バカ達と双子と学園生活   作:天星

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02 素顔

 そんなわけで2人でショッピングモールにやってきた。

 案内によれば、一階エリアはフードコートやスポーツ用品店、生鮮食品売り場など、

 二階エリアは本やゲームの店、服飾品や小物のショップとなっている。

 デートで訪れる場所となると、やはり二階だろう。そう思って僕達は二階へのエスカレーターへと向かう。

 ……が、

 

「む?」

「どうかしましたか?」

「いや、見知った顔が見えてな」

 

 一階エリアのスポーツ用品店に工藤が居た。

 棚の商品をじっくり見ているようで、こちらには気づいていないようだ。

 そう言えば水泳部か何かだっけか? だったらここに居る事はそこまで不自然な事ではないか。

 

「ふむ、声を掛けるか否か。

 ギャルゲーだったら声をかけると工藤の好感度が上がり、瑞希の好感度が下がる場面だな」

「ギャルゲー基準で考えないでくださいよ!!」

 

 瑞希が大声でつっこむ。

 その声が届いたのか、工藤がこちらに振り向く。

 どうやら選択肢すら与えられなかったようだ。

 

「ヤッホーお2人さん。昨日ぶりだネ~」

「ああ、昨日ぶり。どうしたんだ? こんな所で」

「部活とかで使うものをちょっとネ。

 そっちこそ2人でどうしたの? デートなのカナ?」

「ふむ、あえて否定してみるのも面白そうだな」

「否定しないで下さいよ。普通にデートですから」

 

 軽い冗談のつもりだったのだが、瑞希にとっては重要な事だったようだ。

 そんな僕達のやりとりを見て、工藤が不満げな顔をしている。

 

「どうかしたか?」

「何ていうかさ、そういう風に堂々としてるとからかっても面白くないなぁって」

「ふん、僕達をそんじょそこらのカップルと一緒にするなよ?」

「そうです! 私たちは固い絆で結ばれていますからね!! ね、空くん」

「いや、そこまで言う気は全くないが」

「ええっ!?」

「アハハ、息が合ってるのか合ってないのかよく分からないカップルになってるネ」

「かもな。ところで、僕達は現在デートの方法を模索しているんだが……何か良いアイディアは無いか?」

「スゴイ事訊くねぇ……

 じゃあ、アレとかどうカナ♪」

 

 工藤が指し示した方を見ると……

 

『ちょっと待て!! 本気でこんな事やるのか!?』

『……さっきのゲームで負けた方は勝った方の言う事を何でも聞く約束』

『ぐっ、それはそうだが……しかしだなぁ!!』

『……断るなら、この婚姻届に判を押してもらう』

『拒否権が無ぇじゃねえか!!!』

『……問答無用で判を押すのと、どっちが良い?』

『………………だぁ、わぁったよ! やってやるよ!!!』

 

 ……どこかで見たことがあるような大柄な男子と黒髪長髪の女子が口論(?)していた。

 そして、その女子の手には一本のソフトクリームが握られていた。

 

「ま、まさかアレって……」

「どうやら、あのヒトたちは一つのソフトクリームを2人で食べようとしてるみたいだネ」

 

 漫画のカップルがやるような、いや、今時そこらの漫画では見ないようなシチュエーションである。

 瑞希は分かりやすく顔を真っ赤にしているし、工藤は面白そうにニヤニヤしている。

 

『っていうかてめぇ、どっからこんなの覚えてきたんだ!!』

『……光が貸してくれた漫画にあった』

『空凪妹ぉおおおおおおお!!!!』

 

 ……おい、妹よ。お前は僕の漫画を勝手に貸したのか?

 まぁ、僕自身が気付かなかったんだから管理できていないという事であり、文句を言える立場では無いのだが……

 

「……では、やるか」

「「ええっ!? 本当にやるの(やるんですか)!?」」

「……何故そこで工藤が驚くのか問い詰めたい所だが……まあいい。

 とりあえず、そこら辺の店でソフトクリームを10個ほど買ってきてくれ」

「へ? 10コ?」

「ん? 何か問題があるのか?」

「あ、あの……そんなに何に使うのカナ?」

「お前が言った事の為だ。せっかくだから10回ほど……

 ……いや、お前にも半分分けてやるか」

「えええええっっ!?!?」

「何を驚いてる。お前にも好きな奴くらい居るだろ。

 そいつとやれば良いじゃないか」

「え、いや、あの……」

 

 人がせっかく善意で言ってやっているというのに、工藤は何か恐ろしいモノを見たかのように顔を青ざめさせている。

 そしてそのまま……

 

「す、すいませんでしたぁ!!」

 

 そう言い残して、逃げるように走り去ってしまった。

 

「………………」

 

 工藤の姿が完全に見えなくなった所でまた口を開く。

 

「ふぅぅ……上手くいった。やっぱハッタリは躊躇わない事が重要だな」

「ええっ!? ハッタリだったんですか!?」

「当たり前だ!! あんな恥ずい真似が出来るかっ!!」

「え、空くんでも恥ずかしかったんですか?」

「お前は僕を何だと思ってるんだ……?」

「ああいえ、バカにしたとかじゃなくて、空くんって何事も動じないイメージがあったから……」

「……そういう風に見せた方が何かと都合が良いからそう見せているだけだ。

 別に何も感じていないわけじゃない」

「そうだったんですか。なんだかちょっと得した気分です」

「ん? どういう意味だ?」

「空くんに意外な一面が見れて嬉しいって事です♪」

「……じゃ、次行くか」

「あれ? もしかして照れてます?」

「……お前はどう思う?」

「そうやって切り返して何事も無いように振る舞うあたり、照れてるように見えます」

「……想像に任せるよ」

「ふふっ、そうですか」

 

 その後、アイスクリームを二つ買ってからその場を後にした。


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