「……ところで、もう話は終わりか? ならそろそろ帰りたいんだが……」
「あ、まだです。
えっと、その……ありがとうございました」
「礼を言われるような事はしちゃいないさ」
台詞だけを客観的に見たらむしろ罵られるような事しかしてない自覚はある。
「いえ、私はあなたに感謝します。
あの時、私が告白を止められてたら、今みたいにすっきりした気持ちにはなってなかったと思いますから」
「……なら、一応受け取っておくか」
まさか礼を言われるとはなぁ……数週間前までは夢にも思わなかったな。
「その上で一つだけ、お願いがあるんです」
「ん?」
「もうあんな事は絶対にしないで下さい」
「……一応、理由を訊いても?」
「今回は私がなんとか気付けたから良かったものの、そうでなかったら空凪君は私の中でずっと悪役のままだったんです。
それでも良いんですか?」
「ああ。もとよりそのつもりだったからな」
「私は嫌です! だから、もう止めて下さい!」
「断る」
「でもっ!」
「僕の生き方を他人からとやかく言われる筋合いは無い。
それに、そもそも何故お前が嫌がる」
「それは……とにかく嫌なんです!」
「……じゃ、帰らせてもらうぞ」
「だ、だったら! また空凪君が同じ事をしそうになったら私が止めます!」
「どうやって止める気だ。ってかどうやって僕の行動を知るんだ」
「えっと……ずっと一緒に居てあなたを見張ります!」
何かとんでもない事言ったよ!? って言うかそれってストーカーの一種じゃねぇの!?
「ずっとってどうする気だ? トイレや更衣室まで入ってくる気か?」
「そ、それは……何とかします!!」
ダメだこれ。理詰めで説得しても無理っぽい。
「…………はぁ、ったく。勝手にしろ」
「はいっ! 勝手にさせてもらいます!」
何か面倒な事になったなぁ……
まあいいか。面倒な事は明日考えよう。明日。
今日はもう帰るか。
「あ、そうだ」
「どうかしましたか?」
「ああ、まだ一つ疑問が残ってたなって思って?」
「疑問、ですか?」
そう、一番最初にして、一番最後の疑問。
「僕が言ってた『嘘』って一体何だ?」
「え、本当に気付いてなかったんですか?
じゃあ嘘と言うより単純に間違えただけなんですね」
「間違い……?」
余計心当たりが無いんだが……
「召喚獣を見たとき、言ってたじゃないですか。
『一度抜いたら誰かの命を喰らうまで鞘に戻らない殺戮の魔剣』
それが空凪くん自身の本質だと。」
「言ったな。それがどうかしたか?」
「違うんですよ。空凪くんの本質は魔剣じゃないんです」
「何?」
召喚獣の姿を思い出してみる。
腰の剣以外は何の変哲も無い文月学園の制服を着た僕の召喚獣。
僕のオカルト召喚獣の正体は『魔剣ダーインスレイヴ』以外に無いはずだ。
「一体どういう事だ?」
「剣は飾りなんです。
あなたの本質は、鞘にあるんです」
「…………はい?」
「『その殺戮の魔剣ですら押し止め、我が身が傷付いてでもその他全てを守ろうとする鞘』
それこそが、あの召喚獣が見せたあなたの本質です」
「鞘……鞘ねぇ……」
……いやいや、やっぱり剣の方だろう。
いや、でも、鞘かぁ……
何だろうな。不思議とそういう気もしてくる。
そうか、そういう考え方もあったか。
……悪くない。かな。
「ふっ、ふふっ」
「空凪くん……?」
「ふははっ、ははははっ、ははははははははははははははははははっ!!」
「だ、大丈夫ですか!? どこか具合でも悪いんですか!?」
「………………姫路」
「はい、保健室に行きますか?」
「……ありがとな」
「え?」
「それじゃ、またな!」
「あ、ちょ、待ってくださいよ!」
この時、僕の頭の中では様々な思いが巡っていたが……
それを一言で表すなら……
『とても、楽しくなりそうだ』
そんな感じかな。