昼食を食べ終え、僕と瑞希は再びショッピングモールに戻っていた。
……否、戻ろうとしていた。
「……なかなか着きませんね」
「……ああ。そうだなー」
「……来るときってこんなに時間かかりましたっけ?」
「ハハッ、そんなことは無かったんじゃないカナー」
「……空くん」
「……何かな?」
「……道に迷いましたね?」
「迷う? この僕が? いや、違うね」
そう、そんな事は断じてない。そう、これはきっと……
「きっと街が迷ってるのさ!!」
「さっきの御空さんと同じボケをかまさないでください!!
迷ったんでしょう!?」
「もしもだ。万が一そうだったとして、お前にそれが証明できるのか?」
「空くんの場合、きっちり否定しない時点で認めているようなものだと思うのですけど?」
「……ああ、迷ったよ! 悪いか!!」
「悪いとは言いませんよ。無駄に隠そうとしなければ」
「お前……何か段々と辛辣になってきたな」
「え? そうでしょうか?」
「
「? 何か言いましたか?」
「いや、何も。とりあえず、そこら辺の人に道を訊くか」
『手近なお勧めの店』みたいなサックリした場所ではなく、『近くの大きなショッピングモール』が目的地なのだからわざわざタクシーの運転手に訊かずともそこら辺の通行人で事足りる。
とりあえず、近くを歩いていた通行人に声をかける。
「あの、すみません」
「ん? ……あ! テメェは!!」
「? どうしました?」
「清涼祭ン時のガキっ!! ここで会ったが100年目、ブチのめしてグフォッ!!!」
何か物騒な事を言い出したので、鳩尾をブチ抜いて黙らせる。
「あの、この人と何があったんですか……?」
「ん~……清涼祭の時に会ったチンピラにこんなのが居た可能性が無きにしも非ずだな」
「そんなあやふやな記憶で殴り飛ばしたんですか……」
「正当防衛だ。多分」
ブチのめすって言われたから先に手を打っただけだし。たとえ裁判になっても勝てると思う。
「じゃ、行くか。他の通行人を探そう」
「そうですね」
……そして数分後……
「ヤスオの奴が世話になったみてぇだな。俺が相手になってやる。覚悟しな!!」
何か、チンピラの親玉みたいな奴が目の前で何か言ってる。
……どうしてこうなった?
いや、考えるまでもない。僕がさっき倒したヤスオとかいう奴が携帯か何かでこのボスっぽいのに連絡したんだろう。
あいつの携帯をぶっ壊しておくべきだったかなぁ……そんな事言っても仕方ないか。
面倒だな。さっさと片をつけるか。
「セイッ!!」
いつものように、鳩尾に一撃を叩き込む。
が、
「甘ぇよっ!!」
「なにっ!?」
その一撃はあっさりと防がれてしまう。
「へへっ、この『鬼殺しの横山田』をそこらのザコと一緒にすんなよ?
それに、鳩尾への不意打ちはヤスオから聞いてたんでな!!」
「くっ!!」
二度三度攻撃を放つ。が、どれも防がれる。
「そらよっ!!」
「っ!!」
横山田の反撃が襲いかかる。僕の体は大きく吹き飛ばされた。
攻撃が当たる直前に自力で跳んだので多少ダメージは軽減できたが、それでも結構痛い。
「空くんっ!!」
「……逃げろ」
「えっ? でも……」
「早く行け!!」
「っ、はいっ!」
瑞希は走り去っていく。
そのまま家に帰るか、助けを呼んでくるか、あるいは何か別の行動をするかは彼女次第であろう。
「へっ、女を逃して自分は残るなんて、カッコイイじゃねぇか」
「………………」
どうやら、現段階では喧嘩の腕は相手の方が上らしい。
僕の喧嘩の腕もそこそこ良いと自負しているのだが、素人のハメ殺しに特化している面があるからちゃんと鍛えてる人が相手だと少々分が悪い。
……仕方ない。一瞬だけ、切り札、切るか。
「またバカみたいに突っ込んできやがって、それはもう効かなガハッ!!」
僕はさっきと同じように鳩尾を狙った。
相手は同じようにガードしようとした。
だが違ったのは。僕がそのガードを見切って掻い潜った事だ。
残念ながら、攻撃は少々浅かったようで相手はまだ意識を十分に残している。
「くっ、このっ、ゴフアッ!!」
しかし、一瞬だけでも切り崩して僕のペースに持ち込む事さえできれば、後は簡単だ。
流石はボスと言うべきか、急所への攻撃は防がれるが、突破するのも時間の問題だろう。
何とか勝てるか。そう思った時だ。
「動くんじゃねぇ!!」
後ろから声が聞こえた。
振り返ってみると、そこに居たのはチンピラ風の男。
そして……
「はっ、離してくださいっ!!」
捕まえられて、顔にカッターを突きつけられた瑞希だった。
逃した方が安全だという見通しは甘かったか?
「へへっ、これで形勢逆転だな。横山田さん! やっちまってください!!」
「よくやったフグタ。さぁ、歯ぁ食いしばれよぉ!!」
横山田が大振りな一撃を放とうとしてる最中にも、僕は思考を続けていた。
明確に言われてはいないが、どうやら瑞希は人質にとられているようだ。
チンピラの仕草から考えると『動いたらこの女の顔をズタズタにしてやるぜ!!』といった台詞が省略されていると考えられる。
…………ふむ。
問題ないね♪
僕は目の前の相手にカウンターを叩き込む。
反撃されるとは想定してなかったのだろう。カウンターは綺麗に決まり、横山田の意識を断った。
「て、テメェ!! この女がどうなっても良いのか!?」
「……別に構わないが、それがどうかしたのか?」
「なっ!?」
「……それがお前の辞世の句で良いのか?
なら……消えろ」
僕は酷薄な笑みを浮かべながらフグタへ一直線に突っ込む。
「くぅっ、くそぉぉおおおお!!!」
破れかぶれか、フグタがカッターを振り上げる。
だが、その刃が瑞希に届く前に、フグタを殴り飛ばす。
「ふげあっ!」
情けない断末魔をあげて、フグタは気絶した。
「……ふぅ」
「空くんっ! 大丈夫ですかっ!?」
「お前……自分を見捨てた相手によく平然と話しかけられるな」
「え? だって、今のはハッタリでしょう?」
「……まぁ、そうなんだがな」
瑞希が怪我をするというのはぶっちゃけ問題(しか)無い。
だが、あの場で殴られていても状況は全く改善しなかっただろうからな。
「とりあえず、タクシー呼ぼう。チンピラの仲間がまだ居るかもしれないし」
「そうですね……って空くん!? 腕がスッパリ切れてますよ!?」
「ん? あ、ホントだ」
瑞希に言われて見てみると、長さ15cmくらいの切り傷ができていた。
血が滴っており、見るからに痛そうだ。いやまぁ実際少々痛いんだが。
「あの、もしかして、私とカッターの間に手を入れました?」
「……さぁ、どうだったかな」
「急いで手当てしないと!」
「あ~きっと大丈夫だ。唾付けときゃ治る」
「いやいや、転んでできた擦り傷じゃないんですからね!? とにかく帰ります!!」
「ははっ、しゃーない」
その後、例のタクシーを呼んで、僕の家へと帰った。
腕の傷を見た運転手は『病院行きますか?』と訊いてくれたが、家にあるものだけで十分治療できそうだったので丁重に断った。