バカ達と双子と学園生活   作:天星

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10 伝説

 祭りの会場は大いに賑わっていた。

 そう言えば、祭りと言ったら夏なイメージがあるけど、何でなんだろうな。

 

「ところで、皆でまとまって行動するんですか?

 それとも、各自で行動するんですか?」

「ある程度自由に動いて大丈夫ですよ。ただ、あまり遠くには行かないで下さいね」

「分かりました。じゃ、行くぞ」

「はいっ!」

 

 うむ、主語を省略しても答えてくれる関係ってのは悪くないな。

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず屋台を制覇するぞ」

「いやちょっと待ってください。それは『とりあえず』でする事では無いですよ!?」

「ふむ。では何か希望はあるか?」

「それでは……アレを」

「……良かろう」

 

 彼女が示した先には『金魚救い』の看板が。

 お祭りの定番だな。

 ……誤字ってるのは仕様か? まあどっちでも良いが。

 

「へいおっちゃん、一回いくら?」

「お持ち帰りコースなら一回200円、リリースなら一回100円だ」

「瑞希、どっちが良い?」

「家に持ち帰っても水槽も無いし、そもそも持ち帰るのも大変なのでリリースで」

「そういうわけだから。はい、100円」

「そんじゃ、頑張ってくれ」

 

 屋台のおっちゃんからポイとお椀を渡される。

 

「空くん、こういうのって得意ですか?」

「やるのは初めてだが……金魚たちの心理を読みきれば楽勝だ」

「……そういう物なんでしょうか……?」

「やってみれば分かるさ」

 

 一度深呼吸し、精神を統一する。

 金魚の動きをしばらく眺めてから、ポイを持つ腕を振るう。

 

「セイッ!!」

 

 一瞬のうちに何匹もの金魚が宙に浮かぶ。

 それをすかさずお椀でキャッチする。

 

「っと、まあ初めてならこんなもんか」

「あ、あんちゃん一体何者だい……?」

「ただの高校生だ。

 ……ふむ、ポイが耐えきれなかったようだな。仕方あるまい」

 

 一瞬で破れてしまったポイをゴミ袋に捨て、お椀の金魚を水槽にリリースする。

 

「格好良かったですよ」

「お前もやってみるか?」

「いえ、見てただけで満足です」

「そうか。では次に行こうか」

 

 

 

 ……この時の噂が広まり、『金魚の救い手(ゴールドフィッシュ・セイヴァー)』などという二つ名が付く事になるなど、この時の僕は夢にも思わなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次はどこに行くか」

「アレなんてどうですか?」

 

 瑞希が示した先には『輪投げ』の看板。

 こんなのもあるんだな。

 

「おっちゃん、いくら?」

「お、お客さんか。中学生以上なら200円で十回投げられるよ」

「よし、やらせてもらおう」

 

 200円を払って10個の輪を受け取る。

 

「空くんはこういうのやった事ありますか?」

「投げナイフの扱いなら慣れている」

「な、何故そんな物騒なものを……?」

「……きっかけは何だったかなぁ……まあいいや」

 

 とりあえず、ちゃんと集中していれば人の頬の薄皮だけを切り裂く事も可能なレベルで慣れている。

 同じ投擲武器である輪投げの輪も多分容易に扱える。

 しかし、ただ立ってる棒に入れるだけってのもつまらんな……

 ……そうだ。

 

「瑞希、半分だけやってみるか?」

「それじゃあ……やってみましょうか」

 

 瑞希に5個ほど輪を渡す。

 

「えっと、どう投げれば良いんでしょうか?」

「普通に投げれば良い。

 安心しろ。確実に入るから」

「? それじゃあ……えいっ!」

 

 普通に投げられた輪は案の定と言うべきか、棒と棒の間の何も無い空間に……

 

「そこだ」

 

 ……落下する前に、すかさず自分の輪を投げる。

 

コンッ

 

 瑞希が投げた輪っかと僕が投げた輪が衝突し、互いの進路を変える。

 そして、二つの輪が別々の棒に見事に入る。

 

「ほ、本当に入りました……」

「言ったろ?」

「あ、あんちゃん何者だい……?」

「平凡な高校生だ。

 さて、あと4投ずつ残っているが……援護無しで自力で投げたいなら僕は見ている。どうする?」

「それじゃあ……外れそうだったらまたお願いします」

「了解」

 

 続けて瑞希が2投目を放つ。

 その直後に僕も放つ。

 

コンッ

 

 そして二つの輪はまた別々の棒へ。

 

「外れてましたか……」

「さっきよりは近くなってるぞ。

 肩の力を抜いて、やや左を狙ってみろ」

「……やってみます」

 

 3投目。

 

コンッ

 

 4投目。

 

コンッ

 

「……最後の一つだな。決めろよ?」

「はいっ!」

 

 一呼吸置いてから、5投目が放たれる。

 

ヒュッ

 

……カタン

 

「は、入りましたよ!!」

「おみご、とっ!!」

 

 僕も続けて投擲。姫路が入れた棒と同じ棒に入れる。

 

「結構楽しめたな」

「そうですね!」

 

 

 

 ……この時の噂が広まり、『天輪の投擲者(ハィロゥ・シューター)』などという二つ名が付く事になるなど、この時の僕は知る由もなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は……アレでもやるか?」

「はい、頑張ってくださいね」

 

 僕達が目を付けたのは射的の屋台。

 人相の悪いおっちゃんが店番をしている。

 

「おっちゃん、いくらだ?」

「一回で6発、300円だ」

「OK」

 

 300円支払い、銃と6個の弾丸を受け取る。

 

「姫よ、何か所望する品は御座いますか?」

「では、あの大きなぬいぐるみを」

 

 瑞希が指差したのは、ど真ん中に鎮座する大きなクマのぬいぐるみ。

 アレを倒すのは結構厄介だな……

 まぁ、やるだけやってみるか。

 なるべく揺れるように、ぬいぐるみの頭の部分を狙って撃つ。

 

パン!

 

 ぬいぐるみに命中はしたが、ほんの少し揺れただけだった。

 

「……ん?」

「どうしましたか?」

「……いや」

 

 今感じた違和感は……

 ……手持ちの弾丸はまだ5発ある。4発まで使って、確かめてみるか。

 

パン!

パン!

パン!

パン!

 

 正確な射撃でぬいぐるみの頭部に連続で的中させる。

 ……やはり、これは……

 

「……おっちゃん、ルールを確認したいんだが……」

「あン?」

「指定された弾丸を当てて棚の上の物を倒せば、それがもらえるんだよな?」

「おう。そうだな」

「それが聞ければ十分だ」

 

 最後の弾丸を銃の先端に詰める。

 そしてぬいぐるみの顔面辺りに正確に狙いをつけ……

 ……そのまま()()投擲した。

 

 

ガタン ガラガラ……

 

 軽く取り付けられただけの棚が崩れる。

 

「て、てめぇ一体何を!?」

「? 何か問題でも?」

「問題しか無ぇよ!! 何で銃をそのまま投げてんだ!!」

「え? だって、弾丸を当てれば良いんでしょ? 弾丸を『単体で』当てろとは一言も言われてませんが?」

「いや、だからってなぁ……」

「空くん、流石にそれは屁理屈なのでは……?」

「別に構わないだろ? 一番デカい景品を棚に固定してるような悪徳屋台だし」

「は、はぁぁあああっっ!? な、何を言ってやがるんだ!!」

「ぬいぐるみにしか命中しなかったのに棚が崩れたのが良い証拠でしょう。

 なんなら警察呼びましょうか? それでも構いませんが」

「あ、う、ぐ……お、覚えてろよ!!」

 

 そんな捨て台詞を吐いて、人相の悪いおっちゃんは逃げていった。

 

「さてと、うわ、接着剤でくっつけてたのかよ。仕方ない、ちょっとだけ破くか……

 ……はい、取れたぞ」

「あ、ありがとうございます……」

「底の部分が少し破けてしまったから、まぁ、あとで自分で直してくれ」

「は、はいっ! 大切にしますね!!」

 

 

 

 

 

 

 ……目撃者によりこの時の噂が広まり、『断罪の狙撃手(ジャッジメント・スナイパー)』などという二つ名が付く事になるなど、この時の僕は想像すらしてなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん? 何だこれは……」

「どうかしましたか?」

「いや、何か妙な企画をやってるようだ。

 

 目の前の看板には『納涼、ミス浴衣コンテスト! 町一番の夏美人を見つけ出せ!』と書いてある。

 ミスコン、それも浴衣限定の……ってとこか?

 

「……本物のミスコンなんて初めて見るな」

「言われてみれば、確かにそうですね」

「しっかし、ただの祭りでミスコンまでやるって、やたら気合入ってるな」

「玲さんによれば、このお祭りは町興しも兼ねているそうですよ? だからかもしれません」

「……だったら射的屋みたいなのをしっかり見張っておけと言いたいが……」

 

 妙な噂が広まったらシャレにならない気がする。

 

「あ、これって賞品が出るみたいですね。

 えっと、予選を勝ち抜いた場合、大手のスーパーで使える商品券10,000円分。それにプラスして好きな浴衣を一着。ですね」

「ふーん、本選に出られる人が10人としても10万か。結構金かかってるんだな。赤字にならないと良いが」

「どうやら浴衣の会社がスポンサーをやってるみたいですね」

「あ~、そういうもんか」

 

 プロのモデルを起用して宣伝するよりはずっと安いんだろうな。きっと。

 

「……ところで、お前出るのか?」

「へ? わ、私がですか!?」

「ああ。出場すればとりあえず予選くらいは楽に突破できると思うぞ」

「そ、そんな事無いですよ!」

「まぁ、審査員の主観があるから絶対とは言えないが……よっぽど絞られてない限りは予選は楽勝だと思うぞ」

「……ホントですか?」

「ああ。お前は可愛いし、浴衣も似合ってるからな」

「そ、そんな褒めないで下さいよ! 恥ずかしいじゃないですか!」

「それで、参加するのか?」

「う~~~~ん…………

 空くんは参加して欲しいですか?」

「ん? そうだな……景品が欲しいわけでもないし、お前の浴衣姿を大きく晒すのもどうかとは思うし……」

「それじゃあ参加は……」

「……いや、待てよ? 瑞希、ちょっと耳を貸してくれ」

「? はい」

(ごにょごにょ)

「えっ? は、はい。

 …………分かりました。それなら出ます!!」

「よし来た! なら善は急げだ」

「ちょ、ちょっと! 走らないで下さいよ!」

「ん、じゃあ背中におぶされ」

「えええっ!?」

「ほら、早く」

「は、はい」

 

 そうして僕達は、ミスコンの受付がある方向に走っていった。


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