バカ達と双子と学園生活   作:天星

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08 Like or Love

  ……昼食からしばらくして……

 

 現在、みんなバラバラに行動している。

 明久と雄二は『心配しなかった罰』として、それぞれ木下姉と霧島に連れていかれた。

 秀吉と光も多分その辺で遊んでる。

 ……そう言えば、秀吉が何か見覚えの無いTシャツを着てたな。男物の水着姿を見せてやると張り切っていた気がするが、何かあったのだろうか?

 康太は……写真でも撮って回ってんのかな? 監視員の目があるから見ず知らずの人をパシャパシャ撮るわけにもいかないだろうが。

 

 で、残った連中は……

 

「ホラ空凪くん、ちょっとしたハーレム状態だよ? 喜びなよ」

「……ナンパ避けの人柱と言った方が適切だと思うが?」

「アハハハ。そうとも言うかもネ」

 

 荷物番……的な?

 ここに居るメンバーは僕に加えて姫路、工藤、島田、玲さん。

 確かに端から見たらちょっとしたハーレム状態に見えるかもしれない。実際には人柱だが。

 

「っていうか、人数多いな。荷物番にこんなに要らんだろ」

「それはそうかもしれないけど、女子だけで遊んでるとナンパがしつこいのよ」

「かと言って、今遊んでるペア達に割って入るのもちょっとネ」

「だから戻ってきたというわけか……」

 

 ナンパ……思ったよりも厄介だな。

 

「ところで空凪クン。好きな子って居ないの?」

「お前唐突にすげぇ事訊くなぁ……」

「良いじゃん良いじゃん♪ で、どうなの?」

「こういうのは普通は学校の合宿の夜とかに同姓との会話で出るもんだと思ってたが……まぁ、お前らしいか」

 

 姫路がやや怯えながらこちらの様子を伺っている。ちょっとかわいい。

 少しからかってみようか? いや、面倒な事になりそうだから止めておこう。

 

「『Like』なら多数居るが……『Love』は居ないな」

「へ~。それじゃあボクにもチャンスがあるんだね」

「…………」

「そんな胡散臭そうな目で見つめないで!! 確かに冗談だけどさぁ!!」

「ちなみにLikeの中にはお前も入ってる」

「へ? あ、ありがと」

「ふむ、攻めるのが上手い奴は逆に攻められるのには弱いという説は本当だったようだな」

「……剣くんに当てはまってないからその説は破綻してると思う」

「何だと? その言い方だとこの僕が攻めるのが上手いみたいじゃないか」

「違うの!?」

「違うと思うか?」

「思わないよ!? 思わないから言ってるんだよ!?」

「……それはさておき、お前には好きな奴は居ないのか?」

「え? ボク? そんなの居ないよ~」

「……ふっ、そうか」

「何そのいかにも『分かってますよ』的な余裕な態度は」

「……あ、雄二達が帰ってきたっぽい。

 ちょっと遊んでくる」

「じゃあ私も付いていきますね」

「行ってらっしゃい。瑞希ちゃん頑張ってね。

 その憎たらしい男を落としちゃえ!」

「地獄にか?」

「違うよ!? 何でボクが剣くんを地獄に送らせなきゃならないのさ!!」

「え? じゃあ崖からですか?」

「瑞希ちゃんまで何言ってるの!? ってか二人共絶対に分かった上でボケてるよね!?」

「何を当たり前の事を。

 んじゃ、行くぞ」

「はいっ」

 

 

 

「……あの二人、いつの間にあんなに仲良くなってたのかしらね?」

「う~ん、こりゃ本当に瑞希ちゃんが剣くんを落とす日も近いカナ?」

「もしそうなったら、もしかしてウチだけがパートナーが居ない事に……?」

「あ、安心して。ボクも居ないから」

「愛子には土屋が居るじゃない」

「へ? な、何で土屋クンの名前が出てくるのかな!?」

「肝試しの時とか、割と仲が良さそうな気がしたけど、案外お似合いなんじゃない?」

「そ、そそそそんなコト無いよ?」

「お~い戻ったぞ。ってどうしたんだ?」

「……愛子、顔が赤い」

「だ、代表まで! もぅ!!」

 

 

 

  ………………

 

 

「それで、何をするんですか?」

「知らずについてきたのかお前は」

「はい」

「……じゃあそうだな、これから僕が何をするか当ててみろ」

「え? 無理です」

「諦め早いな」

「いえ、諦めたわけではなく、本当に無理なんです」

「……それを普通は『諦めた』と言うと思うが?」

「だって、もし的中させても空凪くんは答えを変えてしまうでしょう?

 だから私は決して当てる事ができないんです」

「…………」

「空凪くーん、ちゃんと答えて下さい」

「その通りだよチクショウ!! ってか何で分かったんだ!!」

「空凪くんだったらそうするかなって」

「……はぁ……」

 

 補足すると、何をするかは本当に決めてなかった。

 姫路が言ったものではないものにしようとは決めていたが。

 

「……ちなみに、お前は何がしたい?」

「え? 私が決めて良いんですか?」

「ああ。的中させた事に対する対価だとでも思ってくれ」

「では……」

 

 

 

 

  ……数分後……

 

 

 

「……ここなら良いか」

「はい」

 

 姫路の『静かな場所で二人きりでお話がしたいです』というリクエストを受けて、過疎ってる浜辺に移動した。

 波打ち際で2人で並んで座る。

 

「……で、何を話すんだ?」

「そうですね……あ、空凪くんに相談したい事があるんです」

「言ってみろ」

「好きな人にどうすれば興味をもってもらえるのか、何か手は無いでしょうか?」

「……奇遇だな、僕も似たような悩みを抱えている。

 特定の女子に嫌われるにはどうすれば良いのだろうか……と」

「……では逆にお尋ねします。

 なぜ空凪くんは私……じゃなくて、その女の子に嫌われたいのですか?」

「ん? そうだな……鬱陶しいから?」

「それだけなら追い払えば良いだけなんじゃないですか?

 そうしないって事は、それができないか、もしくはしたくない理由があるはずですよね?」

「……かもな」

「そうですよ。それは何故ですか?」

 

 自分から追い払うのではなく、相手に嫌いになってもらいたい。

 自分の手を汚したくないから? いや、違うな。その程度の事で躊躇うほどやわな精神は持ってない。

 だったら……

 

「……相手から、諦めてほしいから、かな」

「では、それは何故ですか?」

「そうだな……相手にその結果を受け入れてほしいから、かな?」

「では……それは、何故ですか?」

「………………」

 

 それは何故か、なるほど。

 こうやって論点をシンプルにすると分かりやすいな。

 答えは、簡単だ。

 

「その相手を傷つけたくないから、だろうな」

「それじゃあ、空凪くんはその女の子の事が好きなんですね」

「……何を寝ボケた事を言っている」

「だって、傷つけたくないって事はそういう事でしょう? 『Love』かどうかまでは分かりませんが、『Like』かそれ以上の感情があるはずです」

「……………………はぁ…………」

 

 やっぱそういう事になるよなぁ。

 …………分かった。いいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姫路、僕と付き合ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

「……………………はい?」

「聞こえなかったか? 姫路、僕と……」

「い、いえ、聞こえてましたよ!? あの、でも、何で急に……」

「お前が好きだとは言えない。だが、興味がある。

 まぁ、僕自身のいい加減で飽きっぽい性格を考慮すると、どうせすぐ飽きるだろうけどな。

 だったらいっそのこと、擬似恋愛体験してとっとと破局した方が後腐れも無くなるし手っ取り早い。

 単純な否定では納得してくれそうも無いからな。それがお前に与えるダメージの最も少ない、合理的な選択だろう」

「……凄まじい理由ですね……でも、『興味がある』って言葉だけでも空凪くんにしては十分な愛情表現だと思います」

「お前、こんな理由で納得したのか?」

「はい。つまり、私が愛を教えて、そして愛されるようになれば良い。という事ですね」

「……かもな」

「絶対に負けません。あなたに愛を教えてあげますから!」

「ははっ、お手柔らかに頼むよ。

 これから、よろしくな」

「それじゃあえっと……不束者ですがよろしくお願いします」

「……それ、嫁入りか何かの挨拶に聞こえるぞ?」

「そうですよ? 何か問題がありますか?」

「……まぁ、無いという事にしておこうか」

 

 

 これが、僕と姫路とが損得を競う勝負であるなら、姫路は極めて分の悪い勝負を仕掛けている。

 破局したら最初の目論見どおり、僕の勝利。

 関係の持続は……あり得ない。少なくとも今の僕では。

 ただ、僕自身が変化するのであれば、その関係を快く受け入れて強固なものにできるように変化したならば、それもまたその僕の勝ちだ。

 つまり、僕はノーリスク。コイントスの両面に賭けているようなものだから当然と言えば当然だが。

 それに対して彼女は破局したら敗北となる。

 もちろん、関係が持続したなら勝利。

 ただ、関係の持続は両方とも勝利になるのだから引き分けになるんだろうか?

 つまり、姫路に勝ちはあり得ない。

 ……だが、さっき姫路はこう言ってたな。『負けません』って。

 ここまで計算して言ってたのか? まさかな。

 

 とりあえず今は……お手並み拝見といこうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そう言えば……」

「どうした?」

「付き合うなら、『空凪くん』って呼び方もよそよそしいですかね?

 『剣くん』って呼んでも良いですか?」

「構わないが、言いにくくないか?」

「え? それは……まぁ、言われてみれば確かに言いにくい気もしますが……」

「それに、その呼び方は工藤とか木下姉とか、結構色んな人が使ってる。特別な感じがしないぞ」

「それは言えてますね。

 では、『(そら)くん』と」

「悪くない響きだ。

 じゃ、お前の事は『姫』とでも呼んでおくか」

「それは……どうなんでしょうか……

 何というか、いかにもお姫様扱いされているような印象を受けるんですけど?」

「不服か?」

「はい」

「そうか……じゃあ普通に『瑞希』で良いか」

「それが良いです」

「……普通かぁ……何かつまらんなぁ……」

「呼び名に面白いもつまらないも無いと思いますけど……」

「いやまぁそれはそうなんだがな。

 じゃ、いいや。とりあえず保留って事で」

「変な呼び方じゃなければ好きなように呼んでも良いですけど……」

「……ま、後でいいや。

 よろしくな。瑞希」

「はい、空くん」




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