちの頼みも聞いてくれるなら、教室くらい改修しても良いさね」
そう来たか……
なるほど、渋っていたのはそれが理由か。
……いや、もしかすると……
「……その『頼み』とは何でしょうか?」
「清涼祭で行われる召喚大会は知ってるかい?」
「ええ。試験召喚システムのPRの為の大会ですね」
「ずけずけと言ってくれるじゃないか……
まあいいさね。その優勝賞品は知ってるかい?」
賞品か……確か……
「トロフィーに賞状。
副賞に『如月ハイランドプレオープンプレミアムペアチケット』が2枚。
あと試験召喚システムに関係する『二つの腕輪』ですね」
雄二がチケットという言葉にピクッと反応したような気がするが……どうしたんだ?
「ほう、よく知ってるね」
「ええまあ。それで?」
「そのチケットなんだが、ちょいと良からぬ噂を聞いてねぇ」
チケットに……良くない噂……? イマイチ結びつかないな。
「如月グループは如月ハイランドに一つのジンクスを作ろうとしているのさ。
『ここを訪れたカップルは永遠に幸せになれる』ってね」
「ずいぶんと抽象的な言い方ですね。
具体的には……結婚出来る……でしょうか?」
「そういう事さね」
「そうは言いましても……結婚するかしないかなんてその人達の問題でしょう?
……まさか、カネとコネをフル活用して強引に結婚させるとか……?」
「そのまさかさ。如月グループはペアチケットで来たカップルを強引に結婚させようとしてるのさ」
如月グループってそんなブラックな企業だったのか……?
「何だと!?」
「わっ、どうしたの雄二?」
「どうしたもこうしたも、今ババアが言った事は、
『ペアチケットで来たカップルは強引に結婚させられる』って事だぞ!?」
「う、うん、言い直さなくても分かるけど……」
言い直してすらいないような……
「行ったら結婚、行かなかったら約束を破ったと結婚……
くぅぅぅ、八方塞がりじゃねぇか!!!!」
……とりあえず、放っておこうか。
「しかしまぁ如月グループも大胆な事をしますねぇ。
確かに、文月学園の生徒をPRに使えば投資に見合う収益が見込めるかもしれませんがね」
ペアチケットを使うのが同姓だった場合はどうする気だったんだろうか……?
「となると……条件はそれですか?」
「うちが築き上げてきたネームバリューを勝手に利用されるってのは気に入らないからね。
黒い噂がつきまとうのもごめんだ。
そういう訳で、『召喚大会の景品の回収』
それが出来れば教室の改修くらい引き受けてやろうじゃないか」
生徒の為とか言わないあたりなんとも正直だな。
でも、その条件だと……
「優勝者からの強奪は?」
「却下さね。譲ってもらうのも不可」
「……つまり、『設備を改善したいなら、それ相応の学力を見せつけろ』
という事ですね?」
「まぁそういう事さね」
まぁそういう事にしておこう。
「僕達が勝てば設備の改善と教室の改修を約束して下さるんですね?」
明久よ、それは突っ込み過ぎじゃないか?
「何言ってんだいクソガキ。あたしが約束したのは改修までさ。
……ただ、清涼祭の利益でどうこうするって話なら今回は見逃してやろうじゃないか」
アレ? 勝手にやっちゃマズかったのか?
まぁ、自費でシステムデスクを導入したりしたら他クラスに示しが付かないか……
ナイスだ明久!
「……学園長、ちょっと良いか?」
あ、雄二が復活した。
「何だい?」
「召喚大会は2対2の召喚獣バトル、トーナメント形式だと聞いている。
その科目は一回戦が数学、二回戦が英語……というように毎回変わると聞いているが……
対戦表ができたらその科目の指定を俺にやらせてくれないか?」
っ!! この提案は……
流石は雄二だ。僕にはまだ真似できない手法だ。
「ふむ…………
点数の水増しとかなら一蹴してたが、そのくらいなら構わないよ」
「……ありがとうございます」
「ここまで協力するんだ。当然大会で優勝出来るんだろうね?」
「愚問ですね。僕達が負けるとでも?」
「当然だな。こんな所で負けてたら俺たちが倒してきた連中に失礼だ」
「絶対に優勝しますよ! そっちも約束を忘れないように!!」
「それじゃ、任せたよ」
「「「おうよっ!」」」
…………
「ところで、今後の相談なんだが……」
「どうした?」
「さっき雄二が言ってたように、召喚大会はタッグマッチだ。
誰が出る?」
「え? 雄二と剣で良いんじゃないの?」
明久よ、真っ先に自分を除外するのは少し虚しいぞ……
「成績という意味ではそれで構わない。
だが、学園長が保証したのはあくまで教室の改修のみ。
資金は自分で稼がなきゃならん」
「……なるほど、合同企画か」
「そゆこと。指揮者クラスが2人とも大会に参加するってのはちょっとヒドい。
最悪の場合、光にそこを突かれて十分な資金が確保出来なくなる可能性がある」
「あの……光さんに事情を話して納得してもらうってのは?」
「無理だ。アイツが何の利益も無く妥協するのはよっぽどの事態だ」
交渉で優位に立つ為の妥協ならよく見るが……
本当の意味で折れるのを見たのは片手で数えられる程度だと思う。
「うぅん…………」
「と言う訳で、明久に加えて僕か雄二が参加……となる。
もちろん、参加しない方も多少は支援出来るがな」
「そういう事なら俺に任せろ。
大会には2人で参加してくれ」
「了解だ。やるぞ明久!!」
「うん!!」
…………
ピッピッピッ プルルルル
ガチャ
「もしもし? ああ、僕だ。
『あるもの』を用意して欲しい。
……うん、可能な限り迅速に」