「……雄二」
「ん? どした?」
「……雄二は、剣の事が好きなの?」
「っ!? げほっごほっ!!」
「……大丈夫、雄二? 呼吸が止まった? 人工呼吸……する?」
「しねぇよ! 人を勝手にコロすな!!
っていうかそもそもどっからそんな馬鹿げた発想が出てきた!!」
「……だって、剣の言う事は素直に聞いていた」
「あ~、確かにそうかもな」
「……じゃあやっぱり……」
「いや、だからと言って好きとかそういう話ではないからな!?」
「…………そうなの?」
「そうだよ!!」
「……それなら、どうして剣の言う事は素直に聞くの?」
「ああ? う~ん、そうだなぁ……」
少しの間考えてから、雄二が口を開く。
「単純にあいつの口が上手いってのは勿論あるだろうが、別にあいつが言ったんじゃなくても普通に納得したと思うぞ?」
「……そう?」
「ああ。流石にお前自身から言われたらすんなりとは納得しないかもしれないが……第三者から同じように言われたならな」
「…………」
「……不満か?」
「……(こくり)」
「それはどうしてだ?」
「……私より剣を優先した。そういう風に見えたから」
「そんなつもりは無かったんだがなぁ……」
「……でも、そう見えたから」
「……翔子、一つ気になったんだが……
好きな相手の言うことだったら何でもすんなり納得するべきなのか?」
「……?」
「好きな相手だからといって常に意見が合うとは限らない。
時には食い違って激しく言い争う事もあるものなんじゃないか?」
「……それって、例えば『子供が何十人欲しいか』っていう話で雄二と私が言い争うみたいに?」
「ああそうそう……ってちょっと待てや。
何で子供の数を数十人単位で話し合ってるんだ。孤児院でも経営する気か!?」
「……雄二は37人が良いって言うけど私は38人が良いと思う」
「そんな事を言った覚えは一度も無いからな? っていうかそこまで行ったら一人くらいの差は容認しろよ」
「……確かに、好きな人が相手でも譲れない物がある。
簡単には納得できない物がある」
「そうだよそういう話だったよ。ようやく戻ってきたな」
「……ごめんなさい雄二。雄二が私を愛してる事は疑い様の無い決定的な真理だっていう事を忘れてた」
「あれ、『シンリ』ってどういう意味だったかなぁ……」
「…………
『真理』
1 いつどんなときにも変わることのない、正しい物事の筋道。真実の道理。「永遠不変の―」「―の探究」
2 哲学で、
㋐思惟と存在あるいは認識と対象との一致。この一致については、いくつかの説がある。
㋑プラグマティズムでは、人間生活において有用な結果をもたらす観念をいう。
3 仏語。真実で永遠不変の理法。真如。
……こんな感じ」
「ははっ、翔子でも単語の選択を間違える事があるんだな」
「…………雄二、簡単には納得できないものがある事は理解した。けど、だからと言って何を言っても許されるわけでは無いと私は思う」
「しょ、翔子? 何か目が据わってるぞ……?」
「……雄二に分からせてあげる。絶対不変の真理を……」
「………………」
その後、雄二と翔子の壮絶な追いかけっこが始まったようだが……まぁ、そこそこ見慣れた光景なので省略する。
ただ、その年からここの海水浴場に『黒髪長髪の海の悪霊が出没する』といった噂が広まったとか何とか……
……まぁ、些細な問題だ。