バカ達と双子と学園生活   作:天星

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01 最低辺のクラス

 さて、時間には大分余裕がある。

 このまま2-F教室に向かっても良いが、まず間違いなく時間を持て余すだろう。

 と、言う訳で噂のAクラスの設備でも覗いてみますか。

 

 

  ………………

 

 

 うわぁ……これはヒドい。

 クラス全員分のシステムデスクとリクライニングシート。

 黒板の代わりにあるのは巨大なプラズマディスプレイ。

 壁にはやたらと豪華そうな絵画やらなにやらが飾られている。

 簡単なキッチンやその他の設備まで見えるな。

 ……一体いくらかかってるんだ……?

 更に恐ろしい事に、教室の外から割とサックリ見ただけなのでいくつか見落としがあるかもしれない。

 ま、まあきっと気のせいだろう。そう願いたい。

 

 

 

 で、自分のクラスになるFクラス教室まで来たわけだが……

 ……これは酷いな。

 堂々と中に入ってじっくりと設備を点検する。

 床は畳。まぁこれだけ聞けば『和風だね~』で済む。

 問題は、その7割近くが腐っている事だ。

 続いて机を確認する。

 ……失礼。机じゃない。卓袱台だ。いや、冗談ではなく。

 しかも結構ボロボロだ。今にも壊れそうなものがちらほら。

 特に教卓は酷い。軽く叩いただけで塵と化しそうだ。

 座布団はかなりくたびれており、座っていても痛くなるだけだろう。

 ……人数分用意されているだけでも感謝すべきなのかもしれないが。

 壁は落書きだらけだ。業者は何をしているのか……雇ってないだけか。

 窓は黒ずんだガラスが張ってあればまだ良い方で、ガムテープやラップ、新聞紙で覆われている。

 黒板はドブのように真っ黒で、所々ささくれ立っている。

 こんな黒板に黒板消しを使ったら間違いなく引っかかって壊れると思うのだが……

 ……こんな所か。

 これ……色々と法律に引っかかってそうな気がするんだが、

 一体何故訴えられないのか……

 

 

 

「一番乗り……では無かったか。

 ずいぶん早いな」

「ああ雄二、おはよう」

 

 この世の真理を思案していたら悪友が入ってきた。

 彼の名は『坂本(さかもと)雄二(ゆうじ)』。

 こいつの実力を考えればもっと上のクラスも狙えそうではあるが、彼もまたその実力を別の方向に使ったのだろう。

 

「ところで……代表はお前か?」

「ああ、当然だ」

「わざわざ最低クラスに来たんだ。それくらいやっててくれないと」

 

 各クラスの代表は、原則として各クラスの成績一位の人が任命される。

 Fクラス代表となると、学年順位は251位。

 全体で300人なので、その数値は全く褒められたものでは無いが、ジャストその順位を狙うのは並大抵の技量では無い。

 準備期間が用意されていれば僕でも出来るかもしれないが……可能不可能以前にやりたくない。面倒だから。

 

「途中退席者が出たって聞いた時は少し焦ったがな……」

「……お疲れ」

 

 この学校の二年生以上のクラス長はそこらの高校のクラス委員長とかとは比べ物にならない権限を持っている。

 まぁ、その辺は後でもっと詳しくやるだろうから、こんなもんにしておこうか。

 

「さて、どんな奴等が来るかな?」

「使える奴等が来てくれるといいな。

 当然、僕も全力で手を貸そう」

「おう、ガンガンこき使わせてもらうぜ」

 

 

  ………………

 

 

 教室の席(席?)が埋まったのは始業時刻から大体10分後くらいの事だった。

 まさか進級早々に遅刻する奴がいたとはなぁ……

 

「テヘッ、遅れてすいま……

「早く座れウジ虫野郎!」

 

 う~ん、遅れて来た奴、何か見覚えあるなぁ。

 っていうか僕の悪友の一人に見えるなぁ……

 ……うん。間違いなく僕の悪友の一人だ。

 

「よう明久(あきひさ)。お前は進級してもいつも通りだな」

「え、剣? 何でこのクラスに?」

「雄二が面白そうな事をやるんだ。

 横で見てるより一緒に参加した方が楽しいだろ?」

「??」

「ま、いいや。席は決まってないみたいだから適当に座れ」

「ああ、うん」

 

 ……あり? よく見たらまだ席が一個空いてら。

 そういえば、あいつが来てないな。遅刻か?

 多分明久よりは褒められた理由の遅刻だろうが。

 ちなみに先生も遅刻だ。運が良かったな明久。

 

 

  ………………

 

 

「え~、それでは、自己紹介を始めて下さい」

 遅れてやって来たのは福原(ふくはら)先生だ。担当科目は何だったかなぁ……まあいいか。

 

木下(きのした)秀吉(ひでよし)じゃ。

 演劇部に所属しておる」

 若干古風なしゃべり方をするこの男子は僕の親友の一人だ。

 ちなみにこいつは独特と言うか……ちょっと変わった外見をしている。

 いや、サルっぽいとかそういう事ではなく。

 ぶっちゃけ言うと……ぱっと見女子にしか見えない。

 いわゆる男の娘というやつなのだろう。一部の人間は正しく性別を把握できていないほどだ。

 双子の姉がおり、その姉と瓜二つな事も拍車をかけているのだろう。

 本人が言っていたように演劇部に所属しており、その演技力は神の領域に達しつつある。

 

「……土屋(つちや)康太(こうた)

 この小柄な男子は……分類的には悪友かなぁ……

 趣味は盗聴、特技は盗撮というとんでもない奴である。(本人は否定しているが)

 裏で色々と問題行動を起こしているが、簡単には証拠を残さないので捕まったりした事は無いようだ。

 まぁ、僕が見つけた中で流石にヤバいと思ったものに関しては全力で止めている。

 友人に手錠がかかる姿は見たくはないので。

 

島田(しまだ)美波(みなみ)です。生まれは日本ですがドイツ育ちなので日本語の読み書きはあまりできません。

 趣味は吉井明久を殴る事です♪」

 その趣味を堂々とクラス内で宣言するのはどうなんだ……?

 島田よ。読み書きだけでなく会話でも日本語が不自由だと誤解され……

 いや、普通にドSだと誤解されるぞ?

 こいつは本質的に明久を嫌っている訳ではなく、むしろ好意を抱いている。

 なので明久への暴力行為の大半は照れ隠しの類なのだが……

 照れ隠しで頻繁に関節技を掛けるというのはやっぱりSなのか……?

 

吉井(よしい)明久(あきひさ)です。

 僕の事は『ダーリン』って読んでください♪」

 

 「「「「「「ダーーリィィーーーーーン!!!!」」」」」」

 

「……失礼、忘れて下さい」

 多分、場を和ませる為のあいつなりの小粋なジョークだったのだろうが……

 まさかクラスの大半の男子が乗ってくるとはなぁ……

 このクラス……大丈夫なのか……?

 

 んで、僕の番だな。

「空凪剣。以上だ」

 え? あっさりしすぎだって?

 高校の自己紹介なんてこんなもんだろ?

 趣味は音楽鑑賞で、クラシックをよく聴きますとか言った方が良かったか?

 いや、僕には似合わないな。うん。

 ……ん?

 

ガラガラガラ

 

「お、遅れて……済みません……」

「ああ、ちょうど良かった。今自己紹介の最中ですので、お願いします」

「あ、はい! 姫路(ひめじ)瑞希(みずき)です。よろしくお願いします」

「質問があります!!」

「何ですか?」

「どうしてここにいるんですか!?」

 質問したのは……えっと……須川……じゃなくて横溝だったか? どっちでも良いか。

 捉え方によってはかなり失礼な発言だが、まあ無理は無いだろう。

 何故ならあの姫路瑞希は定期テストの上位の常連だ。

 おまけに容姿はかなりのもので、美少女と呼んで問題ない。そういう意味でも目立つ人物だ。

 最低辺クラスに来たとなれば疑問を抱くのは当然と言って良い。

「えっと……試験中に熱を出してしまいまして……」

 そして割と病弱ということもそこそこ知られている。

 他の定期テストならともかく、よりにもよって振り分け試験で体調を崩すとはな……不幸だったとしか言い様が無いな。

 ちなみにさっき雄二が言ってた途中退席者とは姫路の事だ。

 

『ああそうそう、俺も熱(の問題)が出たせいでこのクラスに……』

『ああ、化学だろ? あれは難しかったなぁ……』

『妹が事故に遭ったって心配で……』

『黙れ一人っ子』

『前の晩彼女が寝かせてくれなく……

 「「「「異端者だ!! 殺せぇぇぇ!!!!」」」」

『スイマセンウソデス!!!!』

 

 なんとも情けない連中だ。

 姫路を見習え。理不尽なルールでFクラスに落とされたのに言い訳や不平不満を一つも言ってないぞ。

「あの、えっと……」

 ……呆気に取られているという言い方の方が正しいかもしれんが。

 とりあえず助けておこうか。

「姫路、席は自由だ。とりあえず座っておけ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 と言っても一ヶ所しか残ってないがな……

 僕の右隣、明久の真後ろ、雄二の左隣だな。

 ……気が向いたら後で座席表でも作っておくか。

「ところで、体調の方はもう大丈夫なのか?」

「あ、はい。大丈夫です」

 なら何故遅刻を……?

 無理してる可能性もあるから、様子を見ておくか。

「それなら安心だね」

「よ、吉井君!?」

 ん? 過剰に慌てているように見えるのは気のせい……では無いな。間違いなく。

 …………ああ~、なるほど。

「済まんな姫路、明久が不細工で」

「ごめんね明久が変態で。驚かせちゃったね」

「ちょっと!? 二人共何言ってるのさ!!」

 補足すると上から雄二、僕、明久の台詞である。

「友人の汚点を謝るのは当然の努めだろう?」

「安心しろ、少なくとも1割は冗談だ」

「人を罵倒する事を当然の事のように言わないでよ!!

 あと残りの9割はなんなのさ!!」

 99%は小粋なジョークで、残り1%は本気だ。

 姫路を挟んで向かいにいる悪友については知らん。

「ぶ、不細工で変態だなんて、そんな事は無いですよ!!

 むしろその……格好いいです!」

 ん~……まあ明久の外見が美少年と言えなくもないのは確かだな。

 他の要素のせいで台無しだが。例えば、バカな言動とか、アホな言動とか、バカな言動とか……

 アレ? 全部同じ?

「ま、確かに見てくれは悪くないかもな。

 俺の知ってる奴にも明久に興味があるって奴が居るし」

 そんな奴居たっけ? …………ああ。あいつか。

「え? それって……「誰ですか!?」

 姫路の食いつきっぷりが凄いな……本人より勢いが良いぞ。

「確か、久保……

 

 ……利光だったかな?」

 えっと確か……

 

  久保(くぼ)利光(としみつ)

 性別:男

 姫路と同じくテストの成績上位の常連。

 但し一位になった事は一度も無かったはずだ。(姫路も同様だが)

 まぁ、一位が圧倒的過ぎるだけなのだが……その人物については後で話そうか。

 眼鏡を掛けており、見た目の印象はクールな青少年といった所か。

 

 ……こんな所か?

「……うっ、うぅぅっ……」

「おいおい泣くなよ。

 この広い世界のどこかにはお前にちゃんと興味がある女子が居るさ。

 きっと、多分、もしかしたら、1厘くらいなら……」

「つ、剣……ありが……って、殆ど望み無いじゃん!!」

 まぁ、励まそうと思ったわけじゃ無いからな。

「はいそこ静かにして下さいね」

「あ、はい。すいませ

 

バキィッ パラパラパラパラ……

 

 教卓が、塵と、化した。

 そういえば言っとくの忘れてたなぁ……言った所でどうにかなったとも思えんが。

「替えを持ってきますので暫くお待ち下さい」

「あ、手伝いましょうか?」

「助かります。ではついてきて下さい」

 できるだけ保つ奴を選んでこないと……

 

 

  ………………

 

 

「……雄二」

「何だ?」

「……予備の倉庫にも1週間使えるか怪しいものしか入ってないってどう思う?」

「………………」

 福原先生と新しい教卓を持ってきたのだが……

 倉庫には絶妙にくたびれた教卓しか無かった。

 アレを用意するのは逆に金が掛かると思うんだが……

「……格差社会って……怖いな……」

「安心しろ。お前が行ってる間に試召戦争を起こす事を明久と話し合ってた」

「お、早速やるのか?」

「ああ。早いに越した事は無いだろ?」

 もうちょい準備できるかとも思ったが……現在の状況を考えると今がベストか。

 

 

「坂本君、あなたで最後です。自己紹介をお願いします」

「やっとか。さて……」

 雄二は自分の席からゆっくり立ち上がり堂々と教卓の前まで進む。

「俺がこのFクラスの代表の坂本雄二だ。俺の事は坂本でも代表でも好きなように呼んでくれ」

 好きなように? それなら……

「赤ゴリラ?」

「はっ倒すぞ」

「ダーリン!!」

「ブチのめすぞ!!」

 好きなようにって言ったのに……

「ゴホン、諸君らに訊きたい事がある。

 Aクラスは一人一人にシステムデスク、パソコン、エアコンにリクライニングシート。

 更には菓子や飲み物も完備。

 そして正面にはウン千万するであろうプラズマディスプレイが鎮座しているわけだが………………」

 雄二は無言でゆっくりと辺りを見回す。

 

 落書きを取ったらもう何も残らなそうな壁、

 

 毒キノコでも生えてきそうな畳、

 

 窓と呼べない何か、

 

 みんなの視線を誘導するように、じっくりと見ていく。

 そして一区切り付いた所で再び口を開く。

 

「……不満は無いか?」

 

 何を当然の事を。

 言うまでも無い事だが、あえて言わせてもらおうか。

 

 「「「「「「「「「「大有りじゃぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」

 

 これで不満を持たない奴は一体どこのスラムで暮らしてきたんだという話になる。

「そうだろう!! これに関しては俺も代表として問題意識を持っている!!

 そこでだ、我々Fクラスは、Aクラスに対して、『試験召喚戦争』を仕掛けようと思う!!」

 さぁって。下克上の始まりだな!




 Fクラス座席表。
7×7+1の配置。

1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 秀 31 32 33 34 35
康 明 島 39 40 41 42
剣 姫 雄 46 47 48 49
            50

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