「それじゃ鉄人。もう隠すことも無いから普通に召喚許可くれるよな?」
「雄二の召喚獣も見てみたいですから。大丈夫ですよね?」
「うむむ……仕方あるまい」
理解が早くて助かる。
「ほら、フィールドは張ったぞ」
鉄人が教室全体にフィールドを張ってくれた。
Fクラス全員で自由に使えるようにという配慮からだろう。
「感謝します。
それじゃ、誰からやる?」
「…………(スッ)」
僕達の前に現れたのは康太。
「よし。それじゃあ……呼び出す前に軽く予測してみるか」
「面白そうだね」
康太の本質……本質かぁ……
「「「「エロだな/だね/じゃな」」」」
「…………そんな事は無い」
「しかし、仮に『エロ』だったとしてだ。
そういうオカルトって何だ?」
う~~~~~む…………
「こらこら。学び舎で不健全な想像をするんじゃない。
そういう召喚獣がもし居ても、学園長が何とか修正した……はずだ」
「はずって何ですかはずって」
「とにかく、召喚してみれば分かるだろう」
そりゃそうだ。
「…………極めて遺憾だ。
康太が愚痴を漏らしながらも召喚する。
お馴染みの魔方陣の中から現れたのは……血色の悪い黒マントの男だった。
「おい、何か顔色が悪いが、ちゃんと飯食ってるのか?」
「…………召喚獣の事を訊かれても困る」
「う~む、この感じはヴァンパイアかのぅ?」
「言われてみれば確かに」
「何でヴァンパイアなんだろう?」
「血に困ってるとか、女好きとか、そんな感じか?」
「…………心外だ」
でもこのヴァンパイア、女を襲えるのか?
襲おうとしたら貧血で倒れそうなんだが……
「では次、誰が行く?」
「うむ、ワシが行こう」
「秀吉の召喚獣か……」
「ワシと言えば演劇、演劇と言えばワシじゃからな。きっとオペラ座の怪人のようなオシャレな……」
「女に化けて人を食う妖怪なんていくらでも居るな」
「……剣よ、ワシとて傷つく事はあるんじゃぞ?」
「え? ああ、すまん」
何か割と本気で傷ついてる気がする。
ちょっと失言だったか。
「と、とにかく、呼んでみるぞい?
そして現れたのは……
「……猫娘?」
「いや、尻尾が二股に分かれてる。猫股だな」
「猫股にしては擬人化されすぎてないか?」
「そこは……秀吉の本質が影響してるんじゃないか?」
「何なんじゃ一体!! ワシの本質とは!!」
この召喚獣から導き出される本質は……
「『可愛い』……かなぁ……?」
「……ワシはシステムにまでそんな扱いを受けているのじゃな……」
「じゃ、次は雄二か」
「お前じゃないのかよ。まあいいが……」
「で、雄二の本質となると……」
「裏で策謀を巡らすイメージがあるから、どこかの大悪魔が出てくるかもしれんのぅ」
「それはどちらかと言うと剣の方じゃないか?」
心外な。
「分かってないなぁみんな」
そう堂々と発言したのは明久だ。
「じゃあお前には分かるのか?」
「雄二と言ったらあの妖怪しか居ないじゃないか!
ほら、友人を裏切り幼なじみを騙すっていう伝説のある妖怪!」
いやに具体的だな。
「そう、坂本雄二っていう妖怪が!!」
「くたばれ」
「くぺぁっ」
雄二が床に転がっていた明久の召喚獣の頭を踏みつけた。
こうやってみるとこの召喚獣弱点だらけだな……流石は明久の召喚獣。
「じゃ、呼び出すぞ。
そして現れたのは……
「……妖怪坂本雄二?」
「そんなバカな!!」
現れたのは、上半身裸の坂本雄二だった。
「ほら! 僕が言った通りじゃないか!」
「いやいや待て待て!! 他にもっと何かあるだろ!! 例えばほら、ドッペルゲンガーとか!!」
「雄二には似合わないのではないかのぅ?」
「同意する……が、まさか本当に妖怪坂本雄二ではあるまい。一体何だ?」
っていうか坂本雄二やドッペルゲンガーだったら普通に服着てると思うし。
ん? 服を着ていない……?
「なるほど。妖怪露出狂か」
「ブチのめすぞ」
冗談だって。どんな本質だよって話になるし。
「この召喚獣だが、変身でもするんじゃないか?」
「どういう事だ?」
「服が要らないっていうか邪魔な理由を適当に考えて言っただけだ」
「変身する妖怪と言っても沢山居ると思うのじゃが……」
「割とポピュラーな妖怪で、変身してない時は人の姿、そして雄二っぽい妖怪となると……
……狼男とかが妥当か?」
「狼男ねぇ……」
「調べる方法は簡単だ。そう、満月を見せれば良い」
「夜まで待つ気か?」
「満月は一週間前に過ぎてしまったのじゃが……」
「…………」
無言で自分の机に向かい、ノートを取り出して鉛筆で絵を描く。
「これでどうだ!!」
満月の出来上がりだ!!
「おいおい、いくらなんでもそんな単色の鉛筆で描いた絵で変身なんて……
『ウオォォォォォォンン!!』
「「「………………」」」
「…………マジでできたよ」
どんだけ適当な妖怪だよ。
「本質は、『漢らしさ』とか『野性っぽさ』とかかな」
「……かもな」
「さて、最後は僕だな」
「大悪魔かのぅ?」
「ヴァンパイア、猫股、狼男と来て大悪魔ってのはどうなんだ?」
「とりあえず呼んでみようよ」
「では、行くぞ。
魔方陣が起動し、召喚獣が姿を表す。
「っ、これは……」
「えっと、妖怪空凪剣?」
そこにあったのは、紛れもなく僕自身の姿。
雄二のように服を着ていないという事もなく、文月学園の制服を着ている。
「……どういう事だ?」
「あ、おい、腰に何かあるぞ」
雄二に言われて見てみると。腰に
こいつは……
「あれ? これって……」
「どうした明久」
「う~ん、これって『魔剣ダーインスレイヴ』じゃないかな」
「ちょっと待て。お前はいつから刀剣鑑定士になったんだ?」
そんな職業があるのかは知らんが、少なくともただの学生にできる事では無い。
「いや~、ファイナルクエストのグラフィックに似てたからさ」
「……それだけか?」
「うん」
いやいや、そんなバカな事が……あり得るのか?
本物のダーインスレイヴなんて出されても誰にも伝わらないからシステムが空気を読んでゲームの中のグラフィックから持ってきた……とか?
もしそうならこのシステム、なかなか有能だな。
「この魔剣がメインで、召喚獣はオマケって事か。
なら外見が至って普通なのも納得だな」
「北欧神話からの引用とは、ずいぶんと跳んだのぅ」
「とりあえずダーインスレイヴだとして、本質って一体何だ?」
「……簡単な事だ」
一呼吸置いてから、語る。
「『安易に抜かれる事はない。が、一度抜いたら誰かの命を喰らうまで鞘に戻らない殺戮の魔剣』。
確かに僕にぴったりだな」
「そういう意味……なのか?」
「そういう事だろう。きっと」