バカ達と双子と学園生活   作:天星

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11 虚像

「あ、お~い」

「ん?」

 

 ぼ~っと壁を見つめていたら後ろから声がかかった。

 

「明久か、やっと来たのか」

「え、待ってたの?」

「いや、別に」

「そ、そう。ところで、何してたの?」

「ああ、この壁の向こうがチェックポイントなんでな」

「え、そうなの? でも、道が閉じてるね」

「道が開くまで待っても良いし、閉じ続けるなら他の道が開いてるはずだ。

 姫路と霧島がそこを突破してくれりゃあチェックメイトだ」

「それじゃあ……ここで待ってれば良いんだね?」

「そういう事、だ。」

 

 

 

「あ、ところで、優子さん見なかった? はぐれちゃったんだけど……」

「……さっき雄二と一緒にチェックポイントに挑んで敗退してたぞ」

「えっ、そ、そうかぁ……」

「多分、余った雄二と組まされたんだろうなぁ……」

「え、どういう事?」

「三年生の思惑として、二年学年主席である霧島との直接対決は避けたい。

 だったら悲鳴を上げさせて失格にしてしまえば良い」

「あ~、なるほど。でも霧島さんが悲鳴を上げるとは思えないけど?」

「同意件だ。だったらパートナーを狙う。

 しかし雄二は霧島以上に悲鳴を上げなさそうだ。

 だから悲鳴をあげやすそうな人とパートナーを強引に入れ替えた。

 この場合は姫路とだな」

 

 そして、僕と明久を組ませたのは清涼祭の時と同じ組み合わせでボコりたかったからだろうなぁ……

 私怨で意見を通せるって事はあの二人は意外と発言力があるのかもな。

 

「って事は……もしかして霧島さんももう失格に?」

「お前の耳は何かの疾患でも抱えてんのか?

 悲鳴は聞こえてないだろ?」

「あ、それもそうか……」

「奴は耐えてるよ。霧島も一緒に居るんだからそろそろチェックポイントに……」

 

 

ガタッ

 

 突然、目の前の壁が外れた。

 その外れた壁の向こうに居る人と目が合った。

 

「「「…………」」」

 

ガタッ!

 

『おいお前何やってんだよ!!』

『いやいやいやいや、人が居たんだって!! 妖怪より怖かったよ!!』

『馬鹿野郎! そっちは通して良いんだよ!! それより向こうのペアが……』

 

 

「……どうやら、着いたようだな。向こうのペアが」

 

 

『……姫路。着いた』

『あ、やっと、ですか……』

『げっ、常村! こいつら辿り着いちまったじゃねぇかよ! どうすんだよ!』

『んな事言ったって、勝負するしかねぇだろ!』

 

 

「お~、慌ててるな~」

「ところで、常夏の点数ってどのくらいなの?」

「ん? 現在約180と200だったかな。あの二人ならまあ余裕だろう」

 

 

『ちっ、こいつらを失格にしてからあいつらをボコろうと思ってたのに、つまんねぇミスしやがって』

『あのクズ二人よりこっちの方がよっぽどしんどそうだな』

『二年はバカだらけだから楽勝なんて言ってたのは誰だよ』

『悪かったな、訂正する。吉井と空凪はクズだが、中にはちょっとはマシな奴も居る。

 これで良いな?』

『はぁ、今更遅ぇよ。この二人、掃き溜めに鶴ってやつか? あんなカスどもとつるんでるなんて勿体ないな』

 

 

「……なるほど。高度なギャグだな」

「え、そうなの?」

「『掃き溜めに鶴』と言った後に『カスどもとつる()んでる』。

 お粗末だが立派なダジャレだろ?」

「あ、確かに」

 僕の目もまだまだだな、常夏にダジャレを作る才能があったとは。質は失笑ものだが。

 ……え? 違う? 気にしない気にしない。

「そんな事より、悪口言われてるよ剣?」

「いや、お前の事だろ?」

「いやいや、間違いなく剣の事だよ。剣ほどのカスはそうそう居ないからね」

「冗談が上手いな、謙遜しなくても良いぞ。

 お前のクズっぷりなら世界が狙えるぞ」

「そろそろこの辺で止めとこう? ヒートアップして失格になっても嫌だし」

「ちっ、先に言われたか。認めよう。僕の負けだ」

「勝ち負けとかあったんだこれ……」

 ところで、まだ始まらないのか?

 

 

『そもそも、あんなクズどもがこの学校に居るから俺たちは……』

『……クズじゃない』

『あン?』

『……吉井も、剣も、クズなんかじゃない』

『そうは言っても事実は事実だろ。

 すぐに問題を起こすし、教師には目ぇ付けられてるし、部活で何かの功績をあげてるわけでもなければ成績だって底辺。

 おまけにバカの代名詞とも呼ばれてる観察処分者だ。

 アレをクズと呼ばずになんて呼べってんだ』

 

 

「おい、言われてるぞ明久」

「いやいや、剣の事でしょ?」

「ヒートアップする前に止めておくか」

「いや、早すぎない?」

「……ちっ、お前に連敗する日が来るとはな」

「え、僕勝ったの?」

「しっかし相当恨まれてるみたいだなぁ……何でだろ?」

「いや、恨まれる理由なんていくらでもあると思うよ? 半分くらい逆恨みだけど」

「……それもそうか」

 で、戦いはいつ始まるんだ? 心理戦フェイズなんてぶっちゃけ時間の無駄なんだが……

 

 

『まったく、アイツらは本当に学園のツラ汚しだ。人に迷惑をかけることしかできないなら大人しくゴミ溜めにでも埋まってろっての』

 

 

「明久ー。怒って大声上げたりしたらダメだぞー」

「剣こそー。怒鳴り散らしたらダメだよー」

「まぁ、あんな安い挑発に引っかかる奴なんて居な……」

 

 

 

『ふざけないでください!! あなたたちに何が分かるんですか!?』

 

 

 

 ……え?

 

『んだテメェ、文句でもあんのか!?』

『ええありますよ!

 そうやって噂を聞いたり行動の外面だけを見て人を理解した気になって!

 最初からその人となりを決めつけて!

 それだけで酷く言うなんて、ふざけないでください!!

 あの人たちの本質を理解しようとした事があるんですか!?』

『っせえな! お前こそアイツらがどんだけバカなのか知らねぇんじゃねぇのか!?

 ちょっとアイツらの点数調べりゃ分かんだろうが!』

『その程度のもので人の本質が測れると本気で思っているんですか!?

 良い点数を取る事が全てだとでも言うんですか!?』

『ぎゃんぎゃんわめくな! あんな連中、カスに決まってんだろ!』

『二人共カスなんかじゃありません! 絶対に!!』

『いいから出て行け! お前らは今の大声で失格だ!!』

『ああ、そうだった。こりゃラッキーだな』

『……言われるまでもない。行こう、姫路』

『…………はい』

 

 

 

 

「……姫路さん、僕達の事を庇ってくれたのかな?」

「…………」

「姫路さんは強いなぁ……あんな事があった後なのに、僕達の為に怒ってくれて」

「…………」

「あれ? 剣? もしも~し」

「…………ん? 何だっけ?」

「姫路さんは優しいねって……」

「いや、あいつはバカだ。しかも筋金入りの」

「え?」

「だってそうだろ?

 せっかくこの性格の悪い迷路を突破してチェックポイントに辿り着いたってのに、僕達みたいなのの為に怒って失格。

 これをバカと言わずに何と言う」

「そんな言い方は……」

「……ちょっとやんなきゃならない事ができた。明久、手を貸してくれるか?」

「……貸し一つ、だよ?」

「あざとい奴め。まあいいさ」

 さて…………

 殺るか。


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