……補習室……
現在ここにいるのは、僕と明久と木下姉弟と光。
あと、たった今起きた雄二だけだ。
「ぅん……ん? ここは……?」
「補習室だ」
「何!? 今すぐ逃げるぞ!! 俺はまだ死にたくないっ!!」
いちいち大げさだな……
「安心しろ。誰かが補習を受ける訳じゃ無い。
明久の命令に配慮して僕が完全防音の部屋を選んだだけだ」
「そ、そうか……確かに妥当な判断だな」
「そういえば、明久が姉上にして命令とは一体なんなのじゃ?」
簡単な事だよ。
いや、本人にとっては難しい事なのかもしれないけどな。
「……秀吉、さっきはやりすぎた。ごめんなさい」
「っ、なるほど、そういう事じゃったのか」
その時通話は切ってたけど、容易に想像出来るよ。
秀吉に謝れって言う明久の姿がね。
「……いや、ワシの方こそ申し訳ない事をしてしもうた。
姉上の顔に泥を塗るような真似をして、すまなかったのじゃ」
命令の内容はここまでだが……
「(剣、やるぞ?)」
「(おう。一斉に行くぞ)」
アイコンタクトで雄二と連携をとる。せーのっ、
「「二人共、本当に申し分けなかった!!」」
完璧な連携でシンクロ土下座が炸裂する。補習室の床って、固いね。
「ちょ、突然何!?」
「一体どうしたのじゃ!?」
二人に謝るのは当然の事だ。
だって……
「木下姉を装ってCクラスを挑発するように命令したのが俺で、」
「それを聞いても止めなかったのが僕だからだ」
僕に止める機会は無かったように見えるかもしれないが……作戦行動中に乱入して止める事はいくらでも出来た。
それに……あの時はここまで大事件になるなんて予測してなかったさ。
……いや、出来なかったと言うべきか。僕の危険予測の甘さが事件を引き起こした……とまでは言わないが、止められたかもしれない事は確かだ。
「つまりは……何? アンタ達がそもそもの原因だった……と?」
「……そうなる」
あそこまで罵倒しろとは雄二も言わなかっただろうがな……
ところで、木下姉はあの事に気付いてないみたいだな。
気付いていてこの態度ならある意味凄いが、木下優子がそんな性格では無いだろう。
気付いてないなら、さり気なく言っておかないとな。
「結果的にとは言え、
指揮官として
「兄さんっ!!」
「謝らない方がおかしい。
光、僕は隠すつもりなんて無いからな」
「……え? ちょっと待って?
『命の危険』って、どういう事なの……?」
気付いて無かったが故の態度に安心すべきなのか、自分がやらかした大事故に気付かなかった事を責めるべきなのか……
「……ちょっと前まで、秀吉は冗談抜きで死にかけていた。
僕と光が蘇生処置を施さなかったら死んでいただろうな」
「ど、どうして!? 何でそんな!!」
「気付かないのか?
じゃあヒントをやろうか。
秀吉が死にかけていたのは、Aクラスの廊下の上、僕と工藤との戦いが始まる前。
その時にその廊下であった事は?」
「…………
……まさか……私が……?」
最悪の可能性を自分で導き出した木下姉。
どんな感情を抱いているのか……残念ながら僕には分からない。
「ねぇ、どうなの!? 誰か答えてよ!!」
「…………ええ。そうよ」
沈黙を破ったのは光だった。
ごめんね、姉さん。辛いことを言わせてしまって。
僕が言うより、姉さんが言った方が良いと思ったんだよ。
「わ、私が……そんな……そんな事……」
でも、良かったよ。
ここで開き直られたりでもしたら、この物語は絶望するだけのものに変わっていただろうから。
「あ、姉上!」
「ひ、でよし……?」
「ワシは、この通り無事じゃから、姉上が気に病む必要など無いのじゃ!
だから……元気を出して欲しいのじゃ!!」
「ひでよし……
うっ、グスッ」
「姉上は悪くない。悪くないのじゃ。
今は……思いっきり泣いて良いのじゃよ」
その言葉を聞いた途端、木下さんは堰が切れたように泣き出した。
自分で殺しかけておいて虫が良いという見方もあるかもしれないけど、これだけ泣けるって事は、それだけ弟の事を大事に思っているんだろう。
「……さて、二人きりにしておこう。
邪魔者は去ろうか」
「……そうね」
「……うん」
「……そうだな。
しかし何か忘れているような……」
補習室の扉をゆっくりと開け、全員が出たのを確認して素早く閉める。
するとそこには……
「……お帰り、雄二」
「……(ギギギギギ)」
妙な威圧感を発しながら雄二の首がこちらを向く。
「……じゃ、約束。私の言うことを何でも一つ聞いてもらう」
「剣ィィィィィイイイイ!!!! テメェのせいで、テメェのせいで!!!」
「うん、半分くらいはスマンと思ってる。
でもさぁ……霧島が好きな相手って、女子とかじゃなくて、お前だよな?」
「なっ!!」
「えっ!?」
その反応は図星か。そして明久、マジで霧島の事を百合だと思ってたんだな……
「となると、霧島の雄二に対するお願いとは……」
「……雄二、私と付き合って」
でしょうねぇ。
「くぅぅぅぅ……俺は何度も断ってるんだが……
お前には他の奴と付き合う気は無いのか!?」
「無い。今からデートに行く」
「お、おいちょ、グギャァ!! は、離せぇ!!」
っと、これは、
「ストップだ」
「……何?」
「霧島、アイアンクローで引っ張っていくのはやりすぎだ。
極論を言えばお前が僕達にやらせているのは『暴行罪の黙認の強制』だ。
流石にそんなものまで飲む気は無い」
「…………」
表情はいつも通り無表情なのに、凄まじい眼力を感じるよ……
そして雄二はお釈迦様でも見るかのような目でこっちを見ている。正直気持ち悪い。
「睨むなよ。普通に手を組んで歩けば良いだけの事だろ?」
そして、その表情が絶望へと変化した……
「キ、貴様ァァァァアアア!!! 覚えてろよおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………
……雄二がフェードアウトしたのを確認してから口を開く。
「僕の意見では雄二も霧島に少なからず好意を寄せてると踏んでいるんだが……光、お前はどう思う?」
「えっと……そうねぇ。坂本君なりの考えがあるのかもしれないけど……」
「……ままならないなぁ……」
「えっと……ちょっと良い?」
「どうした? 明久」
「霧島さんって……女の子が好きなんじゃなかったの?」
「お前は一体何を聞いていたんだ? 違うに決まってるだろうが」
「えええええっ!?」
「遅過ぎだろ!!」
「い、いいいいやだって、才色兼備容姿端麗成績優秀と名高い霧島さんが、
バカでブサイクでアホな雄二が好きだって!?」
才色兼備が他の二つとかぶってるな……
「まぁ色々と言いたい事はあるかもしれんが……
そんな事より、お前は良いのか?」
「え? 何が?」
「振り分け試験だ」
「そ、そうだった!! また受けられるんだった!!」
「ま、ちょっと足掻いたくらいでお前が上のクラスに行けるとは到底思えんがな」
「なにおう!? 見せてあげるよ、僕の本気を!!」
お前の本気は数十分前に見たばかりなんだがな……
「ま、頑張れよ」
「うん!!」
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