バカ達と双子と学園生活   作:天星

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17 代償

  ……午前10時 Aクラス戦開戦時刻……

 

「両クラスとも、準備は宜しいですか?」

 今回の立会いの教師は高橋先生だ。

 お互いに指定する科目で戦う事になるので、全科目の承認権限を持つ学年主任が担当するのは妥当な判断だと言えよう。

「問題ない」

「……いつでも行けます」

「それでは、第1回戦を始めます。両クラスの1人目は前に出てきて下さい」

「秀吉、行けるか?」

「うむ、全力を尽くすのじゃ」

 こちらからは秀吉。で、相手は……

「それじゃ、私が行くわ」

 木下姉か。姉弟対決だな

「お主、今おかしなことを考えなかったかの?」

「少なくとも僕はちゃんと(あね)(おとうと)対決って思ったぞ。

 他の奴はどうか知らんが」

 決して姉妹対決ではない。

「出来れば他の人も否定して欲しかったのじゃ……」

「ハハッ、頑張って行ってこい」

「うむ!」

 返事をして舞台に上がる秀吉。

 正直言うと勝てるとは思えないんだけどね。精一杯頑張ってほしい。

「それでは、科目を指定して……

「すいません、ちょっとだけ時間を取らせて下さい」

「? 良いですよ」

 木下姉が待ったをかけた。

 一体何が……

 

ゾクッ

 

「ッッッッ!!!」

「(剣? 大丈夫か?)」

 これは……大丈夫じゃないかもしれない……

 

「ところで秀吉」

「何じゃ? 姉上」

「Cクラスの小山さんって、知ってる?」

「はて? 誰じゃ?」

 

 うん、秀吉は知らないかもしれない。

 あの時は、名前を知る必要すら、無かったから。

 

『じゃ、いいや。その代わり、ちょ~っとこっちに来てくれる?』

『うん? どうしてワシを廊下に連れ出してどうするんじゃ?』

『うん、ちょっとね』

『姉上、どうしてワシの腕を掴むのじゃ?』

『アンタCクラスで何を仕出かしてくれたのかしら?

 どうして私がCクラスの人を豚呼ばわりした事になってるのかなぁ?』

『それはじゃな、ワシなりに姉上の本性を推測して……

 あ、姉上っ!? その関節はそっちには曲がぐぎゅみゅ』

 

ガラガラガラ

 

「秀吉は急用ができたから……

「どけっ!!」

「キャッ!」

 大丈夫じゃないよ。決して大丈夫じゃない。

 僕の直感がこれほどまでに危機を訴えたのは未だかつてない事だ。

「秀吉ぃぃぃっっ!!!」

 廊下に横たわっている秀吉の状態を確認する。

「……おい、マジか?」

「剣っ!! 秀吉君は!?」

「光、丁度良かったよ。今すぐにAEDを持ってきてくれ」

「っ!? 分かった!」

 冗談抜きで心臓が止まってる。

 こういう時は確か……心臓マッサージを……

「剣っ!!」

「光、パス!」

「ダメだった」

「何!?」

「高橋先生によれば……」

「……現在この学校に置いてあるAEDは故障中です」

 んなバカな……

 だが嘆いても事実は変わらない、どうすれば、どうすれば良い……?

「…………!!

 剣!! あんたの召喚獣って…」

「観察処分者仕様、物理干渉あり、フィードバックあり、

 それがどうした?」

「腕輪の能力は?」

「………………

 今使えるのは保体、数学、化学、英語、日本史だ」

「保体ね。間違いないのね」

「誰だ!!」

「愛子!!」

「よし、高橋先生、保健体育のフィールド!!」

ガラガラッ

 この間10秒未満。正に以心伝心だ。

 他の人には全く伝わらないだろうが、今はとにかく時間が惜しい。

「で、ですが……

「早くしろ!!」

「は、はい、承認します!」

「連れて来た!!」

「えっと……一体何がどうなってるの?」

「召喚だけしてくれてば良い。そうよね?」

「ああ。急げ!!」

「じゃあ……試獣召喚(サモン)

試獣召喚(サモン)!!」

 

[フィールド:保健体育]

 

Aクラス 工藤愛子 446点

 

Fクラス 空凪剣  400点

 

 この科目って振り分け試験の時に受けた奴だなぁ……

 あの時のくじに感謝しないと。

「トレース!」

 僕の召喚獣の腕輪の力。これを使えば……

「チャージ……クリアっ!」

 

ドンッ

 

「これは……何をしているんですか?」

「兄の腕輪の能力は『複写』です。

 愛子の腕輪の能力である『電撃』を複写して除細動器の代わりにしているんです。

 今の兄に話しかけないで下さいね? 慣れない操作にかなり集中してるはずですから」

「はぁ、はぁ……チャージ……クリアっ!!」

 

ドンッ

 

「ふざけるなよ……こんな所で親友を失うなんて……絶対に認めない!!」

 心臓マッサージとか、その他の蘇生措置はかなり適当だ。だが……

「絶対に……認めないっ!! クリアっ!!」

 

ドンッ

 

とくっ、とくっ……

 

「戻ったか!?」

「呼吸は!?」

「まだだ!!」

「っ!!」

 光がすかさず人工呼吸を施す。

 頼む……戻ってこい!!

「…………戻った……みたい」

「がほっ、げほっ……む? ワシは……」

「秀吉、無事か? 無事なんだな!?」

「む? どうしたのじゃ? そんな血相を変えて……」

 危機は脱したらしいな。ふぅ…………

「秀吉、保健室まで、歩けるか?」

「うむ、大丈夫じゃが……」

「じゃ、保健室で休んでてくれ。

 もうちょっとしたら行くから」

「ちょっと!? 一人で歩かせる気なの!?」

「逆に訊こう。これ以上騒ぎを広める気か?」

「うぐっ」

 今回の件はぶっちゃけ『殺人未遂事件』だ。

 実際はただの姉弟喧嘩だが、これを下手に広めたら……どうなるかは分かるな?

「まぁお前の意見も一理ある。

 信用できる人物を呼ぶとしよう。

 西村先生!! 近くに居ますか!?」

 すぐに足音が聞こえてくる。

「どうした剣? お前が俺の事を西村先生と呼ぶなんて」

「んなことどうでも良いですから、秀吉を保健室まで運んで頂けないでしょうか?」

「別に構わんが……なぜ自分で連れていかないんだ?」

「愚問ですね。このあと試召戦争があるからに決まっているでしょう」

「ちょ、この状況で続ける気なの!?」

「……この事件は、Fクラスがあの場所に立つ為に支払った、いわば代償だ。

 こんな所で止めたら、ここまで勝ってきた意味が無くなる。

 このまま続行する!!」


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