競技の合間の休憩時間、僕は一人である場所に来ていた。
……のだが……
「やっと見つけましたよ空くん。こんな所で何してるんですか?」
「……お前こそどうしてここに居るんだ?」
僕は振り返ることもなく瑞希の声に応じる。
やっぱ呼び名を決めておいて良かったな。誰の声か簡単に分かる。
いや、そもそも声を聞くだけで誰の声かは分かるのだが。
「私が空くんの隣に居るのに理由が必要ですか?」
「……今のは会話の繋ぎとしての台詞だ。本気で問う意味は無い」
「繋ぎが必要なら、質問に答えるだけで十分なのでは?」
「なら言わせてもらおう。見れば分かるだろう?」
「……確かにそうでしたね」
僕は現在、3-Eと3-Fとの試合を観ている。
この試合に勝った方が次の試合で2ーFクラスと戦う事になるのだが……
「えっと……同点……でしょうか?」
「ん? 野球のルールは分からないんじゃなかったのか?」
「流石に点数くらいは読めますよ」
「ははっ、そりゃそうか。
現在、延長戦の最中で7回の裏なんだが……このまま無得点なら引き分け、つまり両者とも敗退になる」
「それは、試合が一つ少なくなるって事ですよね?」
「ああ。このまま行けばな」
そして数分後、あっさり決着は着いた。
『7回裏まで行って同点だったので、両者引き分けとします!
それでは、姿勢を正して、礼!!』
『『『『『『『『ありがとうございました!!』』』』』』』』
「……終わったようだな。
では、次の試合は……えっと……」
「一回戦は順当に2-Aと3-Aが勝ったみたいです。
そのうちの勝ったほうと試合になりますね」
「……ありがとう」
「いえ、どういたしまして」
まさかこの僕がフォローされるとはな。
「確か、各学年のAクラスとBクラスが戦ったんだよな?」
「はい、そうでしたね」
「って事は2-Bは負けたのか。順当ではあるんだが、御空がねぇ……」
「空くん、御空さんの事を随分と気にしてますね」
「ん? 嫉妬か?」
「はい」
「堂々と言う事ではなかろうに。
まぁ、お前が心配するような事は何も無い。
戦力としても人間性も信用に値する人物だが……行動原理が根元の部分で僕と食い違ってるからな」
しかもお互いに頑固だから決して譲らないという。
……自分で言う事ではないが。
「よく意味が分かりませんけど……空くんがそう言うなら大丈夫ですね」
「ああ。さて、本競技の方に戻るか」
……その後の競技は1500m走、綱引き、棒倒しだったが……
日頃から実戦で鍛えて(?)いるFFF団にとっては1.5kmなど短距離でしかなく圧勝。
綱引きは、誰一人サボらないように『手を抜いた者はムッツリ商会からの物品等購入権を永久剥奪する』と脅は……説得する事で圧勝。
棒倒しも、ゾンビのように不屈の心を持つFFF団の強者達のゾンビアタックにより大体の敵チームが恐怖に慄き圧勝した。
……おかしいな。スポーツマンっていう意味ではEクラスの方が優秀なはずなのに……
……じ、実戦とスポーツは違うって事かな! きっと!
そんなこんなで時間は過ぎていき、野球大会第三試合の時間に。
Fクラスの出場メンバーを集めた雄二が声を上げる。
あ、僕も参加するよ。第二試合は不戦勝だったし、よっぽどイレギュラーな事態が発生しない限り体力は大丈夫だろう。
「次は第三試合、あと2回勝てば優勝だ!!
お前ら、張りきっていくぞ!!」
「「「「「おおおおーーー!!!」」」」」
「で、雄二、次の相手は?」
「どうやら3-Aらしいな」
雄二の発言に対して、島田が疑問の声を上げる。
「え? っていう事は、2-Aは負けたの?」
「そうらしいよ。絶対倒してほしいって優子さんからさっきメールがあったし」
「ワシも光からメールを貰ったのぅ」
「……妹よ、僕には何も無いんだな……」
「まぁ、光じゃからのぅ……」
「そうなんだがな。何かこう……」
ピロリン
「あ、僕だ。失礼」
こんな時にメールが。誰からだろうか?
From 御空 零
To 空凪 剣
sub 最後の希望
本文
どうも2年で生き残ってるのはFクラスだけになったみたいね。頑張りなさいよ~。
あと、どうせ坂本くんの事だから何かあくどい事考えてるんでしょ? 場合によっては手伝えるかもね。
あ、報酬は応相談ね~
「………………」
応援メッセージ……なのかなぁ……?
報酬……没収品の事だろうな。間違いなく。
とりあえず、携帯電話を無言で代表に投げ渡す。
「おわっと、何するんだ!!
…………あ~なるほど。場合によっては動いてもらうかもしれんな」
雄二は僕に携帯電話を投げ返し、話を再開させる。
「で、対3-Aの具体的な作戦だが……
……奴らの召喚獣を殺そうと思う」
「なるほど。最悪の場合相打ちでも良いから相手を戦死させる事で乱闘騒ぎにして失格にさせたり、強制的に補充試験を受けさせてモチベーションの低い三年の連中に棄権してもらうっていう策か。秀逸な策だな」
「その通りなんだが俺に順序立てて説明させてくれ。他の連中が処理落ちしてるぞ」
そう言われて周りを見回すと雄二の言う通り、ほとんどが処理落ちしてるようだ。
……一人を除いて、だが。
「え? 普通に分かりましたけど?」
「分かったのか!? 姫路が!?」
「はい。要するに、デッドボールや強引なラフプレーを行う事で相手を戦死させれば良いんですよね? もちろん、故意だと思われないように」
「そ、そうだが……」
「あと、それを行う事でどうなるのか、何故そうなるのかまで説明する事もできますけど、実行役は理由まで知る必要性は無いですよね。今言った方が良いなら言いますけど」
「……お、おい剣、お前あいつに何をしたんだ!?」
「特に何もしてないはずだが」
「嘘つけ!!」
ホント何でこうなったんだろうなぁ……
「と、とにかくそういう事だから、よろしく頼むぞ」
「はい! 頑張ります!
……でも、私に上手くできるでしょうか……?」
「あ、ああ、う~む……」
躊躇い無く返事をする瑞希を見て雄二が躊躇う。
「……いや、姫路にはいざという時にやってもらう仕事があるから、反則行為はせずに真面目にやってくれ」
「はい、分かりました!」
「い、今間違いなく『反則行為』って明言したわよね……?」
「きっと、気にしてはならぬのじゃろう……」