バカ達と双子と学園生活   作:天星

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Destiny

「……姫路さん」

「はい」

「……ごめんね。僕は姫路さんと付き合う事はできない」

「……そう……ですか」

 

 しばらく沈黙が続いた後、姫路さんが口を開いた。

 

「あ、あの……どうしてですか? 私じゃ、ダメですか?」

「……姫路さんが悪いんじゃないよ」

「だったら、どうして!?」

「僕には……

 もう既に付き合ってる人が居るから」

「そんなっ!?

 一体、誰なんです!?

 美波ちゃん? いえ、違いますよね?

 誰なんですか!?」

「お、落ち着いて姫路さん!」

「あ……ごめんなさい」

「僕が付き合っているのは、優子さんだよ」

「ゆう、こ? 木下優子さんですか?」

「うん」

「そんな……どうして? 一体いつから……?」

「えっと、ひと月くらい前からかな」

「ひと月? え? でも……」

 

 何か考え込む姫路さん。

 うぅぅーん……こういう時ってどう声をかければ良いんだろう?

 

 僕は、姫路さんを振ったんだ。

 だから、安易に話しかけちゃいけないと思うんだけど、思うんだけどさ!

 どうすべきなんだろう?

 

 

プルルル プルルル

 

 

「「!!」」

 

 僕の携帯が鳴ったみたいだ。メールが来てる。

 

 From 空凪 剣

 To 吉井明久

 sub 大至急

 本文 校門前まで来てくれ。今すぐに。

 

 

 えっと、これだけ?

 仕方ない。行ってみよう。

 

「ごめん姫路さん、呼ばれたから行くね!」

「あ、はい。どうぞ……」

「じゃあ」

 

 ちょっと心配だな。

 ……でも、僕にできる事は無いのかな……?

 

 

 

 

  ……明久side out……

 

  ……剣side……

 

 

 

 

「……行ったか」

 僕の現在位置は、まさに屋上の扉の前だ。

 明久と鉢合わせないように物陰に隠れてたが、気づかずに行ってくれたようだ。

 校門前に行っても僕は居ないが……メールの下の方に『スマン、嘘だ』って書いておいたから待ちぼうけにはならないだろう。多分。

 ……さて、僕のすべき事をやるか。

 

 

 

「姫路」

「……空凪、くん」

「…………残念だったな」

「……私は、運命を感じていました」

「うん?」

「私が吉井君と初めて会ったのは小学生の時でした」

 

「その後、中学校で離ればなれになって、もう一度出会えたのは、この学校でした」

 

「空凪くんなら当然知っていると思いますけど、私は振り分け試験の時に熱を出してしまって、途中退席せざるを得ませんでした」

 

「その時に助けてくれたのが、吉井君だった」

 

「そして私は気付けたんです。

 吉井君の事が、好きなんだって」

「……そうか」

 

 あいつらしい話だな。

 大事な試験の最中に他人を気にして、自分の立場を危うくした。

 ……ホント、あいつらしい。

 

「運命を感じていた。

 けど、それは勘違いだったんですね……」

「……かもな」

 

 そうかもしれないし、違うかもしれない。

 もともと運命なんて無かったのか、それとも、誰かが……いや、僕が捻じ曲げてしまったのか。

 

「……一つだけ、教えて頂けないでしょうか?」

「何だ?」

「あなたは……

 

 

 知っていましたよね?

 こうなる事を」

 

 

「…………」

「吉井君と優子さんが付き合い始めたのは大体ひと月前。そんな長い期間あなたが気付かないはずがない。

 違いますか?」

「……ああ。知っていた」

「っっ!!」

「ついでに言うと、あの2人の仲をとりもったのは僕だ」

「だったら……」

 

 一呼吸置いて、姫路が叫ぶ。

 

「だったらどうして止めてくれなかったんですか!?

 止めてくれていたなら、こんな気持ちになる事は無かった!!

 どうしてなんですか!!」

 

 泣き叫ぶ。それこそ堰が切れたように。

 

 

「一つだけ、教えてやろう」

「……なんですか?」

「なに、単純な事だ」

 

 少し間を置いて、淡々と語る。

 

「僕は、受けた痛みは忘れない。絶対に、等価のものを返す」

 

 ……その台詞を言った時、どんな表情をしていたかな?

 復讐者が獲物を狙うような、冷酷な笑みだったのか、

 それとも、何かの目標を達成した子供のような、一点の曇り無き笑顔だったのか。

 そこまでは覚えていないが、少なくとも目の前の相手に恐怖を覚えさせるような表情だった事だけは覚えている。

 

「痛み……まさか、合宿の時の事を……?」

「……これ以上話す事は無いようだ。

 さらばだ」

「…………」

 

 姫路を置いて、屋上を去る。

 

 これにて、物語は終了した。

 姫路と明久の道が交差し、一つの道となる事は無いだろう。

 ……永遠に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一つだけ、誤算があった。

 最後の一言、これを聞き逃したが故に僕の未来予測は大幅に崩れた。

 まぁ、この時点で、いや、もっと前から未来は変わっていたんだろう。

 でもまぁ、それで良かった。それ故に僕は……

 ……いや、これを語るのは後でも良い。

 一応、聞き逃したその言葉を書き留めておこう。

 彼女は最後に、こう言っていたそうだ。

 

 『……どうして?』

 

 と。


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