バカ達と双子と学園生活   作:天星

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03 動機

 学園長の話を聞きながら思っていた事がある。

 『補習に強制的に参加させられているFクラスならともかく、望んで勉強しに来たAクラスとかの連中がこんな茶番に付き合うのだろうか?』と。

 そう、思っていたんだが……

 

『お~い、暗幕が足りないぞ。追加頼む!』

『ここに置いてある枯れ井戸って使って良いの?』

『吉井! このロッカー移動してくれ!!』

 

 結構みんなノリノリでやっている。

 雄二が扇動したという事もあるとは思うが……

「みんな意外と遊びたがってたんだな」

「勉強は大事だって意識をもって勉強してる奴も多いだろうが、本当に好きで好きで仕方ないって奴は少ない。

 だから遊びをもちかけられたら喜んで遊ぶ。そういうもんだ」

「恐れ入ったよ雄二」

 流石は代表というわけだな。

「……それに、翔子が積極的に指揮してるからな」

「ついさっきの感動を返せ!」

 集団の心理を読み切ったんじゃなくてたった一人取り込んだだけじゃないか!!

「いやいや、指揮者の心理ってのは集団の心理に大きく影響する。

 その指揮者の人望が厚ければなおさらな。

 だから俺は代表である翔子、副代表であるお前の妹、あとその2人の補佐になる木下姉の3人を説得するだけで良かった。

 どいつもこいつもこういうお祭りに参加する共通の動機があるしな」

「なるほど」

 確かに、いつも信頼してるリーダーが乗り気なら付き合ってあげようという気にもなるだろう。

 それに『遊びたい』という潜在的な意識が重なって、今の状態になるわけか。

「……訊かないのか?」

「ん? 何を?」

「……訊くまでも無いって事か。相変わらず性格が悪いな」

「うん?」

 先ほどまでの会話を振り返る。

 ………………ああ、アレか。

「そうだったな。『共通の動機』について訊くべきだったな」

「そういう事だ」

 霧島と光には極めて強い動機がある。

 他クラス、より正確にはFクラス生と付き合っている……と。

 霧島の場合はかなり微妙な関係ではあるが、付き合っているようなものだからな。

 では、木下姉は?

 雄二が共通の動機と言ったからにはFクラス生の誰かと付き合っているのだろう。少なくとも雄二はそう思っている。

 そして、それは普通なら僕は知り得ない情報だ。

 ……普通なら。

「もしあいつらが付き合ってるなら、それを取り持ち更に隠蔽まで指示していた事になる。

 そんなことをわざわざするような奴の心当たりは一人しか居ない」

「そこまで理解しててこの僕にカマをかけるとは……恐れ入ったよ代表」

「しっかしこれ、島田や姫路は知ってるのか?」

「島田は分からん。が、姫路は知っている」

「……そうか」

「……ああ」

「……ここ最近姫路の様子がおかしいのもそれが関係してるのか?」

「……さてな」

 無駄話は止めて、準備を手伝うか。

 

 

 

  ………………

 

 

 皆が準備する様子をぼんやり眺めたり適当に手伝ったり。

 因縁のあるクラスとかともそこそこ仲良く準備していた。

 ちょうどそんな時だったな。

 

「「「お前らうるせぇんだよ!!」」」

 

 坊主の猿とモヒカンの……猿(?)を筆頭とする三年生達が殴り込んできたのは。

「どこかで聞いたことがある類人猿っぽい声と……猿人類(?)っぽい声だな」

「テメェバカにしてやがんのか!」

「え? ああ、すみません。類人猿と猿人類に失礼でしたね。ごめんなさい」

「こンのっ!!」

 しかし何しに来たんだ? この猿……じゃなかった。先輩方は。

 さっき『うるさい』とかとち狂った事を言ってた気がするが……

 よし、訊いてみよう。

「で、どうしたんですか? 清涼祭で女子に痴漢した夏川先輩と常村先輩」

「そのフザケた濡れ衣は今すぐに撤回しやがれ!」

「え? それじゃあ明h

「ストップ剣!! それは僕にもダメージが入る!!」

「……某男子に『カワイイ』と発言した上でいやらしく見つめたホモ先輩とお呼びすれば……」

「ふざけんじゃねぇぞこの野郎! 大体アレは女装してただろうが!!」

「え? いやらしく見つめてたのは否定しないんですか。うわー」

「こ、このっ!」

 ふ~、相手を的確に貶めるスキルがどんどん磨かれている気がする。

「で、一体どうしたんですか? 用が無いなら邪魔なので消えてくれると助かるんですが」

「てめぇらがうるさくて勉強に集中できねぇんだよ!!」

「……なるほどそうですか。どういたしまして」

「ふざけてんのか!!」

「いえ、だから先輩達は感謝しに来たのでしょう?」

「ハァ!?」

「だって、試召戦争という騒ぎを起こす事を前提に建てられた防音設備バッチリの新校舎で、真面目に勉強をしていた先輩が下の階の僕達の声を聞き取れたって事でしょう?

 つまり、先輩方はかなり良い耳を持っているか、もしくは未知の法則を操る超能力者という事になります。

 それに気づけた。今から調律師かその他音楽関係の資格を取る、または能力開発研究をして一山当ててやる。適正に気づかせてくれてありがとう。

 そう言いに来たのでしょう?」

 

 

『ねえ雄二、剣は何を言ってるの?』

『防音設備が整ってる教室内に居たなら騒ぎは気にならないはずだ。

 つまりサボって遊んでいたんだろう。遊んでた奴が文句を言うな。

 っていう内容の事を皮肉たっぷりに言ってるだけだ』

『あ~、なるほどね』

 

 

 向こうの方で僕達にも聞こえるような声で話しているのが聞こえた。

 それを聞いた三年生達がなんとも微妙な表情になった。

「フン、勉強ってのは休息も必要なんだよ!!

 お前らみてぇに先輩を敬う事も知らねぇクズ供には分からねぇかもしれねぇがな!!」

 流石は常夏コンビ。痛いところを突かれても平然と開きなるな。

 しかし、休息が必要……か。ふむ。

「では、先輩方も肝試しやります?」

「ハァッ!?」

「……おい剣っ!?」

 驚く先ぱ……変態と驚く振りをする雄二。

 雄二も三年生を肝試しに巻き込もうと考えていたのだろう。相手の警戒心を解く為に意見が割れてる振りをしてくれたようだ。

 そういう事なら僕は僕の仕事をしようか。

「ケッ、冗談じゃねぇ。何だって俺たちがてめぇらと仲良く肝試しなんざやらなきゃならん」

「いえ、何も仲良くとは言ってません。

 肝試しって二つの陣営に分かれてやるものでしょう?」

「あン? ああ、そういう事か」

 

『雄二、どういう事?』

『まあ見てりゃあ分かる』

 

「お気づきになられたようですね。

 驚かす側と驚かされる側。

 そうやって分ければ仲良くする必要は全くありません」

「なるほど、悪かねぇ。当然、俺たちが驚かす側だよな?」

「ええ。存分にストレスを発散すれば良いでしょう」

 この肝試しの目的は『楽をする事』だからな。この展開は正直言って理想的だ。

 だって、驚かす側って事は面倒な準備を全部受け持つって事だからね。

 僕達は完成したコースをワクワクしながら進めば良いだけだ。

 ……巻き込まれた善良な三年生はご愁傷様としか言い様が無いが。

「決まりだな」

「交渉成立ですね。

 雄二、ルールの紙ってある?」

「ああ。ほれ」

 3枚の紙が渡されたので、2枚を常夏に渡して残り1枚を確認する。

 詳細は知らないんだけど、どんな感じに仕上がったんだろうか?

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 文月学園納涼肝試し大会ルール

 

驚かす側を『妖怪サイド』、驚かされる側を『人間サイド』とする。

 

・基本ルール

 ・共通

  ・設備を壊してはならない。

  ・チェックポイント以外の場所で召喚獣バトルを行ってはならない

   (召喚は自由。なお、教室には常に召喚フィールドが展開している)

  ・戦死した場合、科目を問わず召喚獣を出す事を禁止するが、補習は免除する。

 ・人間サイド

  ・基本的に2人1組で行動すること。但し、1人になっても失格ではない。

  ・その2人の内どちらかが悲鳴を上げたら両者とも失格になる。

   但し、チェックポイントで戦闘中の場合は失格にはならない。

   (なお、失格になった生徒はチェックポイントの挑戦権を失う)

  ・教室への突入時にはカメラとマイクを携帯すること。

   (不正の防止、及び脱落者や待機者の楽しみの為)

  ・全4箇所のチェックポイントを突破する事で勝利になる。

 ・妖怪サイド

  ・チェックポイントに辿り着けないような構造を用意するのは禁止する。

   もしそのような構造になっている事が確認されたらそのチェックポイントは突破された扱いになる。

  ・人間サイドを驚かして脱落させる。

   但し、相手の体にダメージを与える行為は禁止とする。

  ・各チェックポイントに代表者2名を配置する。(クラス代表でなくても良い)

  ・人間サイドの人数が2人未満になったら勝利になる。

 

・チェックポイントについて。

 ・妖怪サイドの代表者2名と、人間サイドのペア2名が召喚獣バトルを行う。

  代表者を撃破したらチェックポイント突破となる。

 ・規程の円の中から召喚者、又は召喚獣が出てしまった場合は戦死扱いとする。

  (召喚フィールド自体は教室全体に広がっているので、広さを生かして延々と逃げ回る戦法を防止する為)

 ・人間サイドは2名でのみ挑戦できる。

  1名だけ、又は3名以上で挑戦した場合、勝利しても突破とは認めない。

  但し、戦闘開始時に2名で戦闘中に片方が戦死した場合は1名での突破を認める。

 ・人間サイドは、戦闘中、戦死等何らかの理由で2名の内片方が脱落した場合でも、戦闘中の人員の補充は認めない。

 ・代表者は原則として入れ替えは禁止、補充試験も禁止。

  ただし、上述のルールで無効な勝負による戦死が発生した場合には入れ替える事ができる。

  また、病気や怪我などやむおえない理由があった場合も入れ替えを認める。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 なるほど。大体把握した。

 要するに妖怪サイドは脅かしまくりつつ強い人をチェックポイントに配置。

 人間サイドは心を無にして突破し、チェックポイントに波状攻撃を仕掛ける……と。

 

「おい坂本」

「何だ猿」

「誰が猿だ!!

 まあいい。こいつには明確な勝敗があるみてぇだな」

「ああ。その方が分かりやすいだろ?」

「だったら『負けた方には罰ゲームを用意する』ってのはどうだ?」

「構わんが……無難なものにしとけよ?

 学年全体を巻き込むわけだからな」

「あン? チッ、確かにそうだな」

 

 個人的な勝負ならいくらでも吹っかけられるだろうけど、学年全体に関わるとなるとなぁ……

 ……よし、どうせだからもっと楽する為に提案してみるか。

 

「だったら、体育祭の準備片付けを相手の分まで引き受ける……というのはどうでしょうか?

 これなら厳しすぎないと思いますが」

「ヌルい提案だな」

「……ご不満なら、僕達と直接勝負します?

 チェックポイントで待っていれば機会はあるかもしれませんね」

「チェックポイントか……面白れぇ。乗った」

 

 機会はあるかもしれないが、確実にあるとは言ってないしなぁ……

 とにかく、これで体育祭の準備もサボれる。

 人数にも依るが、この勝負は人間サイドの方が有利そうだしな。

 100人ずつ参加するとして、道中で失格になるのが半分だとしても50人で攻略できる。

 それに対して妖怪サイドは8人。相当高度な驚かす技術か召喚獣バトルの実力が要求されるだろう。

 

「ところで、賭けが入る勝負なら聞いておきてぇ事がある」

「何だ?」

「この紙に書いてある『悲鳴』ってのはどう判断すんだ?」

 

 確かに。それは盲点だったな。

 テキトーな基準にすると後で間違いなく揉める事になる。

 

「ん~、そうだな。マイクが拾った音量で判断するか。

 一定値を越えたら失格って事で」

「んな事ができんのか?」

「康太、できるか?」

「…………無論だ」

 

 そのルールだと単純に大きな音量で失格になってしまうが……

 ちょっと追加させてもらうか。

 

「では、人間サイドのルールを『大きな声を出したら失格。声の大きさはマイクで判断する』と書き変えておきましょうか」

「おう。頼む」

 

 この言い回しなら、妖怪サイドが近づいてきて大声を出してマイクが大音量を拾っても失格になる事は無い。

 そんな事は流石にしないと思うが……不安な穴は塞いでおく。

 

「他にルールに疑問点はありますか?」

「いや、問題ねぇ。

 お前たちが怖がる姿が楽しみだぜ!」

 

 人によっては相当怖がるとは思うけど、僕達が怖がると思ってるんだろうか……?

 まあいいか。サボれるなら何でも。


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