バカ達と双子と学園生活   作:天星

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07 遅延

 その後も試合は進んでいき、現在は4回の裏だ。

 点数は3-0で負けている。

 

『ストライッ! バッターアウトッ!』

 

 そしてこれで2アウト。

 現在時刻は14:27。

 次のバッターは秀吉だ。

 

「……秀吉、行けるか?」

「行けるも何も、やるしか無いのじゃろう?

 全力を出してくるのじゃ」

「……何か、今のお前って凄く男らしかったぞ」

「そ、そうかのぅ?」

「ああ。頼んだぞ」

 

 今の僕達には秀吉を応援するくらいしかできない。

 交代要員を出すという手は無くもないが、それで劇的に変わるわけでも無いしな。

 

『ファール!』

 

 教師の剛速球に対して、秀吉はコンパクトにバットを振って弾く。

 さて、どれだけ保つか。

 

『ファール!』

 

 向こうのピッチャーはかなり慎重なのか、ボールを殆ど出さない。

 それに加え、ショートとセカンドには寺井先生と大島先生が居る。

 それぞれ野球経験者と体育教師。僕達の点数であの壁を越える事はほぼ不可能。

 

『ファール!』

 

 よって、秀吉がこの回の最後のバッターになるだろう。

 あとほんの少しのはずなんだが……

 

『ファール!』

 

 現在時刻は? 14:29分。

 もうちょい、もうちょいだから耐えてくれっ!!

 

 球が投げられる。

 そして……

 

キンッ

 

「っ!!」

 

 打球は横にそれてファールにならず、フェアになってしまった。

 そしてあっさりと討ち取られる。

 

『バッターアウトッ! チェンジ!!』

 

 足りなかった。

 秀吉は所定の時間まで第四回を引き伸ばす事はできなかった。

 

「皆……すまぬ」

「……いや、まだだ。まだ第五回は始まってない。

 こっから更に引き伸ばすっ!!」

「そんな事ができるのかの?」

「やるしか無いだろ? やってやる!!」

 

 第五回が始まる前に鉄人の下へと駆け寄る。

 

「どうしたお前ら。早く守備の準備をしろ」

「その前に、鉄人先生に少々お尋ねしたい事があります」

「西村だ。で、何だ。手短にな」

 

 時間を潰せれば話題は何でも良いわけだが……アレを訊いておこうか。

 

「西村先生は、僕達から没収した品は全て把握していますか?」

「誰が没収したと思ってる。全てを完全に暗記しているわけではないが、誰がどんな物を持ってきたかくらいは把握している」

「……では、他クラスはどうですか? 例えばAクラスとか」

「俺の担当ではないからな。把握していない」

「……そうですか。では、Aクラスの担当の人に言っておいてください。

 『ふざけるなよクソ野郎』と」

「ちょっと待て、一体何があったんだ!?」

「この学校の持ち物検査は厳しいとは思っていましたが、決して理不尽とまではいかなかった。

 ですが、今回の件は違いました。持ち物の中身も確認せず、大事な物を一方的に取り上げられた生徒が居ました」

「……どうやらその話、じっくり聞いた方が良さそうだな。

 だが今は試合中だから後で……」

 

 鉄人がそこまで言った時だ。それは起こった。

 

『……ジジ……ジ……』

 

 スピーカーの発するノイズ。

 これだ。これを待っていた!!

 

『これより、中央グラウンドにて、借り物競争が始まります。出場選手に皆さんは所定の場所に……』

 

「「「「来たぁっっ!!!!」」」」

 

 クラスの連中が歓声を上げる。

 

「西村先生、先に謝罪しておきます。

 今の会話、時間稼ぎに使わせていただきました」

「何だと?」

「ですが誤解なさらぬようお願いします。今の会話に虚偽は一切含まれていません。

 どうせ試合の後に言おうと思っていた事ですから」

「……それで、何でそんな時間稼ぎをしたんだ? お前たちの事だから何か考えがあるんだろう?」

「ご心配なく、あと数秒で分かります」

 

 そして予告通り数秒後、Fクラスの生徒がやってきてこんな事を言った。

 

『遠藤先生! 借り物競争です! すいませんが一緒に来てください!!』

『え? でも、これからリーディングの立会いが……』

『急いでください!!』

『で、でも……』

『ダメですよ! だって今日は野球よりも本競技が優先されるんですから!!』

『『『っっっ!!!』』』

 

 小癪な事に、事前にルールで明言されてるからな。

 もちろん雄二の計算通りだ。

 

『えっと、それじゃ、すいません! 行ってきます!!』

 

 今からルールを変更でもしない限りはこれを止める事は不可能。

 そして言うまでもなく、こんな急にルールを変更する事も不可能だろう。

 いや、不可能ではないかもしれないが、確実に生徒の反感を買う。それは教師としては避けたいだろう。

 

「……それなら他の教師に立会いを……」

 

『竹中先生! お願いします!』

 

 まあ、当然他の先生にも手を回してある。

 今回のルールでは各チームの各11名のみが試合に参加可能。それに加えて、5名の立会い教師が事前に登録されている。

 なお、野球大会仕様の召喚フィールドは展開しつつ召喚するという事はできないようだ。フィールドの半径を広げるのに結構無理しているのかもしれない。

 更に、一回の試合の別の回で同一の科目を使う事も禁じられている。

 結論を纏めると、第五回の立会い教師+出場登録されているメンバーのうちの2名を除外してしまえば召喚獣による9対9の試合は不可能になる。

 つまり後一人除外……あれ? まだなのか!?

 

「ああったく、Fクラスの奴ら速過ぎだろっ!」

「お、お前はっ!!」

 

 フィールドに現れたのは、Bクラス代表の根本恭二だった。

 

「大島先生! 借り物競争です。付いて来てください!」

「何だと? なら紙を見せてくれ」

「俺がつまらない嘘を吐くと思ったんですか? ほら、どうぞご覧下さい」

 

 根本が堂々と紙を突きつける。

 大島先生が苦々しい顔をしているので、運良く引き当てたという事だろう。

 

「くっ、仕方ない。

 すいません、なるべく早く戻ります!」

 

 大島先生も退場する。

 これで布陣は整った。

 

「おやおや、立会いができる教師が居なくなってしまいましたね」

「白々しいな。全部坂本の作戦か?」

「そのとーり。

 ところで、状況の把握はできてます? 召喚獣を使って野球を続行しようとすると先生方は8人で戦う事になるわけですが……」

「こちらには8人で試合をしろと?」

「まさか! まだあるでしょう。9対9で戦える科目が」

「何を言っているんだ。立会いの教師が居ないとお前がさっき言ったばかり……」

「だから、立会いの教師が居なくてもできる科目があるって言ってるんですよ。

 雄二!!」

「ああ。こいつだよ!!」

 

 グラウンドに、事前に借りておいたグローブを入れた箱がドスンと置かれる。

 

「体育の、実技で勝負と行こうじゃないですか」

 

 現在の点数は0-3。あと4点を取れば勝てる。

 さぁ、反撃の準備は整った。最終回で勝利をもぎ取るっ!!


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