バカ達と双子と学園生活   作:天星

23 / 243
22 勝者

 『おいテメェどういうことだ!!』

 『何のつもりだこの野郎!!』

 『紐無しバンジーとグロテスク、どっちが良い!!』

 『濃硫酸だ!! 目と耳と鼻に濃硫酸だ!!」

 『シュミはベンキョウ! ソンケイするヒトはニノミヤキンジロウ!!』

 

「落ち着け落ち着け」

 最後の奴は特に。

「一体どういうつもりなの!? 情けでもかけてるつもり!?」

「だって無理だもん。

 確かに僕達FクラスはAクラスに勝ったが、それだけだ。

 ここからこれ以上には出来ない」

「……そういう事か。確かにな」

 おお、雄二は一発で理解してくれたようだ。

「光、お前の言葉を借りるなら、『どこも戦争が仕掛けられる』んだ。

 それはAクラス教室を手に入れたクラス全てに当てはまる。

 現状のFクラスがAクラス教室を維持するのはかなりキツいと言えるだろう」

「でも剣、そんな事言ってたらいつまで経っても交換出来ないんじゃないの?」

 明久にしては鋭い質問だな。

「今だからこそ出来ない。

 今回の戦争で僕達は満身創痍だ。

 康太の保体は0だし、僕も同じく0点。

 これだけなら補充期間にどうとでもなるが、姫路に至ってはオール0点。

 補充期間中に終わらせる事なんて不可能だ。

 これならAクラスを一回手放して次の機会を伺った方が良い」

「その意見は俺も賛成だ。

 で、具体的にAクラスに何を要求するんだ?」

 Aクラスへの要求? それは……

「…………………………

 

 …………………………

 

 …………………………

 

 …………………………どうしようか?」

「オイッ!!」

 いやだって、延長戦なんて考えてもいなかったんだもん。

 とはいえこのままではマズい。全員が納得が行く終わり方をしないと暴動が起こる。間違いなく。

 

 では、基本に立ち返ってみようか。

 そもそもこの戦争を起こした理由からだ。

 僕の目的は『評価されなかった才能を証明する事』。

 雄二の目的はさり気なく言ったら否定されなかったので『学力が全てでは無い事を証明する事』だ。

 教室を手放すとはいえ、一応Aクラスに勝った現状ではその二つに関しては概ね満足できる。

 では、他の人の目的は?

 Fクラスの大多数はAクラス教室が欲しかったから。

 Aクラス教室は結局用意できそうにないから、満足させられる報酬をなんとかしないとな……

 明久や秀吉や康太は友人のバカ騒ぎに付き合っていた。という解釈が妥当な気がする。

 島田も同じく。姫路に至っては完全に流されてただけな気がするな。

 よく働いてくれた彼ら彼女らだが、まともな報酬は用意できそうにないな……

 …………いや、待てよ?

 あの明久がバカ騒ぎというだけであそこまで熱心に働くのか?

 あいつの性格なら部隊長なんて任命されてもサボりそうなもんだし、自分に物理的な被害が及ぶ召喚獣を使おうとはしないはずだ。

 だったらあいつには確固たる目的があった事になる。

 そういえば雄二も、試召戦争を起こす事を明久と話し合っていたと言っていたな。

 確か僕が福原先生と教卓を取りに行ってる間だったな。その時教室で何があった? 何が明久を動かした?

 

「…………そういう事か。

 これなら……いける」

「何か思いついたのか?」

(ごにょごにょ)

「っ、そりゃまた……

 たしかに理想的な要求だが……通るのか?」

「やってみないと分からないさ。

 高橋先生、藤堂学園長に会えるでしょうか?」

「学園長に? 何をするのですか?」

「いえ、ちょっと脅は……要求をするだけです」

「…………分かりました。付いて来てください」

 

 

  ……学園長室……

 

 

コンコン

 

『誰だい?』

「第二学年主任の高橋です。今よろしいでしょうか?」

『入んな』

 

ガチャ

 

 ふむ、この老婆が藤堂(とうどう)カヲル学園長か。

 教員……と言うよりも試験召喚システムの研究者……だったか?

「どうしたんだい?」

「私ではなく、こちらの生徒が学園長と話したいと」

「ん? 誰だい? アンタは」

「申し遅れました。二年Fクラス副代表の空凪剣と申します」

「あたしは忙しいんだ。とっとと要件を言いなクソジャリ」

 何て言葉遣いだ……とても学校の長とは思えないな。

 ま、貴重な時間を割いてもらっているのは確かだ。手早く済ませよう。

「僕達はついさっきAクラスに勝利しました」

「ほぅ? バカな事をやってると思ってたが、本当にやり遂げちまったのかい。

 それで?」

「学園長は良いんですか? あの優等生たちがあんなスラムみたいな教室に送られて」

「負けたのはその優等生どもの責任さね。あたしがどうこう言う気は無いよ」

 学園長はそれで良いのかもしれないが……

「ホントーに良いんですかー?

 最下層で喘ぐ優等生たちを見てPTAやスポンサーがどんな反応をするかー。

 最悪親御さんから訴えられるかもしれませんよー?」

 同意の上で学校に入っているのだから訴えられても罪に問われる事は絶対に無いだろうが、風評被害が酷い事になるだろう。

「回りっくどいガキだね。要件を言いな要件を!」

「……今回の戦争に勝利した2ーFクラス全員に、再度振り分け試験を受ける権利を下さい。

 そうすれば3ヶ月はAクラスに手を出しません」

「なんだい、そんな事で良いのかい?」

 前回の振り分け試験と比較して学力が向上している生徒はおそらく皆無なので、ほぼ全員が再びFクラスに振り分けられるだろう。

「で、どうなんです? 許可して頂けますか?」

「そのくらいなら構わないよ。

 試験日は明日明後日の土日で良いね?」

「ありがとうございます。

 では、失礼しました」

「もう来るんじゃないよ!」

 何て台詞だ……

 

  ……再び Aクラス教室……

 

「……と、言う訳で、振り分け試験の権利を貰ってきた」

 され、皆の反応は……?

 

 『くおらぁ!! どういうことだぁ!!!!』

 『設備を放棄して何してやがる!!』

 『灯油にライターとガソリンにライター、どっちが良い!!』

 『玉水だ!! 玉水に漬けてやるんだ!!』

 『シュミはベンキョウ! ソンケイするヒトはニノミヤキンジロウ!!』

 『あ、あのキミさっきから大丈夫……?』

 『女子に声を掛けられてるぞ!! 異端者だ!!!!』

  「「「「殺せええええ!!!!」」」」

 

 ……見事なまでの反発っぷりだな。

 あと玉水じゃなくて王水な。

「お前ら……そんなんだからいつまでもバカ呼ばわりされるんだ」

『なんだと!?』

『どいういう意味だ!!』

「振り分け試験が受けられる。

 つまり、Fクラスから脱出できる。(……かも。)

 それはつまり、このたった4%しか女子が居ないクラスから脱出出来る。

 すなわち……どういう事だと思う?」

 

 『つ、つまりどういう事だ!?』

 『バカ、女子がいっぱい居るクラスに転籍してハーレムルートが構築出来るんだよ!!』

 『このバカ!! それを言わなければライバルが一人減ったのに!!』

 『フザケンナ、俺たちFFF団は、全員揃ってFFF団だろ!? 幸せになるときはみんな一緒だ!!』

 『お、お前……済まなかった!! 俺が間違ってた!!』

 『シュミはベンキョウ! ソンケイするヒトはニノミヤキンジロウ!!』

 

「試験は明日明後日の土日に行われる。

 今日はすぐにでも勉強を始める事をお勧めするよ」

 無駄だとは思うが。

 

 『うおおおお!!! 俺はやるぜぇぇぇぇ!!!!』

 『イヤッハァァァアアアア!!!』

 『シュミはベンキョウ! ソンケイするヒトはニノミヤキンジロウ!!』

 

 最後の奴いい加減正気に戻ってくれないと不気味なんだが……

「……はぁ、まさかこんな方法で丸く収めちゃうなんてね。

 これならAクラスもFクラスも誰も損してない」

「Fクラスの大多数に関しては騙されているという表現の方が適しているがな」

「それでも満足してる事には変わりないし」

「……確かに。

 じゃ、戦後対談の続きと行こうか」

「え? 何かあったっけ?」

「……命令権だ。

 お前が康太に、久保が姫路に、雄二が霧島に、だったな?」

「あ~……あったわねそんなの」

 久保に至っては完全に忘れてたんじゃないか……?

「さて、今名前が出た諸君、何か要望はあるか?」

「そんないきなり言われてもねぇ……」

「空凪さんと同意見だよ。放棄しても良いくらいだ」

「以下同文だ」

 でしょうねぇ……

 あったら明久みたいにとっくに使ってると思うし。

「そこで僕からの提案だ。

 霧島、お前は何か命令したいことがあるんだろ?」

「……(コクン)」

「お、おい剣……まさか……」

「そこでだ。Aクラスの持つ二つの命令権とFクラスの持つ一つの命令権を相殺して、霧島が雄二に命令でき……」

「オイテメッふざけコペッ」

「……る権利に変えようと思うのだが、どう思う?」

 命令権なんてものを使わずに温存されたりすると後で厄介な事になりかねないからな……

 スマン雄二、これが一番丸く収まるんだよ。何か後で埋め合わせするから。

「私に異論は無いわ」

「どうせ要らなかったものだ。代表の役に立つなら構わないよ」

「……剣、そして皆も……ありがとう」

「んじゃ、最後の仕事を片付けないとな。

 明久、お前が木下姉に頼んだ事って、ーーだろ?」

「うん。そうだけど……」

「今すぐ実行させても良いが、もっと良い場所がある。

 鉄人先生! 聞こえますか!!」

 

ドドドド ガラッ

 

 速っ!!

「どうした?」

「補習室を貸して下さい。

 あそこって完全防音ですよね?」

 補習という名の洗の……教育的指導を受けた生徒の悲め……感動の叫びを外に漏らさない為の措置である。

 ……鉄人の名誉の為に付け加えておくが、これはあくまで一部の生徒の為のものだ。

「何に使うんだ?」

「……出来れば何も訊かないで下さい」

「…………分かった。お前なら悪用はしないだろうからな」

「ありがとうございます。

 じゃ、明久と木下姉、秀吉、あと光、お前も来い」

「……うん」

「……分かったわ」

「何をするのじゃ??」

「……そうね、私も居た方がよさそうね」

 明久の命令だけならこれで十分だが……

「霧島、雄二を借りてくぞ」

「でも……」

「20分で済む。命令はその後にしてくれ。

 これが終わらなきゃ試召戦争は終わらせられないから」

「………………(コクリ)」

 気が重いが……行くか。


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