バカ達と双子と学園生活   作:天星

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08 実技

 保健体育の実技、つまりは召喚獣ではなく体を使った普通の野球として、試合が再開される。

 ピッチャーとキャッチャーはそれぞれ明久と雄二、対するバッターは長谷川先生。

 ぶっちゃけ負ける気がしない。

 

『ストライッ! バッターアウトッ!!』

 

 連れ出した先生、特に体育教師の大島先生が戻ってくると面倒なので、速攻で試合を進める。

 今更科目が変更になる事は無いだろうが、登録済みの教師が追加メンバーとして入る分には全く問題ないからな。

 一応時間稼ぎはしてくれているはずだが……

 

『ストライッ! バッターアウトッ!!』

 

 次のバッターの氏家先生も三振。

 その次の山田先生もあっさりと三振し、攻守交代。

 

「「「「「よっしゃぁあああっっ!!!」」」」」

 

 Fクラスのみんなから歓声が上がる。それも仕方ない。今までとんでもない力量差で圧倒してきた教師チーム相手に完封してのけたのだから。

 

「さて、後は俺たちの攻撃だけだ。延長戦になったら俺たちに勝ち目は無い。

 だから、何としても4点もぎ取るぞ!!」

「「「「おうっ!!」」」」

「では、この回の最初のバッターは……」

「あ、ウチだけど……」

 

 島田が名乗りを上げるが……

 

「今回は、土屋に交代してもらおうかな」

「……良いのか?」

「ちょっと残念な気もするけど、ウチよりも男子の方が体力も経験も多いしね。

「……そうか。康太、行けるか?」

「…………愚問だ」

 

 力強い返事を返して、康太がバッターボックスに立つ。

 

『プレイッ!』

 

 相手のピッチャーは現国教師の寺井先生。

 学生時代に野球をやってたとか何とか。まぁ、雄二に聞いた話なんだが。

 そしてキャッチャーは鋼鉄の西村先生。

 どうもクロスプレーを警戒しているようだな。まぁ、ラフプレーで痛めつけようとしてたわけだからな。当然の判断と言えるだろう。

 日頃のアホな行いが結果的に良い方向に働いているというのは少々複雑な気分だが……今は鉄人がピッチャーでない事を素直に喜んでおこう。

 

 寺井先生が球を投げる。

 その球は……ストライクゾーンからかなり外れていた。

 

『ボール』

 

 康太は当然のように見送る。

 

「うわぁ……結構勘が鈍ってるなぁ……

 すいません、西村先生」

「いや、仕方ないだろう。落ち着いて投げてくれ」

 

 いくら経験者でも寺井先生は現国教師だからな。いきなり投げて正確に投げられるわけがない。

 

 2球目、これはストライクゾーンに入る。

 康太はあっさりと打ち返す。

 

キンッ

 

 そして1塁まで進んで止まる。

 この調子なら行けそうだ。

 

『うおぉおおお!! やったぞムッツリーニ!!』

『これなら勝てる! 絶対勝てる!!』

 

 っておい、フラグ立て止めい!

 

「次は俺だな。行くぜ!!」

 

 次打席のバッターとして立ち上がったのはFFF団会長こと須川。

 康太が作った流れに乗れるよう、意気揚々とバッターボックスに立つ。

 

『ストライッ!』

 

 そして、あっさりとストライクを貰う。

 

「ぐっ、速っ!

 だが、まだだ!!」

 

『ストライッ!』

 

 これであっさりと2ストライク。おい、ちょっとダサいぞ。須川亮。

 

「ふ~、大分勘が戻ってきましたよ」

 

 マウンドに立つ寺井先生が言う。

 なるほど。向こうは段々と調子を上げているのか。なら仕方あるまい。

 

「くうっ、だが、俺は、負ける訳には、行かねぇんだよぉっっ!!!」

 

 3球目が投げられる。

 キッチリとストライクゾーンに入ってるボール。

 それを須川は……

 

キィーン!

 

 良い音を響かせて打ち返す。

 

「よぉっし!!」

 

 須川と康太が1塁ずつ進む。

 良い感じだ。

 

「俺も須川に続くぞ!」

 

 次のバッターは横溝。須川がさっきやっていたように意気揚々とバッターボックスに立つ。

 そして1球目が投げられる。

 

キンッ

 

 一応当たったが、高く上がってしまった。外野フライ、かな?

 横溝は一応一塁へ走る。須川と康太は捕球されても問題無いようにほどほどの位置で止まる。

 そして……

 

『あっ』

 

 外野の先生が球を取り損ねた。

 

「二人共! 走れ!!」

 

 ベンチから雄二の指示が飛ぶ。

 球が返ってくる前に何とか二塁、三塁を踏みセーフに。

 

「ふ~……あの先生、故意落球じゃないだろうな……?」

 

 いや、明らかに捕球した方が良い場面だからそんな事は無いと思うが、結構ドキッとしたぞ。

 

「あの、空くん、故意落球ってどういう事ですか?」

「ん? 読んで字の如し、故意の落球だが?」

「そうじゃなくて、何で故意に球を落とすと良いんですか?」

「ああ、そっちか。

 じゃあまず、フライによるアウトは分かるか?」

「えっと、ああいう高く上がった球を直接取るとアウトになるんですよね?」

「正確にはバットに当たったボールが一度も地面に触れずに捕球されたらな。いやまぁ、これも正確ではないんだが……まあいい。

 つまり、落球した場合はバッターはアウトにならず、一塁に進塁する義務が生まれる。

 ここまでは良いか?」

「はい」

「で、一つの塁に二人以上居る事はできないから、一塁の人は二塁へ、二塁の人は三塁へ進む義務が生まれる。

 分かるか?」

「そうですね」

「そうなると、例えば三塁を潰せれば、三塁へ行こうとした人はアウトになる。

 ちなみにこれをフォースアウトと言うらしい。

 ではこれを踏まえて、故意落球からの捕球、そして速攻で三塁、二塁、一塁の順に球を送るとどうなる?」

「え? えっと……まず二塁から三塁に行こうとした人がアウトになって、次に一塁から二塁に行こうとする人もアウトに……あれ?」

「……一気にアウトカウントが増えるんだよ。

 ここでバッターもモタモタしてたら三重殺すらあり得る。今回はそんな事は無かったがな」

「なるほど。つまり、故意落球は有効な事もあるんですね」

「滅多に無いけどな」

 

 故意落球は『フォースの状態の走者が居る』かつ『速攻で球を返せる』っていう二つの条件を満たしていないと有効ではない。

 それ以外の場面では普通に取った方が良いに決まってる。問答無用で1アウト確定させ、更にリタッチの義務まで発生させられるんだからな。

 あの先生も普通にミスして落としただけっぽいし。

 

 まあいいや。これで無死満塁。しかも3点差。

 さて、この場面でのバッターは?

 

「それじゃ、行ってくるよ」

 

 そうか。明久か。凄い所で回ってきたな。

 

『かっ飛ばせ吉井!!』

『逆転満塁サヨナラホームランだぁ!!!』

 

 クラスの連中の声援を受けてバッターボックスに立つ。

 この打席で、決めてくれ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ちょっと待ったぁっ!!』

 

 って、誰だこんな時に!!

 声のした方へ振り向く。

 そこには……

 

「待たせたな。ピッチャー交代だ!」

 

 ……こんな所で帰ってきちゃったよ。

 体育教師の大島先生が。


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