……その頃 校門にて……
「突然呼び出して、どうしたんだろう……?」
メールには『大至急来い』とだけ書かれていて要件は書いてない。
……あれ? 何か下の方まで続いてる。え~っと……
『スマン、嘘だ』
「ちょっとぉぉおっっ!?」
あいつっ、こんな大事な時にっ!!
……ってまさか、大事な時だからこそ……?
事実として、僕はこのメールのおかげで屋上から立ち去るタイミングを作れたし。
まさか……あいつ、すぐそばで見てたんじゃないだろうか……?
「え、あ、よ、吉井くん?」
携帯を睨んでいたら声がかけられた。
顔を上げて振り向く。
そこに居たのは……
「え? 木下さん?」
な、何て言えば良いんだろう? 悪いことしたわけじゃないんだけど、何か気まずいと言うか……
……とにかく、さっきの事は話しておくべきだよね。
「「あ、あのっ」」
被ったぁっ!
「ど、どうしたの木下さん」
「い、いえ、吉井くんから……」
ああ、何か漫画とかで見たことあるような光景だなぁ……
えっと、こういうときはどっちから言うべきなんだろうか?
「……それじゃあ私から」
「あ、どうぞ」
優子さんは一呼吸置いてから話し始める。
「あの、姫路さんの事なんだけど……」
「っ!?」
「えっと、その……吉井くんの事が好きらしいの……」
「……ごめん。それ、さっき本人から聞いた」
「ええっ!?」
そりゃ驚くよね。うん。
「そ、それって、告白されたって事?」
「そうなる、ね」
「そ、それで、な、何て、答えたの?」
「もちろん断ったよ。僕には木下さんが居るから」
「……そう」
「ねえ吉井くん」
「何?」
「もし、もしもだけどさ……
私に告白される前に姫路さんに告白されてたら……吉井くんはどうしてた……?」
「え? それは……」
イメージしてみる。
もし、例えば新年度が始まった日に告白されていたら……?
どうなっていたのだろうか……?
「……ごめん、変な事訊いて。忘れて?」
「あ、うん」
「さ、帰りましょう。たまには一緒にね」
「……そうだね」
……もしかしたら、もしかしたらだけど……
ほんの少しだけ、運命の歯車が食い違っていたら、
ちょっとした意識の違いとか、ほんの些細な事で、
それだけで、今の優子さんとの関係は存在していなかったんだろうか……?
ふと、そんな不安に襲われた。
だから、ちょっとだけ意識を変えてみよう。
今の関係を大事にしつつ、ちょっとだけ踏み込んでみよう。
そう、思った。
「……優子さん」
「え?」
「……大好きだよ」
「え、あ、えっと……私もよ。明久くん」
そして彼女は少しだけ間を置いて……
「……ありがと」
そう、言った。