バカ達と双子と学園生活   作:天星

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召喚野球大会編
プロローグ


 夏休みも終わり、再び学校が再会された。

 その学校のC教室の中で僕と明久は向かい合っていた。

 

「明久、準備は良いか?」

「うん、もちろんだよ」

「……僕が言っているのは、辞世の句は用意出来たかという意味だが?」

「それはこっちの台詞だよ。早く始めよう」

 

 明久の顔を覗き込む。

 そこには覚悟を決めた男の顔があった。

 

「ならばこれ以上は語るまい。

 行くぞっ!!」

 

 そして、僕達はテーブル()の上に手を置き、宣言する。

 

 

 

 

 

 

 

「「スタンドアップ!『マイ』ヴァンガード!!」」

 

 まぁ、要するに、カードゲームで遊ぶだけなのだが。

 

 

----------

 

 ※ 以下、ダイジェストでお届けします

 

 

「これで決めるっ!! 『すのうがる』のブースト、『マジェスティ・ロードブラスター』でアタック!!

 更に、スキル発動っ! 『ブラスター・ブレード』と『ブラスター・ダーク』をソウルへ、パワー+12000、クリティカル+1っ!!」

「完全ガードだ」

「なっ!!」

「ではこちらのターンだな。スタンド&ドロー。

 ほう? このカードが来たか。ならば良かろう。

 大いなる竜よ、深淵なる(カルマ)を以って転生し、全てを喰らい尽くせ!

 クロスライド!! 『蒼嵐業竜 メイルストローム “Я”』っっ!!!!」

「り、リバースユニット!?」

「そして、アタック、アタック、アタック!!」

「がっ、ガードっ!!」

「行くぞ、リミットブレイク!! 自分のリアガードを一体レストしてから呪縛(ロック)!!

 これでヴァンガードにパワー+5000、クリティカル+1!

 合計の攻撃力は18000!

 更にブースト、これで26000っ!

 そしてトリガーを2枚引けば36000だ!!」

「いやいやいやいや、何でトリガー2枚引く前提なの!?」

「行けっ、ヴァンガードにアタック!!」

「くっ、ノーガード!!」

「ツインドライブ、ダブルクリティカルトリガー!

 さぁ、イメージするが良い。絶対的な力に為す術なく蹂躙される脆弱な貴様自身の姿を!!」

「ぐあぁぁぁああああっっ!!!」

 

 

----------

 

 

「こ、今回は僕の負けのようだね」

「なかなかに良いイメージだった。一歩間違えてれば僕がやられていただろう」

「そ、そうかな?」

「当然だ」

 

「……あ、あの~……」

 

 明久と健闘を讃え合っていると瑞希が遠慮がちに声を掛けてきた。

 

「ん? どうした?」

「二人共、一体何をやってるんですか……?」

「何って、見て分からないの?」

「分からないから訊いてるんですよ!?

 っていうかどうして分かると思ったんですか?」

「何だ分からないのか。まだまだイメージが足りないな」

「分かるわけ無いでしょう!? だって……

 

 ……二人とも何も持たずにはしゃいでるようにしか見えませんでしたよ!?」

 

 そう、僕達は『カードを持たずに』カードゲームをやっていた。

 イメージの力だけでカードゲームを行っていたのだ!!

 

「だってなぁ……」

「だってねぇ……」

 

 何故そんな事になっているのか、答えは至極簡単だ。

 

「「カードは鉄人に没収されたし」」

「だからって何でエアカードゲームをやってるんですか!?

 って言うか何でできるんですか!?」

「イメージの力だ」

「訳が分かりませんよ!!」

「……ところで、他の連中はどうした?」

 

 現在、教室の中には僕と明久と瑞希しか居ない。

 全員早退か?

 

「えっと、美波ちゃんは清水さんの気配を感じてどこかに逃げたみたいです。

 木下くんは演劇部の手伝いがあるとかなんとか。

 その他全員は西村先生の下へ殴り込みに行ったみたいです」

「あ~……そういやそんな事言ってたっけ」

 

 面倒なんで、朝からの流れを箇条書きで説明しよう。

 

・始業式の翌日、クラスの全員が教室に揃う。

 Fクラスの面子を考えると夏休みを延長する(サボる)生徒が出そうなものだが、鉄人が何とかしたのだろう。

・突然鉄人が入ってきて、持ち物検査を行う。

・クラスのほぼ全員が様々な物を没収される。

・雄二が鉄人の説得を試みるが失敗する。

・昼休みになり、没収品を取り返そうと雄二を筆頭に殴り込みを敢行しようとする。

・それに参加しようとしていた明久に僕が『おいファイトしろよ』と声をかける。

・そして冒頭に至る。

 

 ……うん、何もおかしい所は無いな。

 

「いや、おかしいですからね!?」

「ナチュラルに心を読むな。

 ところで瑞希は殴り込みには参加しなかったのか?」

「話題転換が強引過ぎませんか?

 私が行っても何もできないし、そもそも私は大したものは没収されてません。

 と言うか大前提として力技で取り返すのってどうなんですか?」

「……だろうな」

 

 今頃連中は補習室に居るんかなぁ……

 あいつら、密室で結託して悪だくみしてなきゃ良いけど。

 

「……そう言えば明久、もうすぐ体育祭だな」

「え? あ、そう言えばそうだね」

「と言う事は、アレもあるな」

「ああ、アレだね」

「? アレって何ですか?」

 

 瑞希が疑問の声を上げる。

 まぁ、知らないのも無理は無い。Fクラスの教師に恨みを持つ連中にとっては重要だが、瑞希のような運動音痴の優等生には縁遠いイベントだからな。

 

「体育祭には、ある種目がある。

 その名も『生徒・教師交流野球』だ」

「はぁ……そう言えばありましたね。私は去年出ませんでしたけど。ルールもよく分かりませんし」

「得点の入らないおまけみたいな競技だからな。

 逆に運動能力の低い奴を送って強い人を本競技に温存するという戦略も無くもないが……運動音痴に押し付けるような鬼畜な人は居なかったようだな」

「どうせ私は運動音痴ですよ~だ」

「うん、知ってる」

「サラッと流さないでくださいよ! せめて何かフォローしてください!!」

「だって、事実だし」

「そうですけど! 確かにそうですけれども!!」

「……さて、脱線したな。

 とにかく、この競技はその名の通り生徒チームと教師チームに分かれて野球を行う」

「まんまですね」

「そう、まんまだ。

 もう一度だけ言う。この競技は生徒と教師が野球というスポーツを行う」

「わ、分かりましたけど」

「では、明久、続きは任せた」

「うん。いいかい? スポーツっていうのは怪我がつきものだ。

 どんなに念入りに対策しても怪我が起こる確率はゼロにはできない」

「そうですね」

「つまり…………

 接触事故が起こって教師が怪我をするのも仕方ないのさ!!」

「…………? 確かにそうですけど……」

 

 瑞希はどうやら分かっていないようだ。

 明久、もっとより具体的に言ってやらないと。

 

「いいか? 明久は『故意のラフプレーで怪我させても、事故という名目だから無罪放免』と言っているんだ」

「え? ええええっっ!?

 そ、そんなことダメですよ!!」

「まぁ、僕はやる気は無いが、他の連中がやるのを止める気は微塵も無いぞ。

 ……どうせ鉄人先生に止められる。って言うかそんな事を見越して対策を練ってそうな気がするし」

「対策? どんな対策ですか?」

「さぁな。見当も付かん」

 

 

 そんな事を話していると、急に教室のドアが開いた

 

「……雄二は居る?」

 

 入ってきたのは黒髪長髪のAクラス代表だ。

 

「見ての通り居ないが、何の用だ?」

「……今日の昼休みは、クラス代表会議があった」

「え、マジか!? って言うか雄二の奴は……」

「……幸い、今日は軽い連絡事項がいくつかあるだけだった。

 ……雄二が来なかったから私がプリントを届けにきた」

「そうか、わざわざ済まないな。僕が預かっておく」

「……分かった」

 

 いくつかのプリントが手渡された。

 霧島の言った通り、そこまで重要なものは無さそうだ。

 

「あ」

「……? どうかしたの?」

「いや、大したことじゃない」

 

 手渡されたプリントの一枚、そこにはこんな事が書かれていた。

 

 

 

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     連絡事項

 

 文月学園体育祭 親睦競技

   生徒・教師交流野球

 

   上記の種目に対し

  本年は実施要項を変更し、

 『競技に召喚獣を用いるもの』

      とする。

 

 文月学園学園長 藤堂カヲル

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ……ごく一部の生徒から不満が爆発しそうな決定だな。


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