バカ達と双子と学園生活   作:天星

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09 仲間

 雄二の作戦がうまく行って、何とかここまでこぎつけた。

 3点差の満塁。ここでホームランを出せば勝ち。

 そんなマンガみたいな場面で僕の打順が回ってきたんだけど……

 

「ふぅ、助かりましたよ。僕じゃあ抑えられないみたいで」

「寺井先生、ご苦労だった。後は任せてくれ」

 

 この土壇場で、体育教師の大島先生が帰って来てしまった。

 あとちょっとだったのにっ!!

 

『プレイッ!』

 

 でも大丈夫、まだノーアウトだ。とりあえず1球目は様子見を……

 

ズドンッ

 

 え? ちょ、何今の剛速球!?

 

『ぼ、ボール!』

「おっと、外したか。入ったと思ったんだが」

 

 台詞から察するに大島先生はそれほどコントロールが良くないのかもしれない。

 けど、速過ぎる! あんなのを連発されたらホームランはもちろん、ただのヒットも難しい!

 い、今はとにかく落ち着いて、じっくり考えれば勝機は……

 

ズドンッ

 

『ストライッ!』

 

 いやいやいや、やっぱり無理だって!!

 っていうかこんなに強かったの大島先生って!?

 鉄人の印象が強すぎて全然気づかなかったよ!!

 

『タイム!』

 

 え、タイム? と思って振り返ると、雄二が主審に申し出ているようだった。

 

「一旦切るぞ明久。ちょっと来い」

「あ、うん」

 

 促されるままに雄二の下へと向かう。

 

「どうした、動きが固いぞ? ビビってるのか?」

「それは……そうかもしれない」

「お前らしくもないな。いつもの無謀っぷりはどうした?」

「失礼な。それじゃあ僕がいつも危険に突っ込んでるみたいじゃないか」

「そういう意味だったんだが……」

「なんだと!?」

「さてと、この次の打席には誰が入るか分かってるか?」

「それは勿論。雄二でしょ?」

「ああ。ちなみに、その次は?」

「えっと……剣だよね?」

「そうだ。お前が失敗しても良い……とまでは言わないが、後ろには強い奴が控えている。

 そう思えば、楽にプレーできるんじゃないか?」

「う~ん……そうなの、かな?」

「いいか? 俺たちに丸投げしろって言ってるんじゃないぞ?

 俺たちが控えているからお前の好きなように全力でプレーしろって言ってるんだからな? 分かるな?」

「…………分かった。やってみる」

「おう。それじゃ、行ってこい!」

 

 バッターボックスへと戻る。

 あの剛速球に対して、僕に出来ることは何か。

 ……よし。やってやる!

 

『プレイッ!』

 

 各選手が所定の位置に付き、試合が再開された。

 

「表情が柔らかくなったようだな。坂本に何か策でも授けてもらったか?」

 

 キャッチャーの鉄人が話しかけてくる。

 さっきまでの僕の表情ってそんなに固かったんだろうか?

 

「まあ、そんなとこです」

「そうか」

 

 鉄人に軽く返事をしてバットを構える。

 それを見た大島先生が投球モーションに入り……

 

ズドンッ

 

『ボール』

 

 さっきまでのように剛速球を投げてくる。

 

「いきなり振ってくると読んでいたんだがな」

「雄二から秘策を授けられた僕が調子にのってバットを振る、みたいな読みですか?」

「まあ、そんな所だ」

 

 大島先生にボールが戻る。

 僕がバットを構えると再び投球。

 今度はやや遅いがストライクゾーンだ。

 

ドンッ

 

『ストライッ!』

 

 見送っておく。

 コントロール重視だったせいかさっきまでよりは打ちやすそうではあったが、それでも有効打にするのは難しそうだ。

 これで2ストライク2ボール。後が無くなった。

 

「どうした? 打たんのか?」

「はい。えっと……作戦なんですよ。雄二から教えてもらったね」

 

 少しでも警戒してくれる事を願って雄二の名前を出してみる。

 鉄人がどう思ったかは分からないけど。

 

『ボール』

 

 5球目は外してきたみたいだ。

 これで3ボール。お互いに後が無くなったな。

 

「どうした吉井、ここで打てばヒーローだぞ?」

「いや、僕もなれるもんならなってみたいですよ」

 

 そう返してバットを構える。

 第6球は……更にコントロールを重視した為か更に遅い球だ。

 当然、ストライクゾーンに入ってる。

 これなら……

 

キンッ

『ファール』

 

 打てなくはない……かな?

 でも打たない。

 

「フォアボール狙いとは、随分と消極的だな」

「あ、分かっちゃいます?」

「今のスイングを見たら誰だって分かる。

 随分と勿体ない事をするな。せっかくのチャンスだと言うのに」

「勿体ない? そうでしょうか?」

 

キンッ

『ファール』

 

「さっきの雄二との会話なんですけどね、後続の選手を信じて自由にやってくれって言われたんですよ」

 

キンッ

『ファール』

 

「自由にやれと言われたなら、尚更ヒーローを目指したいんじゃないのか?」

「確かにヒーローにはなりたいですけどね。雄二が言ってたのは多分そういう事じゃないんです」

 

キンッ

『ファール』

 

「僕は、僕達は勝ちたいんです。ヒーローになる事は目的じゃないんですよ。

 だから、僕のこの打席をどうすれば有効に活用できるかを考えたんです」

 

キンッ

『ファール』

 

 そろそろ大島先生も集中力が切れてくると思うんだけどなぁ……

 

「それがフォアボール狙いか」

「それだけじゃないですよ?」

「何?」

 

キンッ

『ファール』

 

「大島先生の投球を、雄二も剣も見てるんです。目を慣れさせる事ができるし、あわよくば投球のくせとかも見抜けるかもしれません。

 先生だって借り物競争のゴールまで往復してきてちょっと疲れてるはず。少しでも体力を削れれば次に繋げられますから」

 

 大島先生から何球目かも分からないボールが投げられる。

 そして……

 

『ボール! フォアボール!!』

 

「ふぅぅぅぅ……」

「吉井、今の作戦はお前が考えたのか?」

「え? はい」

「……そうか」

 

 何だろう? 鉄人が何となく嬉しそうに見えるけど……まあいいや。

 バッターボックスに向かってきた雄二に声をかける。

 

「じゃ、雄二。後は頼んだよ」

「お前がホームラン出してくれれば楽できたんだがな……」

「ちょっと!?」

「冗談だ。任せておけ!」

 

 全員が1塁ずつ進んで試合が再開される。

 この時にムッツリーニがホームを踏んで1点入った。

 あと3点……雄二が三塁打を入れてくれれば勝てるけど……

 

『プレイッ』

 

 雄二がバットを構えて、大島先生が1球目を投げる。

 

『ストライッ!』

 

 フォアボールにリーチがかかってた時と比べて明らかに速くなってる。

 雄二、大丈夫かな……?

 いや、信じよう。きっと何とかしてくれる!

 

『ボール!』

 

 2球目は外したみたいだ。大丈夫、雄二も冷静に見てる。

 やってくれるはずだ!!」

 

キィィン!!

 

「「「っっ!!」」」

 

 バットがボールを打った音が鳴り響く。

 それを聞いた瞬間、僕を含む走者全員が次の塁へと駆け出す。

 二塁を踏んだ。ボールはまだ遠い。行けるっ!!

 

「大島先生っ!」

 

 後ろの方でボールが拾われた気配がする。それと同時にセンターの寺井先生が大島先生を呼ぶ声。

 どうやら大島先生にボールを送ろうとしているみたいだ。

 僕が三塁を踏む音と大島先生がボールを受け取る音が重なった。

 須川くんも横溝くんもベースに戻っていて、あとは僕が戻れば逆転だけど……

 

「……やめとこうか」

 

 ここは無茶をする場面じゃない。剣も控えてるし、チャンスはある。

 僕がここに居た方が剣も取れる手段が増えて楽になるはずだ。

 スクイズでも良いわけだし。

 

「さて、僕の番のようだな」

 

 剣がバッターボックスに立つ。

 頼んだよ。剣っ!

 

『ストライッ!』

 

 ……ええ~……?

 いや、そこは決めてよ!

 

「……やはり横から見るのでは割と違うな。

 だが大体把握した」

 

 ああ、様子見だったのか。じゃあ、次こそは大丈夫……だよね?

 剣がバットを構える。大島先生はボールを投げる。

 ボールは勢いよくストライクゾーンへ。

 そして剣はそのボールを捉えて綺麗に……

 

「っ、ヤバっ!」

 

 ……ピッチャーゴロになって大島先生にあっさりと取られた。

 え、ちょ、こんなの危なくて出塁できないよ!?

 まだ塁は埋まってないから止まってても平気だけど!

 

「くっ!」

 

 剣は急いでダッシュして一塁に滑り込む。

 

『セーフ!』

 

 え、えっと……とにかく、これでノーアウト満塁か。

 次のバッターは確か……

 

「わ、私ですよね。よ、よろしくお願いします……」

「タイムっ!!!」

 

 雄二の慌てた声が響き渡った。

 えっと……どうするのこれ……?


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