バカ達と双子と学園生活   作:天星

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18 強者

「おい、剣っ!! 何があったんだ!?」

「雄二……大丈夫だ。問題ない」

「いやそれ死亡フラグじゃぁ……?」

「そんな事よりだ。

 悪いな雄二、この一回戦、勝てない」

「……どういう意味だ?」

「譲れないモノがあったんで、勝手に勝負内容を決めてしまったが……

 僕の見立てでは勝ち目はゼロだ」

 現在工藤も僕も召喚を継続している。

 点数は……

 

[フィールド:保健体育]

 

Aクラス 工藤愛子 446点

 

Fクラス 空凪剣  32点

 

 うん、正攻法ではまず勝ち目は無い。

「だが一つだけ言わせてくれ。

 僕は……負ける気なんて全く無い」

「そうか……じゃあ、頼んだぞ!」

「りょーかい」

 流石は雄二だ。僕のわがままを受け入れてくれた。

 絶対に……負けられないな……

 

「ねぇ、本当に大丈夫なの?

 やっぱり中止した方が……」

「くどい。全力で……来い」

「…………分かった。全力で……行くよ!!」

 工藤の召喚獣の武器は巨大な斧。

 直撃を貰ったら、いや、掠っただけで昇天するかもしれない。

 それに加えて、現在の僕の体力は限界に近い。

 持久戦に持ち込もうとしても召喚獣の点数より先に僕の体力が尽きるだろう。

 ならどうすれば良いか?

 答えはシンプル。

「やあっ!!」

 この工藤の召喚獣の攻撃を……軽く流す。

「ッ!!」

 

Fクラス 空凪剣  4点

 

 流したつもりなんだけどなぁ……

 ま、いいや。相手の懐に入り込んだこの時に2点以上残ってれば……

 ……引き分けだ。

「リリース! ファイア!!」

 

キュボッ

 

Aクラス 工藤愛子 Dead

 

Fクラス 空凪剣  0点

 

「第一回戦、両者同時に戦死で引き分けです」

「い、今……何が……?」

 召喚獣の腕輪の能力を使うと、例外なく点数を消費する。

 では、点数が足りない時に使うとどうなるのか?

 実は2点以上あればセーフで、1点で踏みとどまる。

 1点の状態で使うと流石に戦死扱いになる。

 そういう風にプログラムが組まれている為、どんなに燃費の悪い能力でも戦死覚悟で使えば2回は使えるのだ。

 そして僕が今使ったのは『一ヶ月以内に複写した全ての能力を開放するコマンド(リリース)』と、その中にあった『超強力な熱線を放つ能力(ファイア)』だ。

 どちらも消費点数100点という極めて燃費の悪い代物だが、200点の状態で使っても2点の状態で使っても効果は全く変わらない。

 これは製作者が意図的に組んだバックドアなのか、それともただの設定ミスなのか……

 っていう解説をドヤ顔でしたかったんだけどなぁ……

 

ドサッ

 

 限界っぽいねぇ……

「ちょ、剣君!?」

「剣っ!!」

「ハハハ……これはキツいね……」

 自分の出番が終わるまで保ったっていうのは幸運だったのかもしれんがな……

「無茶しやがって、ったく」

「雄二……これ渡しとく。

 テレビ電話だ。保健室からかけるから……」

「ああ。分かった。ゆっくり休んでいてくれ」

「本来戦争中は携帯は禁止なのですが……

 悪用される心配も無さそうなので大丈夫でしょう」

 まさかあの高橋女史が特例をあっさり認めるとはな。スムーズで助かる。

「では……失礼……します……」

 ふぅ……保健室まで辿り着けると良いけどね…………

 

 

  ………………

 

 

「ふぅ、何とか辿り着いた……」

 学校の中を歩くだけで一苦労とはなぁ……

 

ガラガラッ

 

「失礼します」

「空凪か。大丈夫か?」

「西村先生、僕よりも秀吉は無事ですか?」

「ワシよりお主の方が衰弱して見えるのじゃが!?」

 ついさっきまで臨死体験してた奴に心配されるとはなぁ……

「……じゃあ、ベッドを使わせてもらいますね……」

「ああ。好きに使え」

 休めるときに休んでおかないとな……

 とりあえず……電話かけるか。

 

ピッピッピ プルルルル

 

ガチャ

 

「もしもし」

『剣か? お前の妹と、あと工藤から話は大体聞かせてもらった』

「そうか。二回戦はどうなってる?」

『そろそろ始まる。相手は木下姉、こちらからは明久を出す』

「……なるほど」

『剣っ!! 秀吉は無事なの!?』

「ああ。だよな?」

「ワシは何が起こったかすら分かっておらぬのじゃが……」

 自覚症状があったらそれこそ問題な気がするな。

『そっか……良かったぁ……』

 さて、そろそろ戦争の話をしようか。

「明久、率直に言って、お前が木下姉に勝つ確率はかなり低い」

『確かにな』

『え? 雄二?』

「逆に言えば、勝つ確率は少しなら存在する。

 お前は相手の攻撃を回避し続けろ。無理に攻撃を当てようとするな。

 相手よりお前の方が明らかに体力があるんだから、相手が疲れるのを待て。

 死力を尽くして避けまくれ!」

『……分かった。行ってくる』

 

『ところで、勝てると思うか?』

「無理。

 ……と、この戦争が始まる前なら即答しただろうがな……

 断言しよう。あいつは『勝負には』必ず勝つ」

『何か引っかかる言い方だな……』

「……試合中にでも解説するさ」

 

 

『それでは、二回戦を始めます。

 科目はどうしますか?』

『交互に行こう。そっちが決めてくれ』

『え? そうね……』

 木下姉の得意科目って……何だ?

 バランス型だから突出して良い科目って無いんじゃないか?

 そして明久もバランス型(?)だから突出して悪い科目も無いような気がする。

『それじゃあ……物理で』

 ちなみに僕なら迷い無く総合科目を選ぶ。

 補充試験は面倒だが、一番はっきりと実力差が出る科目だからな。

『では、承認します』

「「試獣召喚(サモン)!!」」

 

[フィールド:物理]

Fクラス 吉井明久 62点

 

Aクラス 木下優子 375点

 

 ふむ、流石はAクラスといった所か。

 明久は……いつも通りだな。

 点数に限って言えば……だが。

 今の僕に出来るのは祈ることくらいだ。頑張れよ、明久。

 

  ……20分後……

 

Fクラス 吉井明久 58点

 

Aクラス 木下優子 228点

 

『くっ、ちょこまかとっ!』

『………………』

 流石は明久と言うべきか……

 これが、あいつの評価されなかった才能。

 大切なものを賭けた時のあいつは強い。

「やっぱり、あいつは凄いな……これもう勝ちだろ」

『点数的にはまだまだ相手の方が余裕があるように見えるが?』

「今のままの木下姉じゃ、228点は少なすぎる。10倍はないと勝てないだろう」

『10ばっ!?』

「それもかなりボロボロになっての勝利。

 勝利と言えるかどうか怪しいレベルのな」

『……凄い予測だな……

 しかし、『今のままの』って言ったが、どういう意味だ?』

「考えてもみろ。木下姉にしてみれば6倍の点数差がある……いや、あったにも関わらず翻弄され続けてるんだ。

 しかもFクラスの劣等生相手に。

 焦らない訳が無いだろう?」

『それは……そうだな』

「木下姉が勝てるパターンは、この焦りを払拭する事。そしてそれは無意識にでも劣等生を見下す精神が直った時だ。

 それはもう、十分人として勝ってるじゃないか」

『それ、勝ったって言って良いのか?』

「お前にとって、この戦争の目的は、『学力が全てじゃない事を証明する事』のはずだ。

 十分勝ちだろ」

『……そうか。そうだったな』

「試合にも勝ってくれるに越した事は無いけどな。

 安心して、のんびりと見るとしようか」

 

 

 そして、決着が着いたのは、更に20分後の事だった。

 

Fクラス 吉井明久 42点

 

Aクラス 木下優子 Dead

 

『わ、私が……負けた……?』

『………………やった……

 やった!! 勝ったよ!!!』

 結局たった20点しか消費せずに375点を削りきったのか……

「さて雄二、僕の予想では明久はすぐに命令権を使うが……

 命令が終わったタイミングでまた掛け直してくれ」

『え? おい』

 

ピッ

 

「何で電話を切ったのじゃ?」

「……すぐ分かるさ」

 

プルルルガチャ

 

『そういう事か。確かに切った方が良いな』

「そうだ。

 あと……僕達も行くぞ」

『……そうだな』

「??? 一体何の話をしておるのじゃ??」

 お前の事なんだがなぁ……まあいいや。

 現在一勝一分。気を引き締めて行くぞ!


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