バカ達と双子と学園生活   作:天星

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20 信念

『クッ……』

 雄二の悔しそうな顔が見える。

 そりゃそうだ。ここで勝っても引き分け止まり。現状では勝ち目は無い。

「……雄二」

『……何だ?』

「引き分けになった時の対談は考えておく。

 だからお前は前だけ見てろ」

『……分かった。行ってくる』

 

『それでは、最終戦を始めます。

 各クラス代表は前に出て下さい』

 さて、見せてもらおうか。君の選択を……

『坂本君、科目は何にしますか?』

『…………』

『坂本君?』

『……本来なら、ここで100点満点の日本史の勝負を仕掛けるつもりだった。

 それで俺はアイツの予想通り負けていただろう』

 

『その後、俺は今回の勝利条件についてずっと考えてきた。

 昼休みまでに考えるとアイツには言ったが、その時はまだ思い付かなかった』

 

『何も分からなかったから、とりあえずちょっと勉強してみた。

 元々ダメな作戦に、復習してなかった事が重なって更にボロボロになったからな』

 

『でも、これで勝てても、結局は学力で勝った事になる。

 学年主席である翔子よりは低い点数かもしれないが、手段に学力を使う事に変わりは無い。

 それじゃダメだ。俺にとってそれは学力に負けた事になる』

 

『だが、俺には結局これしか無かった。

 だから俺は考えた。

 学力を利用しつつも学力の象徴とでも言うべき霧島翔子(学年主席)をちゃんとした形で倒すにはどうすれば良いのか?』

 

『こんな方法をアイツが代案として認めてくれるかは分からんがな……

 で、科目の指定だったな?』

『はい』

『……翔子、お前が決めてくれ』

『!?』

 

 そう来ましたか。

 相手の得意分野で勝つって事だな。

 この学年における最高得点をそこそこの点数で倒すというのはなかなか面白い試みだ。

 だけどねぇ……僕も言い過ぎたのかもしれないが。

 

『……分かった。

 じゃあ…………

 

 

 

 

 雄二が決めて』

『な……んだと!?』

『……この最終戦においてあなたが得た科目の選択権はあなたの実力で勝ち取った物。

 ……それを利用して勝つのであれば、あなたは学力以外の手段で私に勝った事になる』

 あの時のアレは多少特殊な条件付きとはいえまっとうなテストの点数で勝つのは嫌だっていう意味だったんだがなぁ……

 ちょっと勉強したくらいじゃ学年主席の点数を上回れる訳が無いし、科目選択権くらいは自由に使って構わなかったんだぞ?

『…………は、ハハハ……本当に良いのか? 貰っちまって』

『……私は、Aクラス代表として、学年主席として、あなたを真っ正面から倒す』

 

 この二人の過去に何があったのか、正直な所僕はよく知らない。想像する事しか出来ない。

 でも、少なくとも今の二人は、心から通じ合っているように見えた。

 

『……後悔するんじゃねぇぞ?

 高橋先生、日本史でお願いします!』

『分かりました。承認します』

「「試獣召喚(サモン)!!」」

 

 [フィールド:日本史]

Aクラス 霧島翔子 389点

 

Fクラス 坂本雄二 215点

 

 流石は元神童というべきか。

 僅かな期間の復習だけでAクラスレベルまで点数を上げるとは。

 選択権を譲るくらいだから多分ほとんどの科目がこんな感じなんだろう。

 それでも学年主席には全然届いてないが。

 

「……よし、秀吉、動けるか?」

「ワシよりもお主の方がボロボロに見えてたのじゃが……?」

「なら問題ないな。Aクラスまで移動するぞ。

 西村先生、色々とありがとうございました」

「うむ、また気分が悪くなったらいつでも呼べ」

 本来は保健の先生の仕事のはずなんだけどなぁ……

 生徒の為に尽力するっていうのは鉄人らしいかな。

 

  …………

 

 決闘の邪魔にならないように静かに扉を開けて明久に声をかける。

「(戦況はどうなってる?)」

「(あ、秀吉! 無事だったんだね!!)」

「(うむ……)」

「(そ、秀吉は無事だ。で、戦況は?)」

「(えっと……見ての通りだよ)」

 それもそうか。

 

Aクラス 霧島翔子 182点

 

Fクラス 坂本雄二 45点

 

 ……びっみょー……

「(最初はそこそこ雄二が押してたんだけど、途中から霧島さんの動きが見違えるようになって……)」

「(まさか……短期間で召喚獣の動きを学習したのか?

 ……学年主席は伊達じゃないって事か)」

 それでも観察処分者よりは全然下手だろうが。

 召喚獣の扱いに関しては素人である雄二には十分って事か。

 この状況、何か出来ないか……?

 ……ま、やるだけやってみるか。

 

「雄二!!」

「っ、何だ!! 今忙しい!!」

「んなもん見りゃ分かる!!

 いいか? お前の判断は正しい!!

 科目選択権を譲った事も、一つの科目を選んで勝負した事も!!

 だから……絶対に勝てる!! 絶対に……勝つ!!」

「っっっ!!!」

 

 今の僕に出来るのはこんくらい。

「(おい明久、ちょっと寝るから、終わったら起こしてくれ)」

「(え? ちょっ!!)」

 起きてても何も出来ないから、少しでも体力を回復させた方が良いに決まってる。

 んじゃ、お休み。


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