バカ達と双子と学園生活   作:天星

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夏休み編
プロローグ


 夏休みのある日。

 

 とある車の中での事だ。

 

 …………何で、こんな事になってるんだ……?

 

 現在の状況を整理してみようか。

 僕が乗っているのは走行中の中型車。定員ギリギリなので割と狭い。

 そして……

 

「すぅ……すぅ…………」

 

 僕にもたれかかって穏やかな寝息を立てている()()

 

 ……もう一度言うぞ。

 何でこんな事になってるんだ!!

 

 いや、何でこうなったかは大体分かってるんだが……

 分かってるんだがあえて言わせてもらおう。

 何でこんな……え、しつこい?

 

 はぁ、それじゃあ何でこんな事になってるか説明するか。

 とりあえず、肝試しが終わった翌日、今日の朝から説明すれば良いのか?

 ……いや、もっと前から説明しないとダメか。

 確か……姫路が明久に告白するよりも前だったかな。そこからだ。

 

 

  ~~~~~~~~~~

 

 

 その日の補習が終わり、帰ろうとした所で明久から声をかけられた。

「ねぇ皆。海に行かない?」

「突然どうしたんだ?」

「姉さんが『補習が終わったら皆で行きましょう』って」

「皆というと……」

「テストの時お世話になった皆……かな」

 って事は勉強会のメンバーになるかな?

 僕、雄二、康太、秀吉、姫路、島田。そして木下姉、工藤、霧島、光。

 そして当然、明久と玲さん。

 12人か……かなり多いな。

「楽しそうだな。行かせてもらおう」

「俺も構わないが……ずいぶん気の早い話だな」

「うん。だって、本当の夏休みが始まる日だから、早めに言っておかないと都合がつかないかもしれないからって」

 ……そういう所はよくできた姉だな。玲さん。

「ワシも構わんぞ。特に予定は入れておらぬ」

「…………同じく。きっと良い写真が取れる」

 そして女性陣は……

 

「う、海っていうと……水着……ですよね?」

「水着……よね?」

「どうしたお前ら。水着アレルギーか?」

「何よそのピンポイントな病気は。

 違うわよ!!」

「では露出アレルギーか」

「違っ……くはないわね……」

「……そうですね……」

 島田は胸部に、姫路は腹部に、それぞれ視線を送っている。

 女子ってのは複雑なんだな、きっと。

「まぁ、無理しなくても良いが……こんな人数で海で遊ぶなんて滅多にできる事じゃないぞ?」

「それはそうかもしれないけど……」

「ん~……明久、これの結論っていつ出せば良いんだ?」

「え? えっとたしか……ペンションの予約もあるからなるべく早い方が良いとは言ってたけど……」

「……ちょっと待て。つまりは泊まり込みなのか?」

「え? ああ、ごめん。言い忘れてた」

 言い忘れてたってレベルじゃないくらいの重要事項なんだが……

「……ま、まあそういうわけだから、すぐに結論を出す必要は無いんじゃないか?

 早いに越した事は無いが」

「そう、ね。ちょっと考えてみるわ」

「そうですね、ありがとうございます」

 

 

 ……その後、なんやかんやあって2人とも参加する事になったらしい。

 あと、Aクラスの連中には雄二から伝えられてこちらも全員参加になったとか。

 

 

 ~~~~~~~~~~

 

 

 これが、回想その1だ。

 この後に姫路の告白や肝試し、そして屋上での心理戦があったわけだな。

 で、さっきも言ったが今日は肝試しの翌日。

 その朝の回想から、再び語っていこう。

 

 

 ~~~~~~~~~~

 

 

 さて、今日は海だ。

 朝早く車で出発し、夜まで遊んで泊まってから帰る。という予定らしい。

 12人も居るのに車で大丈夫なのかと玲さんに訊いてみたが……

『大丈夫です。何とかします』

 との事だ。本当に大丈夫なんだろうか……?

 まぁ、とりあえず集合場所である明久の家まで行こう。

 荷物は大丈夫だな? 着替えもあるし水着もある。財布も入ってるな。

 よし、行くか。

 ……え? 光はどうしたって? 後から来るよ。

 僕はいつものように過剰に早く出発してるから。

 特に意味は無いが……生活のくせというやつだな、きっと。

 そして、家の玄関の扉を開けると……

 

「あ、おはようございます。空凪くん♪」

 

バタンッ

 

 ……おかしいな。今、妙にリアルな幻覚を見たぞ?

 ピンクの髪の巨乳の女子が旅行鞄をもって笑顔で挨拶してたような、そんな幻覚だ。

 最近色々あったせいか疲れてるのかな。きっとそうだ。

 よし、まずは深呼吸だ。

 すーはーすーはー……

 ……よし、海で遊んで日頃のストレスを解消しよう!!

 いざ!!

 

ガチャッ

 

「おはようございます。どうかしましたか?」

 

バタンッ!!

 

 …………海じゃなくて病院に行った方が良いかもしれないな。

 明久には悪いが、今日はキャンセルを……

 

ガチャッ

 

「空凪くん、大丈夫ですか?」

「ああ問題ない、姫路の幻覚が見える事を除けばな」

「幻覚? あの、どういう意味でしょうか……?」

 

 本当にリアルな幻覚だな。しかも扉開けてきたし。

 いや待て? 扉を開けてきたという事は幻覚ではない?

 いやいや、もしかすると扉が開いたという事自体が幻覚かもしれない。

 だがそうなるとそもそもどこまでが真実でどこからが幻覚なのか分からない!!

 もしかすると世界そのものが存在しなかった可能性も……

 

 ……さて、茶番はこんなもんにしておくか。

 

「姫路、何故お前がここに居る?」

「え? だって言ったじゃないですか。

 ずっと一緒に居てあなたを見張るって」

「……本気だったのか」

「当然です! 勝手にしろって言われたので勝手に見張ります!!」

「……そうか」

 

 姫路を舐めていた。

 学校でちょっと見張られる程度かと思ってたが、まさか家の前で待ち伏せるとは。

 

「……ちなみに、いつ頃から居たんだ?」

「えっと……30分ほど前からですね」

「…………」

 

 そもそも僕はかなり早く家を出ようとしているわけだが……それよりも早く待ってたのか……

 

「…………はぁ」

 

 姫路の事はこれ以上考えず、明久の家へ向かう。

 

「ちょっと! 一緒に行きましょうよ!」

「…………」

 

 ふむ、撒くか。

 一度深呼吸してから両足に力を入れる。

 そして……

 

「逃しませんよ?」

 

 走り出す前に姫路に後ろから抱きつかれた。

 

「なっ、このっ、離せっ!」

「ダーメですよ♪」

 

 くうぅっ、この抱きついてきたのが頑丈な明久とかなら顔面に肘鉄を喰らわせて振りほどくんだが、姫路相手にそれをやるのはなぁ……

 ……ふむ、策を凝らすか。

 

「姫路、このままでは動きにくいんだが?」

「でも、こうしないと逃げちゃいますよね?」

「だったら妥協案だ。『手を繋いで歩く』というのはどうだ?」

「……その程度の拘束なら簡単に振りほどけちゃいますよね?」

「…………」

 

 バレたか。

 ……仕方あるまい。撒くのは諦めるか。強引に撒いても面倒な事になりそうだし。

 

「……分かった。一緒に行こう。だがせめてこの体勢は何とかしてくれ。歩きにくくてしょうがない」

「……諦めてくれたみたいですね。なら良いです。一緒に行きましょう」

 

 そう言ってあっさりと拘束を解く姫路。

 

「……良いのか? また逃げ出すかもしれんぞ?」

「? 空凪くんはそうそう嘘なんて吐かないでしょう?」

「……チッ」

 

 そうして、僕達は明久の家へと向かった。

 

 

「ところで、妹さんは?」

「……まだ寝てるんじゃないかな」


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