『ねぇ、あの角、何か出そうじゃない?』
『うん、そろそろ出てきそうだね』
スピーカーからは一組の男女の声が響く。
肝試しに突入した記念すべき一組目の人の声だ。
確かDクラス生だったかな。
「……ねえ空凪。ウチ、目を瞑ってて良いかな?」
「ん? こういうの苦手だったのか。意外だな」
「ドイツのお化けなら大丈夫なのよ! でも日本のお化けなんて全然知らないから怖いのよ!!」
「う~ん、無理に目を開けていろとは言わないが、そういう恐怖も含めて肝試しだからな。
挑戦だけでもしてみたらどうだ?」
「それなら……頑張ってはみるけど……」
意外な弱点だな。
グロ画像を怖がるのではなく作る立場の人間だと思っていたが……
『それじゃあ僕が様子を見るよ』
『うん!!』
そしてカメラが曲がり角の向こう側を映し出す。
そこには何も無い道が広がっており……
『『ぎゃぁあああああっっっーーー!?』』
「きゃあぁぁぁっっーー!!」
スピーカーとすぐ右側から悲鳴が響いた。
それと同時にカメラに備え付けられたブザーが鳴り失格に。
……ふむ。
「雄二。どうやら敵も本気のようだな」
「ああ。まさか最初の曲がり角で失格になるたぁなぁ」
「カメラには何も映っていなかった。死角からの攻撃か?」
「恐らくは。まだ断定はできないけどな」
ってことは敵もカメラの映像見てんのかなぁ……
まぁ、だからと言ってやることは変わらんが。
続いて二組目がスタートした。
『うぅぅ、怖いよタッくん』
『安心して! どんな霊が来ても大丈夫だよ! ミッチーはこの僕が護る!!』
『ステキ! タッくん!!』
そんなやりとりを見てFクラスの連中を中心に殺気立つ。
Fクラス以外も何か呆れたような顔をしている。
ああ、あいつ、帰ってきても無事で居られると良いな。
『あの曲がり角だよね。何か出たのって』
『大丈夫。僕がついてるから!!』
「うぅぅぅ……また何か出るの?」
「おーい島田。生きてるか~?」
「死んでるわ。私はもう死んでるの! だから幽霊なんて怖くないんだから!!」
「……島田。うずくまって悲鳴だけ聞いているのと、画面を見て悲鳴を上げるの。どっちが良い?」
「どうしてそうえげつない訊き方するのよ!! 分かったわよ!」
島田は覚悟を決めたのか、顔を上げてモニターを見据える。
さて、どうなってる?
『ほらね、何も無いよ』
『そうね。きっとタッくんに恐れをなして逃げ出したのね♪』
『そうそう。僕に任せておけば……』
と、振り返った所で背後に立っていた口裂け女と血塗れの生首がモニターに映る。
「ひぃぃぃぃっっっ!!!」
隣では島田が悲鳴を上げ……
『きゃー、タッくんこわ
『ひぎゃぁぁぁぁぁぁああああああ!!!! ゆ、幽霊なんか嫌いだぁぁああああああああ!!!!』
『え、ちょ、タッくん!?』
『もうやだぁああああ!! 帰るぅぅうううう!!!』
『ちょっとぉぉぉおお!?』
そして、カメラが放り投げられたのか、画面がくるくる回った後地面を映して止まった。
……あのカメラ、結構高かったはずなんだけどなぁ。壊れてないと良いけど……
『……チッ、あんな奴はダメね。次の出会いを探しましょう』
マイクがあるのを忘れているのか、それとも覚えていての台詞か……
覚えての発言なら少々怖い。口裂け女よりずっと怖い。
『……死刑は勘弁してやるか』
『だな』
そしてFFF団がまさかの死刑免除。
肝試しで女子を置いて一人で逃げ出すというある意味もっともやってはいけない事をやらかしたのだから当然なのかもしれないが……
「うぅぅ……怖いよぉ……」
「……どうしたもんかなぁ……」
この頭を抱えて震えている島田はどうすれば良いんだろうか……?
………………
まさかの『最初の曲がり角で連続脱落』という事態に二年生全員がしり込みする。
そんな中、雄二が声を上げる。
「くっ、埒があかない。
仕方あるまい。捨てご……Fクラス生を投入する!」
『へっ、俺たちの実力をよく分かってるじゃねぇか』
『良いのか? チェックポイント全部取っちまうぜ?』
『ここで活躍して女の子にモテるんだ!!』
「ねぇ、坂本の奴、今『捨て駒』って言おうとしてたわよね?」
「? それがどうした?」
「あ、アンタねぇ……」
「ぶっちゃけ事実だからな。
あいつらは学力は低いが胆力はある。
ホラー画像を作る側の人間だからな。
将棋で例えるなら飛車や香車並の機動力を持ち、相手に取られても歩にしかならんようなものだ」
別に脱落者が相手につくというわけでもないので、この例えは少々不適切か?
「ごめん空凪。将棋知らない」
「……チェスは?」
「それなら少しは」
「では、ルークやクイーン並の機動力があるが、取られても痛くも痒くも無いような連中。だな」
「分かったような分からないような……」
「まあ、見てれば分かるさ」
「あの画像を見てろって!?」
「……音だけ聞いてりゃ良いよ。多分悲鳴上がんないから」
「え? うん……」
『お、ここだろ? 何か出るっていうの』
『らしいな。行ってみようぜ』
Fクラスペアが件の最初の曲がり角に到着する。
……あの場所『
B教室のほんの一角なわけだから僕には関係無いが。
『お、お前の後ろ何か居るぞ』
『あ、ホントだ。口裂け女か。可愛いな』
『いや、こっちの生首の方が可愛いんじゃね? 血でちょっとよく分からないけど』
『んぁ? う~ん……そうかぁ?』
『そうそう! 今から水で洗って……あれ? 触れない』
『んじゃあそいつの顔評価は血も含めてって事で良いんじゃね?』
『くぅっ。負けた!』
「このように、あいつらの胆力とぶっ飛んだ思考をもってすれば肝試しはミスコンに早変わりする」
「ミス……コン……?」
「……みたいなものじゃないかな。きっと」
……多分。
「ちょっと? 目が泳いでるわよ?」
「……そんな事より、どうやら無事にチェックポイントにたどり着いたようだ」
「あ、ホントだ」
島田も本気で追求する気は無かったのか、話を逸らしたら追求を止めてくれた。
「えっと……雄二。科目って何だっけ?」
「ん? まずは化学だ」
「参考までに、他のは?」
「えっと確か……保体、現国、物理だったな」
「了解。助かった」
「更に補足すると、化学と現国は勝負になる前に決めた科目、保体は勝負になる事が決定した後に俺が決めた科目だ」
「そして物理は三年生側が決めた科目……と。なるほど」
受験にあまり関係ない保体は三年生にとっては苦手科目であり、こちらにはスペシャリストが二人居る……と。
相手が物理を選んだのも何か理由があるとは思うが……今は良いか。
さて、相手の点数は……
[フィールド:化学]
3ーAクラス 326点
3ーAクラス 263点
両方ともAクラスか。
三年生は学校の夏期講習じゃなくて予備校通いの連中も多いのにな。
それに対して我がFクラスペアは……
2ーFクラス 59点
2ーFクrーーーー
……一瞬で蒸発したようだ。
「……ま、あいつらは捨てご……プロモーション不可のポーンみたいなもんだからな」
「そ、それは確かにやられても痛手にならないけどさぁ……」
最深部に進んだプロモーション不可のポーンなんてよっぽど特殊な状況でもない限りは邪魔なだけだろう。
……その後、Fクラスペアの偵察情報を活用し、普通に点数の高いペアを何度か送り込んでチェックポイントを突破した。