「……よっぽど僕達を怖がらせたかったらしいな」
「…………らしいな」
常夏が殴り込んできた翌日の朝。
学校に着くと見事なお化け屋敷が出来上がっていた。
ってか気合入れすぎだろ。
三年生って暇だったのか……?
「んじゃあ俺達も準備するか」
「準備? 何の?」
「モニターとかカメラやマイクの準備だ。
流石にその辺は自分でやれとの事だ」
「……そりゃそうか」
その辺は康太の担当だからな。
「あと、ペア決めもな」
「ふむ、勝利に拘るのではれば怖がりにくそうでかつ強い奴を組ませるのが正解なんだろうが……」
「基本的に男女ペアとする。それ以外は各自で決めさせれば良い」
「一応理由を聞いても?」
「野郎同士で組んで喜ぶのはホモか腐女子くらいしか居ないからな」
「ごもっとも」
「それに、そういう組み合わせにしておいた方が見てて楽しいだろ?」
「そりゃそうだ」
しっかし女子とのペアか。
僕に仲の良い女子なんて居ないがな!!
まぁ、適当に控えておくか。ペアの事は実際に出る時に考えよう。
その後、僕達より少し遅れてきた康太と指揮の下、モニター類の設置を行った。
「…………ディスプレイはAクラスから運び出しておいた」
「いつの間に?」
………………
そんなこんなで準備は終了し、間もなく肝試しが始まる。
まず、現在の状況を整理しておこうか。
こちらの戦力はFクラス49名+夏期講習に参加していた約100名の生徒達。
合計で約150人。
向こうの戦力は不明だが……最低でも100人程度か?
もっとも、チェックポイントでの入れ替えが認められてないのだから純粋な戦力としては8名。念のための入れ替え要員を含めても精々10名だから気にしなくても問題は無いが。
で、こちらのペア分けだが……
「……雄二。怖いから抱きついて良い?」
「全く怖がっているように見えないんだが……」
「さぁ、勝つわよ! 秀吉くん!!」
「うむ。ワシも尽力するのじゃ」
早々にペアを決めてる連中に関しては最早説明するまでもないな。
秀吉に近寄ろうとする男共を追い払う光の説明も要らんな。
さて、他の連中は……
「お姉様! 私が肝試しのペアに立候補します!!」
「ちょ、美春!? どこから湧いてきたの!?」
「お姉様の居る所ならたとえ火の中水の中ですわ!」
……夏になると変なのが湧くなぁ……
いや、何か湧くのは春だっけ? まあどっちでも良いや。
「ほ、ほら美春。今回は男女のペアだっていうし、ウチとアンタじゃダメなのよ」
「大丈夫です! お姉様のこの水面の如くなだらかなお胸があれば性別の壁などあって無しが如きです!」
しっかしあいつら仲良いなぁ……
合宿の時に島田は一応『騙された』人間になるわけだが……仲直り(?)できているようで何よりだ。
教師から懲罰があった以上、僕もあの件をこれ以上追求する気は無いし。
「それに、あちらの方では女子同士でペアを組んでいます!」
「いや、木下は男だって名乗ってるから」
「島田よ!? 名乗っているだけでなく実際に男じゃぞ!?」
なんだか悲しい叫びが聞こえた気がしたが……気にしないでおこう。
ところで、この流れは多分……
「もう、離れなさい! ウチはアンタと組む気なんて無くて、アキと組む……」
「……のは多分他の人と組むんで無理だからとりあえず僕と組もうか」
すぐそばで木下姉と話していた明久を蹴飛ばす。
「うおっ、な、何!?」
「明久くん!?」
そして、その明久に伸びていた島田の手が空を切る。
「あ、あれ?」
「清水。嫌がる相手に強要するのはどうかと思うぞ?」
「あ、あなたは! あの時の豚野郎!!
あなたには関係ないでしょう!!」
関係が無くもないから困ってるんだが……
「それに、あなただってお姉様と無理やりペアになろうとしているではありませんか!」
「む、確かに」
無理やり……とまではいかずとも同意は取ってないな。
「そういうわけで島田。とりあえず僕と組まないか。
そうしないとソレと組む事になるが」
「確かに美春よりはずっと良いけど……」
「お、お姉様!? まさか私よりもそんな豚野郎と!?」
「……これは2人に対して言っておく事だが……
別に後からのペア替えは禁止されていない。
島田にとっては清水が失格になってからまた選び直す事も可能だし、
清水は僕が何らかの理由で途中退場すれば島田と組むチャンスはある……
「……なるほど。分かりました。この場は退かせてもらいます。
ですがお姉様、もしそこの豚野郎が参加できなくなったら……」
「その時はウチはお腹が痛くなる予定だから♪」
「お姉様のバカー!!」
そんな捨て台詞を残して清水は去って行った。
あんなのと組んだら肝試しどころではなくなるだろうからな……
「えっと……その、ありがとね」
「気にするな。僕もペアが居なくて困ってたんだ」
「え? 誰か居なかったの?」
「誰かとは?」
「えーっと…………
あ、ほら、Bクラスの御空さんとか」
「ああ、あいつは遅れてくるそうだ」
「え? どういう事?」
「え~っとだな……」
~今朝の回想~
「……もしもし?」
『もひもひ~? こんな朝っぱらからどうしたの~』
「えっとだな。学校で2年、3年対向の肝試し大会を行うんだが……」
『っっっ!? え? どういう事!?』
「実はだな……
………………
……という事があってだな」
『なにそれ面白そう! 行く! 絶対行く!!
っていうか何で教えてくれなかったの!!』
「てっきりBクラスの誰かが伝えてるかな~って。
一応連絡を入れてみただけだ」
『ああ、せめて昨日のうちに連絡しててくれれば!!
ぜぇったい行くからね!!』
「来たら普通に参加できると思うが……」
『今親戚の家なのよ。
でも、今から電車で急いで行くから!!』
「そ、そうか。頑張れ」
『うん! じゃあね!!』
~回想終わり~
「……という事があってだな」
「わ、わざわざ電車で来るの……?」
「そうらしいな。何が奴を駆り立てているのかは不明だが」
「そ、そう……」
単純にお祭り騒ぎみたいなのが好きなんだと思うが……わざわざ電車で帰ってくるって一体……
「あれ? そう言えばアキは優子さんと組んでるの?」
「らしいな」
「でも何で? あの2人ってそんなに仲良かったっけ?」
「え、それ訊いちゃうか?」
「??」
「質問なら素直に答えようか。
理由は簡単。あの2人は付き合ってるからだ」
「…………え?」
「ん? 聞こえなかったならもういちど、あいつらは……」
「いや、そうじゃなくて!! ほ、ホントなの? あいつらが付き合ってるって……」
「ああ」
「いっ、いいいいつから!?」
「まずは声のボリュームを落としたまえ」
「あ、ゴメンナサイ」
島田は一つコホンと咳払いし、小さい声で話す。
「(それで、一体いつからなの?)」
「(約一月前からだと記憶している)」
「(そんなに前から!?)」
「(ああ。クラスの連中には黙っておけよ。血の雨が降るから)」
「(そうね……)」
島田は明久がフラグを建てちゃった人物の一人だが……思ったよりショックは少ないようだな。
『感謝』や『友愛』は『恋愛』までは発展していなかった……事を願う。
「(ところで、これって瑞希は知ってるの?)」
「(知らなかったら今回のペア分けで真っ先に明久を誘うかそれに準ずる行動を取ってると思うが?
あんな隅っこの方でずっとこちらの様子を伺うなんて事はせず)」
「(それもそうか……って、瑞希はあんな所で何をしてるの?)」
「(僕が関わっている自信はあるが、行動の真意までは知らん。自分で訊いてこい)」
「(そうね……機会があったら訊いてみるわ)」
……ホントにあいつ、何をしてるんだ……?