そういうわけで次のチェックポイントへ。
確か次はDクラスだったな。
「一つ目のチェックポイントも突破したし、このペースなら楽勝よね?」
「お前は何もしてないがな」
現在の失格ペア数は10ペアほど。
全体で約75ペアほどなので、このペースなら余裕だ。
……このペースなら。
「だが、それは相手にも分かりきってる事だ。
相手が何の対策もしてこないとは到底思えない」
「そんな簡単に対策できるもんなの?」
「さて、な。
だが、連中が本気で勝ちに来ている以上、テストプレイくらいはしているはずだ。
この程度で終わりだとしたら片腹痛い」
「片腹痛いって……アンタねぇ……」
「さて、そろそろ始まる。
これですんなり進めるなら良し、そうでなければ……」
『きゃぁぁああっっ!!』
「な、何!? 何が起こったの!?」
「さぁな」
「『さぁな』って……」
「早とちりするな。『分からない』というのも貴重な情報の一つなんだぞ?」
「……空凪、ウチにも分かるように説明して」
「全く、しょうがない奴だ。
僕達が得られる情報とは何だ? 種類は?」
「え? えっと……」
「答えはマイクとカメラによる聴覚、視覚の情報だ。
その二つで捉えられない事が起こったなら、それ以外の感覚による方法を考慮すべきだ」
「って言うと……触覚、味覚、嗅覚って事?」
「そ。そして、味覚や嗅覚で悲鳴を上げさせるのは不可能に近いだろう。
そんな事したら『相手の体にダメージを与える行為』に該当しそうな気がするし」
「ってことは、触覚に訴えた何かをしたって事?」
「そゆこと。『分からない』というのは消去法の手札として非常に役に立つ」
「そういう事ね……でも、それってさっき言ってた『相手の体にダメージを与える行為』にならないの?」
「触った感じが不気味な物体でちょっと触るくらいでは『ダメージ』とは言えないだろう」
「確かにそうね……」
納得したようだな。ところで……
「そろそろ準備しておけ。島田」
「……へ?」
「だろ? 雄二!」
「ああ。頼んだぜ!」
「ええええええっっ!?
ちょ、ちょちょちょちょっと待って! まだ心の準備が!!」
「安心しろ。黙ってついてくれば良い」
「い、いや、ムリムリっ! 無理です!!」
「安心しろ。目を瞑って僕の服の裾でも摘んでついてくれば良い」
「いやいやいやいや、触覚を使ったトラップなのよね!? 目を瞑っても意味が無いんじゃないの!?」
「うるさい奴だ。とにかくついてこい」
「い~や~!!」
…………
「うぅぅ……怖い」
「だから安心しろっての。
言葉と共に召喚獣が現れる。
「え、召喚……? 何で?」
「何故召喚ができるのかという質問なら、この場所は既に召喚フィールドが張られているから。
何故召喚したのかという質問なら、こいつを拝借するため」
召喚獣の腰からあるモノを掠め取る。
「えっと、それって……」
「魔剣ダーインスレイヴ、という名の棒切れだ」
「いや、棒切れって……」
「棒切れは棒切れだ。それ以上でもそれ以下でもない。
見た目がどんだけ立派な剣であっても、役割は棒切れでしかない」
「役割?」
「そ。例えばこのように……」
ピシッ
「遠くから飛んでくるものを弾き飛ばす事が可能だ」
「いやいやいやいや、今何をどうしたの!?」
「ボリュームを落とせ」
「あ、ごめん」
「で、相手の攻撃の予測についてだが……
今の僕には普通の人には見えないものが見えているだけだ」
「それってどういう……?」
「教えてやっても良いが、マイクの前では言う気にはなれないな」
「それじゃあさ……例えば三年生の人が直接何か持って押し付けてきた場合は?
それ弾き落としたら『ダメージを与える行為』になっちゃわない?」
「それも大丈夫だ」
周囲に聞こえるようにやや大きめの声で言う。
マイクを通して三年生の本陣にも伝わるだろうな。
「その『ダメージを与える行為の禁止』ってのは妖怪サイドだけに課せられたルールだからだ」
「え? そうなの?」
「そうだ。もっとも、大怪我させるような真似をしたら肝試しのルールじゃなくて日本の
「そ、そうなんだ。でも何で人間サイドには適用されてないの?」
「ルールを作成したのは主に雄二だから推測でしか無いが……
おそらくは驚かされた人間サイドが発狂して反撃してしまった場合を考慮してるんじゃないか?」
そういう建前で二年生に有利な条件にした……可能性も否定できないが。
「……そうなのかなぁ……」
「どうだろうなぁ……」
ここまで言っておけば、物を飛ばすのではなく直接接触してこようとする連中はある程度の怪我は覚悟してくれるだろう。
牽制できれば、とりあえず十分だ。
「っと、ここで止まれ」
「どうしたの?」
「何か嫌な感じがする。僕が『目を開けろ』と言うまで絶対に目を開けるなよ?」
「わ、分かった」
「絶対だぞ? 良いな? フリじゃないからな?」
「う、うん」
……ふむ。
目の前にはやや広い空間。
その中央に、人の気配がする。
そして非常に嫌な気配がする。
教室のスペースとかを考えるとこの向こうにチェックポイントがあるのはほぼ間違いないのでここを突破するしか無いのだが……
仕方ない。行ってみよう。
島田は目を瞑っているし、飛来物は弾き落とせる。
恐怖も大分和らいだみたいだから聴覚で落とそうとしても少しは抵抗できるはずだ。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
慎重に歩みを進める。
全方向に警戒を怠らないように。
そして、空間の中央まであと3歩ほどの所で動きがあった。
空間の中央がスポットライトで照らされる。
そこには、常夏の片割れ、サルこと坊主変態が佇んでいた。
……全身フリルだらけの、ゴシックロリータファッションで。
………………なるほど。
「こいつ、
目の前の汚物が消滅するだけで全世界の大気汚染が1割くらい改善する気がする。
しかし、現在の日本では人を斬ると殺人罪に問われてしまう。
合法的なエコはこの世に存在しないのだろうか……
「……ま、いっか。とりあえず帰るぞ~」
「え? うん」
もと来た道を引き返す。
あの汚物の対策は今頃雄二が練ってるだろうから、何も考えずに帰れば良いな~
『って待てやゴラァアアアア!!!』
「ねえ空凪、何か悪霊の怨念みたいなのが聞こえた気がしたんだけど?」
「……気にする事は無い」
ふ~、しばらくは休憩できそうだな~。