バカ達と双子と学園生活   作:天星

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09 浴衣

 楽しい時間は過ぎ去って行き、夕方になった。

 今日はこの近くで夏祭りがあるらしい。

 っていうか、祭りの日にあわせて強引に計画を組んだ、と言った方が正しいか。

 女性陣は浴衣に着替えるとの事なので、僕達は待っていた。

 

 

「ふ~、楽しかったね。海」

「ああ。また来年も来れると良いな」

「…………良い写真が沢山撮れた」

「……ワシは、男子の恰好で居たかったのじゃ……」

 

 ……まぁ、概ね(?)楽しめていたようだな。

 

「そう言えば、お前たちはどんな事をして過ごしていたんだ?」

「どんなって言われても……優子さんと一緒に泳いだり」

「翔子に追いかけられたり」

「…………写真を撮っていた」

「光と一緒に砂の城を作っておったのじゃ」

「……一人だけ遊びのレベルが隔絶している気がするな」

「…………写真もある」

「ん? どれどれ……凄っ!!」

「ほとんど光がやって、ワシはちょっと手伝っただけなのじゃがな」

 

 コレの建築に関わったってだけで十分に凄いよ。

 

「そういうお前は何をしてたんだ?」

「ああ、浜辺で瑞希と話してたよ」

「みずき……姫路か?

 ……お前ら、いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」

「さぁ?」

「『さぁ』って、お前なぁ……」

「とりあえず、そこで盗み聞きしてるような連中に聞かせてやる気は毛頭無い。

 貴様ら、さっさと出てこい」

 

 女子が着替えている部屋の扉に向かって言い放つ。

 すると扉が開き、中から浴衣に着替えた女子たちが出てくる。

 

「だから言ったじゃないの、兄さんにはすぐバレるって」

「そうかもしれないケドさ、ちょっとくらい盗み聞きしたって良いじゃん!!」

「っていうか何でバレたの!? 扉越しに聞いてただけなのに!!」

 

 島田から質問(?)が飛んできたので答える。

 

「それはだな……」

「衣擦れの音がしなくなったんだから、気付かれて当然だと思いますよ?」

「……そういう事だ」

 

 瑞希に代わりに答えられた。いや、良いんだけどさ。

 

「ところで瑞希、言ったのか?」

「別に隠す事でもないので」

「別に広める事でもないと思うがな」

「訊かれましたから」

「なら良いか」

 

「さっきから何の話をしてるんだ?」

「ああ、一言で言うと……僕と瑞希が付き合い始めたという事だ」

「なるほど、お前と姫路が付き合い…………は?」

 

「「「ええええええっっっ!?!?」」」

 

「なかなかに愉快な表情だな」

「つ、付き合うって、あの、買い物に付き合うとか?」

「いや、男女の付き合いの事だが?」

「お、お前と姫路が!? まさか、手の込んだドッキリか何かか!?」

「僕はともかく、瑞希がそんな事に乗るわけが無いだろう」

「い、一体何があったのじゃ!? お主と一緒に居てあの姫路が正気を保って居られるとはとても思えぬのじゃが!?」

「秀吉くん? その断定的な言葉の真意は後でたっぷりと聞かせてもらうわ」

「……秀吉、達者でな」

「何故じゃ!?」

「そんな事より、早く出かけよう。祭りが終わってしまう」

「その通りですね。行きましょう」

 

 そう言って車のキーを取り出す玲さん。

 

「あれ? 徒歩じゃないんですか?」

「ええ。少々離れていますから、車の方が良いでしょう」

「なるほど」

 

 帰りに長い距離を歩くなんて事になると楽しめなくなるからな。

 駐車場はちゃんと開いてるんだろうか? そこだけが心配だ。

 

 

「あ、言い忘れていたが、浴衣姿も似合ってるぞ」

「は、はい、ありがとうございます」

 

 

 

 ………………

 

 

 

「それで、一体いつからそんな事になってたんだ?」

 

 お祭り会場に向かう車の中で雄二に問いかけられる。

 他の連中も興味津々のようだ。

 

「う~む……どうでっち上げようか」

「いや、でっち上げるなよ!!」

「それじゃあまず、『出会い編』から……」

「空くん、私たちの出会いってそこまで特別な事じゃなかったですよね?」

「よく分かってるじゃないか」

 

 あえて説明するのであれば、(Fクラスの雰囲気に)困惑していた姫路に声をかけたのが初めての会話だ。

 

「どっから説明すりゃ良いんかな。正直かったるいな。

 ……よし、順番に質問してくれ。それに答えていく形式にしよう。

 なるべく具体的に質問してくれ」

「んじゃあまず、いつから付き合い始めたんだ?」

「数時間前だ。次は」

「はいはいっ! 2人はいつからお互いの事が好きになったのカナ?」

 

 すぐ近くから工藤の声が聞こえてきた。

 島田と席を交換してたらしいな。

 

「いつから好きだったかと言われるとちょっと分からないですけど、自覚したのはやっぱり数時間前です」

「剣くんの方は?」

「ん~……数時間前としておこう。次の質問は?」

「どっちから告白したの?」

「二連続の質問……まあいいか」

「私からでしたよ」

「それじゃあえっと……」

「工藤、連続で質問し過ぎだ。他の連中が質問しにくくなってるぞ?」

「あ。ゴメン」

「誰か居ないか? 答えられる事ならいくらでも答えるぞ」

「……じゃあさ……」

 

 島田が前の方で遠慮がちに手を挙げる。

 

「どうした?」

「あの……これって訊いて良い事か分かんないんだけど……

 ……瑞希って、アキの事が好きだったはずよね」

「……はい」

「それだったら、どうして?」

「それは……」

「……『何故明久に告白しなかったのか』という意図の質問なら回答は容易だ。

 瑞希は数日前に明久に告白して、既に振られている」

「……え? もう、告白してたって……」

 

「「「「えええええええっっ!?!?」」」」

 

「うるさいぞお前ら」

「ちょっと待って、っていうか待ちなさい。

 ここ数日間に一体何があったの!?」

 

 いや~反応が面白いね。

 殆どの人が頭を抱えている。

 秀吉や光も声こそ上げなかったものの、何とも言えない表情をしている。

 明久と木下姉は苦笑いしているが。

 

「……兄さん、ちょっと混乱してくるから、時系列順に起こった事をまとめて。

 今年度の初め辺りから」

「良いだろう。まず僕が進級し……」

「関係ありそうな事柄だけ、簡潔に。箇条書きで良いわ」

「……ちぇっ。

 じゃ、並べてみるか。

 

 1、瑞希が明久への好意を自覚する。

 2、木下姉が明久への好意を持ち始める。

 3、えっと……」

 

「ちょっと待ちなさい、何で私の事が出てくるの!?」

「だって、お前の事を省略したら説明できないぞ?

 特に、明久が瑞希を振った辺りとか」

「そ、そうかもしれないけど……」

「……では、続けるぞ。

 

 3、……だいぶ時間が開いてしまうが……

   木下姉が明久に告白、それを明久が了承。

 4、瑞希が明久に告白、明久はこれを拒否。

 5、瑞希が僕に告白、僕はこれを……了承。

 

 ……以上だ。あれ? 意外と短かったな」

「略し過ぎよこのアホ兄!!」

「そうですよ空くん。なんだか私が節操が無いように聞こえますよ?」

「う~む、難しいなぁ……」

 

 最低限だけを簡潔に述べただけなんだがなぁ……

 

「と言うか、姉上はやはり明久と付き合っておったのじゃな」

「っ!? な、なな何の事かしらぁ?」

「優子、多分この場に居るほぼ全員が知ってる事だよ?」

「っっっっ!?!? な、何で!?」

「いや、アレはバレない方がおかしいでしょ」

「……テスト勉強の時、吉井と凄く親しそうにしてた」

「恋する乙女の顔って感じだったネ!」

「うぅぅぅぅ……」

 

 

「……瑞希は、それで良かったの? 好きな人を諦められたの?」

「はい、綺麗に振られましたからね。

 それに……」

「それに?」

「お節介な悪役さんのおかげで、失恋のショックは誤魔化せましたからね」

「……?」

「気にしないでください。こちらの話です」

 

「明久はバッサリ切り捨ててたからなぁ。鬼畜の所業だったぞ?」

「いや、アレはしょうがないよね!?」

「ははっ、冗談だよ。

 もしあの場面でお前が曖昧な返事を返したりしていたら……僕はお前を一生軽蔑していただろうよ」

「……そっか。

 ……って、やっぱり見てたの!?」

「サアドウデショウネー」

 

 どこかで聞いたようなテンプレな台詞だが、気にしてはいけない。多分。

 

「ところで、質問は終わりか?」

「あ、まだあるヨ。

 

 ……優子と吉井くんに♪」

 

「「…………え?」」

 

「なるほど、僕達だけが質問に答えるというのもアンフェアだな」

「ちょ、ちょっと待って!? その理屈はどうなの!?」

「そもそも僕達は質問なんてしてないよ!?」

「ああ、そうか……

 ……じゃあ僕と瑞希は質問しない。これでフェアだな」

「その理屈はおかしい!!」

「さぁ、覚悟してね、優子?」

「え、えっと……受け付けないっていうのは……」

「「ナシ」」

「あ、ハイ」

 

 

 その後、明久と木下姉が質問攻めにされていたらお祭り会場に着いたので、質問タイムはお開きとなった。


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