パラソルを立てた地点に戻ってきたらみんなでスイカ割りをしていた。
お前たち、僕達の事を待ってはくれなかったんだな。まあいいけど。
……隣の姫路が玲さんを見てなんだかほっとしたような表情を浮かべていたが、何かあったのだろうか?
普通の水着姿に見えるが……
『アキ、少し左よ!』
『ううん、もっと前だよ!』
棒を握っているのは明久か。目隠しされて右往左往しているな。
『アキくん、そこから左前方32度、直線距離4.7メートル程度の位置です』
『…………実は逆方向』
『明久くん、やや右を向いてから直進よ』
『秀吉!? 私の声真似しないでよ!!』
『え!? そっちこそ真似しないでよ!!』
『あ~……先に声真似って言い出した方が秀吉くんね』
『ちょっ、光!?』
ややカオスになってるな……よし。
「明久、そこから左に123.25
「え、ちょ、何!?」
「吉井くん、右に135度、そこから約4.5メートルだそうですよ」
換算速っ!! 最初に言った僕が言うのもどうかと思うが。
「えっと、こっちか。てやぁっっ!!」
そして明久は木の棒を振り抜く。
……雄二に向かって。
「うおっ、危なっ!!」
「ちっ、外したか」
「お前ら! 俺に何の恨みがあるんだ」
「え? 特に何も?」
「だったら変な事すんなよ! 危ないだろうが!!」
「そんな事より、僕にもスイカ割りやらせてくれよ」
「俺の身の安全はお前にとっては『そんな事』なのか……
まあいい、明久やらせてやれ」
「あ、うん」
明久から目隠しの布と木の棒をもらう。
目隠しの布をつけてからその場でぐるぐる回る。
……少し目が回る。
「よし、そんなもんだろ。それじゃ、スタート!!」
とりあえず、雄二の声が聞こえた方向に向いて歩く。
「ってコラ! 何で俺の方に来るんだ!!」
「いや、何となく?」
「何で疑問形なんだ!!
スイカは向こうだ向こう!! 俺とは逆の方向だよ!!」
「お、そうか」
後ろに向き直ってスイカ割りを再開させる。
さて、落ち着いて皆の声を聞いてみようか。
『剣! そこから真後ろ、すぐそこにあるよ!』
『明久てめぇ! 俺はスイカじゃねぇぞ!?』
『空凪、とりあえず前進よ!』
『うん。方向は大体合ってるよ~』
とりあえず、適当に前に進む。
『あ~、もうちょっと右だヨ!』
『いいえ、もう少し左ですよ』
この声の方角的に秀吉の声真似ではなさそうだ。
姫路の声を信じておこう。
「……姫路、この辺か?」
「はい。思いっきり振り下ろしてください」
頭の中で空間をイメージする。
目の前にはスイカが置いてあり、その大きさは直径20cmちょい。
イメージが完了したら、勢いよく振り下ろすっ!
トンッ
「的中、だな?」
目隠しを取って確認すると、木の棒は寸分違わずスイカに命中していた。
一切傷は入っていなかったが。
「お前……ぴったり当てやがったな。目隠ししててよくそんな器用な真似ができるな」
「まぁ、少々運が良かったかな。
姫路、やるか?」
「え、もしかして、私の為にスイカを割らないように……?」
「だって、お前まだやってないだろ? 他の連中は知らんが」
「明久で一周してたから、お前たち2人で最後だ」
「だそうだ。さぁ、思いっきり叩き割ってしまえ」
「そ、それはそれで少々勿体ないような……
と、とにかく、やらせていただきます!」
……その後、姫路が見事に的中させ、スイカ割りはお開きとなった。
まぁ、女子の腕力だったからちょっと表面に傷がついただけだったが……ぶちまけたら姫路が言うように勿体ないので良しとしよう。
………………
スイカ割りを終えて昼食を取る。
スイカを運んできたのは男性陣との事なので、女性陣が焼きそばやらカレーやらを買ってくるとのこと。
「ねぇ雄二」
「何だ明久?」
「何か急に肩が軽くなった気がするんだけど」
「奇遇だな。俺もだ」
む? 確かに。
さっきから感じていた鬱陶しい視線が止んでるな。
「妬みの視線が無くなったから……だよね?」
「だろうな。厄介なもんだ」
「全くだな。因縁つけてくるなら正当防衛でブチのめせるが、遠巻きに見られているだけだと何もできない」
「……おい剣、それはさすがに攻撃的過ぎないか?」
「そうか?」
ウザいなら 殴ってしまえよ ホトトギス。
これが我が家の家訓……というわけではないんだけどさ。
「それはともかく、改めて見てみると女の人だけのグループとかも意外と居るんだね」
「ん? そういやそうだな。よくよく考えたらナンパする男連中が居るんだからナンパされる女が居て当然か」
「その口ぶりだと、お前たちもナンパする男を見たのか?」
「ああ、お前もか」
「意外と居るんだな、そういうアホが」
「……お前、海に居る奴に何かの恨みでもあるのか?」
「そういうわけでは無いが……」
水着を着て開放的になってるから気分もちょっとハイになってるのかもしれない。
「そう言えば、今買出しに行ってる連中は大丈夫か? 妙な男に絡まれてないと良いが」
「……姉さんが居るから、大丈夫だよ。きっと……」
そう答える明久はどことなく哀愁が漂っていたが……深くは訊かないでおこうか。
「お待たせしました皆さん」
「お疲れさま。結構時間がかかったように感じるが、道にでも迷ったか?」
「こんな所で迷いませんよ!!」
「そりゃそうだな。で、どうしたんだ?」
「えっとですね……」
「ボクたち、またナンパされちゃったんだよね」
「それは……災難だったな。大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
「うん。むしろ男の人がちょっと気の毒カナ~……」
「……何があったんだ」
女子メンバーの中でナンパ師を撃退できる人はそこそこ居るだろうが、相手が気の毒というレベルになると……
「アキ君との甘い生活を教えて差し上げただけなのですけどね」
「あの連中も覚悟が足りないわよね~。『……一緒の墓に、入ってくれる……?』って目のハイライトを消しながら脅してみただけなのに」
玲さん、一体何を言ったんですか。っていうか教えたのはあなたの妄想では?
そして光、それはマジでトラウマになるレベルな気がするぞ? 目のハイライトを消すって一体どうやったんだよ!!
っていうか、そのキャラは霧島のものなんじゃないか!?
……いや、霧島がそんな事言うのは雄二だけか。冗談でも他の人には言わないだろうな。
って姉さん、冗談でもそんな事言うなよ。秀吉が泣くぞ?
「そ、そう。それは大変だったね……」
「お前たちなら精神攻撃なんてしなくても腕力でどうとでもなりそうな気もするがな」
それぞれの意見を口にしながら明久と雄二が荷物を受け取ろうと手を伸ばす。
「こらこら、そんな態度じゃダメだよ2人とも」
「そんな態度って言われても……」
「何がダメなんだ?」
「あのねぇ……2人とも本当に女心が分かってないねぇ……」
「工藤に同意する。その態度はどうかと思うぞ?」
明久と雄二が不思議そうな顔をする。
直接言ってやらんとダメか?
「アキ、アンタはウチらが困っても気にならないっての?」
「私も、ちょっとくらい心配して欲しかったわ」
「……雄二はもっとヤキモチを焼くべき」
女性陣が分かりやすく答えてくれたな。
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
「お前たちならナンパしてくるような連中くらいあしらえるだろ?」
「……おい雄二、ちょっと良いか?」
「ん? 何d
パシィィンン
こちらを振り向いた雄二の頬を、思いっきり叩いてやった。
音は派手だが、衝撃はそこまでではないはずだ。
「て、てめぇ何しやがる!!」
「すぐ治るから問題ないだろう?」
「そういう問題じゃねえだろうが!!」
「いや、そういう問題だ。ナンパ師に絡まれた女子たちも特に怪我なんてしなかったし」
「っ!!」
「……気付いたか? お前が言ったのはそういう事だ。
無事だと分かっているからと言って心配しなくても良いという事は絶対に無い。
……まぁ、やりすぎると鬱陶しいが」
「そうだったな……すまん」
「謝る相手は僕じゃないだろうが」
「ああ。皆、済まない」
「僕からも、ごめん。大丈夫だった?」
「ええ。平気よ」
「……(コクリ)」
「う~ん……ボクは単純に『心配して欲しい』っていう女心を伝えたかっただけなんだけどね……」
「似た話を実感させた方が伝わりやすいだろ?」
「そうかもしれないけど、何か微妙に違うモノが伝わったような気が……」
「……気のせいだ。きっと」