「戻ったぞ」
「お疲れ」
「島田、もう目を開けても良いぞ」
「あ、うん」
特に問題なく拠点となる教室へ帰還する。
それじゃあのんびりと休ませてもら……
『お、俺はもうだめだ……故郷の母さんに……これ、を……』
『だ、ダメだ! 諦めたらダメだ!! まだやり残した事があるだろ!?』
『ああ、死ぬまでに、親孝行したかったなぁ……』
『おい! 目を開けろ! 開けろってんだよぉおお!!!』
……冗談かと思いきや割とシリアスな内容を口にしてるな。
冗談抜きでヤバいという事だろうか……
……ところで、
「雄二、この騒ぎは一体何なんだ?」
「ああ、モニタに映った汚物を見たせいでな……
康太が急いで解像度を下げてくれてなきゃ全滅してたかもしれん……」
「くっ、済まない。配慮が足りなかったようだ」
「いいさ。アレはしょうがない。むしろ直接見たのがお前だけで済んで良かった」
「そうか。それなら良いが……どう対処するんだ?」
「ああ。この二人を投入する!!」
そう言って雄二が指し示したのは……
「ボク達にお任せだよ♪」
「…………奴を仕留めてくる」
工藤と康太。保体コンビだな。
今回のフィールドも保体だし、うってつけの人材だろう。
「だが奴は手強いぞ? 策はあるのか?」
「目には目を、歯には歯を。ってね」
「……なるほど。達者でな」
「あのさ」
「何だ?」
「さっき言ってたじゃない。『普通の人には見えないものが見えている』って」
「ああ、言ったな」
「それって、何なの?」
「ああ。一言で言ってしまうと『直感』だ」
「ちょ、直感って……それだけで分かるもんなの?」
「ここで言う直感とはいわゆる第六感の事ではない。
五感で収集、もとい蒐集した情報を無意識下で処理したものの事だ。
耳で捉えた呼吸音等の気配を感じ取り、攻撃を予測。
攻撃が来る方向は大体分かるし、タイミングも大体分かる。
来る事さえ分かっていればあとは目視で捉えて棒切れを振れば弾ける。
無理なようなら召喚獣で体を張って防げば良い」
「……なんか、それだけの説明で納得しちゃいそうな自分が居るわ……」
「これ以上説明すべき事が無いんだからしょうがない」
「……そう」
まぁ、説明できない第六感による防御も一応含まれてはいるが、文字通り説明しようが無いので省略する。
そんな雑談をしている内に康太&工藤ペアが例の場所に到着したようだ。
『そろそろだね。さっきの人が待ってるの』
『…………準備はできている』
さっき立ち去った時はスポットライトが汚物を照らしていたが、今は真っ暗だ。
突然現れた方が効果的だからな。
「……雄二、解像度を下げる準備は?」
「大丈夫だ。一応少し解像度を下げてあるし、カメラに映すまでもなく瞬殺するとの事だ」
「了解」
なら大丈夫か。
でもまぁ一応……
「島田、目を瞑っておくと良い」
「……そんなに酷いの?」
「解像度を下げてなお現在の惨状なんだが……」
「……開けて良くなったらお願い」
「OK」
モニターに映る映像がゆっくりと前進する。
そして……
バンッ!(スポットライトのスイッチが入る音)
ドンッ!(康太が大きな鏡を置く音)
ケポケポケポッ(汚物が汚物を吐く音)
っておい。
『あ、あそこ俺の机が置いてある場所!!』
『畜生っ!! 何て酷い事を!!』
……名もなきDクラス生さん、ご愁傷様。
って言うか、自分でも吐くんだな。あの汚物。
『て、てめぇ何てもん見せやがる!! 思わず吐いちまったじゃねぇか!!』
『…………人として当然の事。恥じる事はない』
『くそっ、想像を絶する気持ち悪さだぜ……
どうりで着付けをやった連中が頑なに鏡を見せねぇワケだ!』
「……え? アレって自分でやったんじゃないのか?」
「アレって言われても目を瞑ってるからわかんないんだけど……」
「……情報を伝えるだけでも精神崩壊を招く可能性があるな。
とりあえず、着付けを行った奴が正気を保っているかどうか心配な状態だとだけ言っておこう」
「……どんだけなのよ……」
……その後、汚物を追い払った保体ペアはチェックポイントをあっさりと突破した。