バカ達と双子と学園生活   作:天星

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10 分離

「戻ったぞ」

「ご苦労。あと一ヶ所だな」

「おう」

 

 残るチェックポイントはAクラスのものだ。

 一番広い教室であり、当然、仕掛けも一番用意されているだろう。

 ……そう、思っていた。

 

 

「……何か普通だな」

「それでもウチには十分怖いわよっ!!」

 

 他のペアのカメラから送られてくる映像をのんびり見ているが、汚物が立っているとか、美人が佇んでいるとか、変態が告白してくるとか、そういった妙な仕掛けは見られない。

 これでは普通のお化け屋敷ではないか。いや、それが正しい姿なんだが。

 

「……ん?」

「どうしたの?」

「……道が作り替えられている」

「え? そうなの?」

「どうやら連中は教室の広さを生かした迷路を作り、仕切り板を適宜付け替えて構造そのものを変えているようだ」

「それってアリなの?」

「えっと……設備を壊してはならないってルールとか、チェックポイントにたどり着けないような構造にしてはいけないというルールはあるが……」

「確かに『壊してる』とは言えないわね」

「そうだな。つまり、板をどけちゃえばあっさりチェックポイントにたどり着けるんじゃないのか?」

「た、確かに……」

「……流石にアウトかなぁ……? いやでも、うーん……」

 

 壁の付け替えを『仕掛けの一部』と見なせば、それを勝手に外すのは仕掛けの破壊にあたるのだろうか?

 ……とりあえず止めておくか。どっかしらたどり着けるようにはなってるわけだし。

 

「……雄二、戦況は?」

「そろそろ危うくなってきたな。

 この迷路の作り替えのせいで移動距離が無駄に長くなってるから、そこで脱落するペアが多いようだ」

「対策としては、有力なペアを複数投入してチェックポイントへの道を探す事か?」

「そうなるな」

「有力なペアの残存状況は?」

「俺と翔子、明久に木下姉。あとお前は……パートナーを探さないとな」

「そうなるか。まぁ、3ペア居れば見つかるだろ」

「パートナーはどうするんだ?」

「2人ほど心当たりがあるが……」

 

 片方はこの場に居ないのでもう片方に声をかけようとする。

 ……が、その前に声がかかった。

 

「……空凪くん」

「ん?」

 

 声が聞こえた方向に振り向く。

 そこに居たのは、姫路だった。

 

「パートナーを探しているんですよね? 私が引き受けます」

「……何のつもりだ?」

「何のつもりも何も、私にはパートナーがおらず、空凪くんにもパートナーが居ない。

 だからペアを組もうと言っているだけです」

「……まあいいか。悲鳴さえ上げないなら問題ない」

「はい。では行きましょうか」

 

 

 

 

 強力な3ペアを投入。

 これで失敗したら後がないが……きっと何とかなるだろう。

「…………」

「…………」

 

 ……空気が限りなく重い。

 何か話しかけてみるべきなのか、それとも……

 

「……おい姫路」

「何ですか?」

「お前、こういう肝試しとかって苦手じゃないのか?」

「……正直言うとかなり苦手です。

 けど、こんな所で失格になる気はありません」

「……そうか」

 

 なんか相当無理してる気がするなぁ。気のせいか?

 

『うらめし……や……』

「っ!! だ、大丈夫、怖くない、怖くない……」

「……お前、やっぱり相当無茶してるだろ。帰った方が良いんじゃないのか?」

「……平気、です。怖くないです」

「……そこまで言うなら止めはせんが……」

 ほんとに大丈夫なのか?

 

 道を進む。曲がり角を曲がる。また進む。

 進んで進んでまた進む。

 ……この教室、広すぎるだろ。

 やっぱりこの学校っておかしい。

「……さきほどから何の仕掛けも無いな」

「そうですね」

「何かの意図があるのか……?」

 

 他の2ペアに戦力を投入しているだけかもしれんが。

 

「しっかしこの壁、忌々しいな。ああ、ぶっ壊したい」

「それは……ルール違反ですよね?」

「はぁ、そうなんだよなぁ……」

 

 そんな事を話していたその時、

 突然照明が落ちた。

 

「む?」

「っ!!」

 

 それと同時に板がスライドする音。

 なるほど、分断されたようだな。

 

「おい姫路、聞こえるか?」

『は、はいっ!』

「どうやら分断されたようだ。

 僕と合流するより他の分断された連中を探す方が早いだろう。

 誰か見つけたらそいつとペアを組み直せ」

『……はい。そうさせてもらいます』

 

 

 ……さてと。

 わざわざ分断なんて面倒な真似をしたって事は、ペアの変更を強制させたかったんかな。

 例えば学年主席の霧島と、誰か怖がりやすそうな人を組ませて失格にするとか。

 一度拠点に戻ってしまえば全く意味が無いのだが……いや、時間稼ぎにはなるか。極めて姑息だが。

 とりあえず……僕には僕のできる事をやろう。

 

 頭の中で教室の地図を思い浮かべる。

 これまでのペアが突入した際の情報から、チェックポイントの大体の位置は割り出されている。

 後は自分がそこに向かうだけ。

「……こっちだな」

 合流は後回しで良い。とにかくチェックポイントの壁を見つける。それが最優先だ。

 また、歩く。いや、走る。

 相手に壁の入れ替えの暇なんて与えない。

 1人で突入するのは肝試しとしてどうなのかという事でできなかった手だが、相手がわざわざ分断してくれたんだ。これくらいの暴挙は良いだろう。

 

 しばらくして、チェックポイントのすぐ側までたどり着いた。

「この壁の向こうだな。間違いない」

 壁に耳を当ててみる。

 

『イテテ……くっそ、あの女、何しやがったんだ……?

 速すぎてさっぱり分からんかったぞ』

『……無事に治った、いや、直ったんだな』

『あン? どういう意味だ?』

『……いや、何でもない』

 

 常夏の声が聞こえる。確定だな。

 とりあえず、ここで誰か適当に待つか。

 ここに居るってだけでも、相手の動きを制限できるからな。

 

  ……そして数分後……

 

『やっと着いたぜ』

『はぁ、随分と歩かせられたわね』

 

 この声は……雄二と木下姉か。

 霧島が姫路と組まされてると仮定すると明久はまだ1人で彷徨ってる事になるな。

 

『よく来たな。歓迎してやるぜ』

『お前らに三年の実力って奴をじっくりと見せてやるから覚悟しやがれ』

 

 このまま倒せると楽なんだが……

 

『『『『試獣召喚(サモン)!』』』』

 

 今頃壁の向こうでは点数が見えてるんだろうなぁ……

 確認したいが……

 

「……ちょっとスライドさせるだけなら問題ないかな」

 

 迷路の壁に手をかけ、やや強引に隙間を作る。

 どれどれ……?

 

[フィールド:物理]

 

2ーF 坂本雄二 188点

2ーA 木下優子 315点

 

 まぁ、このくらいなら負ける事は……

 

 

 

 

 

 

 

3ーA 常村勇作 412点

3ーA 夏川俊平 408点

 

「……何だと?」

 あのいかにもアホそうな二人が400点越えだと?

 

『そんじゃ、せいぜい頑張ってみろや後輩ども』

『散々待たされたんだ。ちったぁ粘ってくれよ?』

 

 堂々としているのはアホだからかと思ったが、それに見合う実力はあったんだな。

 そんなに勉強ができるのに、何故教頭と手を組んだりしたのだろうか?

 ……アホだからか。そうだな。

 

 勝てなくても良い。どこまで消耗させられるか。

 あるいは、腕輪の能力を暴けるか。

 

『はぁ……面倒な事になったなぁ……

 だが、捨て駒上等だ。やってやるよ』

『ここで頑張れば、後が楽になるもんね。頑張りましょう!』

 

 

 

  ……そして数分後……

 

 

 

2ーF 坂本雄二 Dead

2ーA 木下優子 Dead

 

3ーA 常村勇作 183点

3ーA 夏川俊平 206点

 

 

 思ったより削れたな。

 

『へっ、大した事ねぇなあ!』

『これからはちゃんとセンパイを敬えよ?』

 

 そして思ったより態度がデカいな。

 まさか勝ったと勘違いしているのだろうか?

 

『……はぁ、哀れだなぁ』

『何だと?』

『俺たちを潰す為だけにどれだけの戦力を消費した?

 どれだけの情報を晒した?

 お前たちは戦闘では勝ったが、戦略では負けたんだよ』

『はっ、負け惜しみか?』

『何とでも言え。木下姉、帰るぞ』

『……そうね。十分貢献できたわ』

 

 

 常夏の腕輪は大体分かった。

 

 一つ、自分を中心にした円の中を高熱にする能力。

 御空の能力のように、範囲内の召喚獣全てに継続的なダメージを与えることができる。

 10秒で5ダメージ。そこも御空と同じだな。

 そして10秒で5のコスト。こっちも御空と同じ。

 ゲームバランスを崩さないように合わせたんだろうな。

 御空とは違うのは、高熱にする円の半径を自由にいじれる事。風除けを置いても防げない事。

 あと、もしかすると物が燃えやすいとかあるかもな。いや、それはある意味御空も同じか?

 

 一つ、武器に毒を付与する能力。

 麻痺毒とかそういう類の面倒な毒ではなく、継続ダメージを与える類のもの。

 平均して10秒で5ダメージ? 結構ばらつきが激しかったが、平均するとそんなもんだ。

 開始時に50点ほど消費していたので、おそらく最初にコストを払った後は永続する。

 短い時間に何度も攻撃を喰らうと毒ダメージも多くなり、逆にしばらく受けないと勝手に解毒されるようだ。

 

 ……こんな所か。

 こんだけ情報が揃っていれば対処はかなり容易だ。

 っていうか、姫路の熱線みたいに一撃必殺な腕輪じゃないんでそこまで警戒しなくて良いし。

 しかしよっぽど自信があったんだろうか。腕輪を贅沢に使いすぎじゃないのか?

 この後に挑戦者が居る事を考えるならもっと節約しても良いと思うんだが。

 

 さて、情報が出揃った所で、僕にできるのは……

「……とりあえず待つか」

 サボってるわけじゃないよ? ここに居るだけで壁の付け替えをかなり制限できるから、ちゃんと仕事してるんだよ!


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