バカ達と双子と学園生活   作:天星

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姉弟

  ……明久side……

 

「まったくもう、アキくん、いえ、アレクサンドロス大王くんと呼んだ方が良いですか?」

「うぅぅ……無記名で0点になっちゃっただけで点数はそれなりに良かったはずなんだよ……」

「本番の受験で同じミスをして、その言い訳が通じると思いますか?

「うっ、ごめんなさい……」

 世界史のテストは、名前記入ミスで0点という残念な結果に終わってしまった。

 だけどさ……

「確かに世界史は残念だったよ。

 けどさ、約束は約束だよ!」

「……そうですね」

 

  吉井明久

 合計点 1206点

 

「これで減点を上回ったよ!!」

「驚きました。得意科目をまるまる落としたにも関わらず結果を出すとは」

「うん! だから、僕の一人暮らしは……」

「……アレクサンドロス大王くんを残して行くのは少々心配ですが……」

「うっ、その話はもう

「でも、約束ですからね。私はアメリカに行ってしまいますが、頑張ってくださいね」

「うん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ……翌日朝……

 

 

 今日から夏休み!!

 ……と言いたい所だけど、試召戦争で潰れた分の補習があるんだよなぁ……

 はぁ……何で夏休みなのに学校に行かなきゃならないんだろう。

 まあいいや。サボっちゃえ♪

 

「どうしましたアキくん。今日は補習があるのでしょう? 早く起きないと遅刻してしまいますよ?」

「う~ん……あと1時間……」

「もぅ、早く起きないともの凄いチュウを……」

「殺気っ!!」

 

 猛烈な悪寒やら何やらを感じて急いで飛び上がる。

 っていうか……

 

「な、何で姉さんが……? アメリカに帰ったはずじゃあ!?」

「何でも何も、そういう契約だったと聞いていますが?」

「けい、やく?」

「はい。この鍵の持ち主から、部屋の一つを自由に使っても良い……と」

 

 そう言って姉さんが懐から取り出したのは、なんだか見覚えがある鍵。

 こ、これはまさかっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ……遡る事数時間 空港にて……

 

  ……玲side……

 

 アキくんは私が課した減点を見事に乗り越えました。

 アレクサンドロス大王は残念でしたが、それ以外は大丈夫でした。

 だから、もう何の心配も無い。私が家に居る必要は無い。

 なのですが……

 

「……はぁ……」

 

 なんだか、気が晴れません。そんなはずは無いのに。

 

 

「ふぅ、やっと来たか。待ちくたびれたぞ」

「? 貴方は……剣くん?」

「覚えていてくれたようで何よりだ」

 

 目の前に居たのは、アキくんの友人の一人である剣くん。

 一体こんな所でどうしたのでしょうか?

 

「あんた、こんな所で何やってるんだ?」

「いえ、それはこちらの台詞ですが……」

「……あんたがアメリカに帰りたい、いや、行きたい?

 まあいい。あんたがアメリカ行きの飛行機に乗りたいってんなら止めはしない。

 だが、本当にそうなのか?」

「どういう意味でしょうか?」

「ったく、単刀直入に言うぞ。貴様は弟と一緒に暮らしたいんじゃないのか?」

「……そんな事はありません」

「本気でそう思ってるなら、あんたは明久とは違う意味でバカだな」

「む、失礼な。私は弟と違ってバカじゃありませんよ?」

「そうか。なら僕が今から言う事を黙って聞いていてくれ。

 反論は一番最後に受け付ける」

 

 そう言うと、剣くんは一呼吸置いて、話始めました。

 

「僕があんたについて持ってる知識はそう多くない。

 明久から聞いた頼りない伝聞情報、そして直接接触したわずかな時間で得られた情報だけだ。

 だが、それだけでも推理する事は十分に可能だ」

 

「まず、初めて合った時、あんたは明久に食材の量を咎められていたな。

 2人分には多すぎる。いや、これで合っている。と。

 明久の言う通り、あの量は素人が見ても多すぎだ。よっぽど奇天烈な調理をしない限りは、だが」

 

「だが、あの量で仮に合っている。そしてあんたが料理にそんなに明るくないというのなら別の仮説が成り立つ。

 例えば、『失敗する前提で大量に購入した』場合とか」

「そんな事はっ!」

「あの家の生ごみか冷蔵庫を調べればすぐに分かる事ではあるが……

 こんな場所で言ってもしょうがない。反論は後で聞く」

 

 ……驚きました。ただ『量が多かった』だけでそこまで見透かされるなんて……

 

「続いて、あんたは嫌に点数を気にしていたな」

「学習態度の監視も含めて来たのだから当然です」

「いや、不自然だ。

 文月学園のテストの点数なんて、実際に受けた者くらいしか実感できない。

 通常方式のテストを平行して受けさせるなら話は別だが、そんな面倒な事はやってないしな」

「……それで、それがどうしました? 何と言われようと、私は気になったので聞いただけです」

「確かに。この情報単体では意味を成していない。

 ……が、翌日のあんたの奇行と照らし合わせると一つの仮説が浮かぶ」

 

「あんたに示した具体的な点数は約900点。

 ……分かりやすいように、差分を見て+300点。と言っておこうか。

 その翌日にあんたが課した減点は260点。なので、220点から480点へと増えたわけだ。

 言い換えると『割と余裕があった状態』から『頑張らないと不味い状態』へと移行したわけだ」

 

「保体の参考書がうんたらかんたらで60点ほど減点されたというのは割と真っ当な減点だとは思うが、襲おうとしたら突き飛ばされたので200点減点っていうのは強引過ぎ。

 多少無理にでも減点をしたかったという意図が見て取れる」

「そ、そんな事は……」

「故に、ここまでの推理で導き出される情報は二つ。

 一つ、あんたは明久の事が好きであること。LikeかLoveかは置いておくが。

 二つ、あんたは明久に減点を上回る得点を得て欲しくなかったという事だ!」

「っ!!」

「更に進めるぞ。

 減点を上回る得点を得て欲しくなかった理由についてだ。

 この答えは一つ目の情報を考えれば自ずと出てくる。

 では、結論を言おうか」

 

「あんたは、明久と一緒に暮らしたかった。違うか!?」

 

 

 

 

 

「……私は、アキくんの面倒を見てあげたかったんです。

 でも、もう私は必要無いみたいです。だから……

「僕が貴様に言っているのはそういう事じゃない。

 一緒に居たいか、居たくないか! どっちだ!!」

 

 そんなの……そんなの!

 

「一緒に居たいに決まっているでしょう!?

 ですが! もう一緒に居てはいけないんです!!」

「やっぱりバカだあんたは。そんな事誰が決めた。

 一緒に居たいなら一緒に居れば良いだろうが!!

 その気持ちを明久にぶつけてやれ!」

「あなたも聞いているのでしょう!? 減点を上回る得点を得られたなら、私は帰らなくてはならないんです!!」

「……それだけか?」

「え?」

「貴様を縛っているものはそれだけなのかと訊いているんだ」

「それは……はい」

「では、明久との約束の文言を正確に言ってみてくれ」

「そうですね……

 『期末テストの点数が出た時点で、総計が0点以下であった場合、

  アキくんに一人暮らしは不適と判断し、姉さんが一緒に暮らします』

 ……だったと思います」

「では、0点を越えた場合は?」

「…………あ」

「……決めてないのか」

「……はい。ですが、だからと言って0点を越えていても一緒に暮らしても良いというのは……」

「確かに。やや無理があるな。

 だが……『アメリカに帰る』という類の文言が無いなら問題は無い」

「それはどういう……?」

「ほら、受け取れ。

 僕が借りた『倉庫』の鍵だ」

「え? この鍵はっ!?」

 

 剣くんから投げ渡されたのは、紛れもなく私たちの家の鍵でした。

 これは一体どういう事でしょうか……?

 

「僕の家の収納スペースがちょっとマズいんで、明久のテスト勉強に付き合う報酬として明久の家のどこか一室を借りる権利を貰った。

 いざという時は急いで片付けるという条件でな」

「アキくん……部屋を貸す約束をしていたのですか……」

「そういうわけで、明久の家の部屋のどれか一つは僕の倉庫だ。

 そこに誰かが住み着いても、僕は何ら文句を言う気は無い」

「っ!! では!!」

「おっと、あんまり酷いようだと僕の倉庫から追い出すぞ。

 『一緒に暮らしている』わけでは無いのなら、家での接触は最小限に」

「……はい」

「ああ、あと一つ。明久はある女子と付き合ってる」

「なんですって?」

「だから、あんたたちの家族愛の応援は積極的にするが、男女の恋愛は応援しないから、そのつもりで」

「ちょっと待ってください。どういう事ですか!?」

「詳しくは本人に訊け。

 じゃ、またな」

「あ、ちょっと!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という事がありまして」

「剣ぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!」

「確かにアキくんは十分に一人暮らしができるようです。

 ですが、私は一緒に居たいのです。それではダメでしょうか?」

「えっと、一応訊くけどさ……

 ……拒否権は?」

「ありません♪ 家族が一緒に居るのに理由など要りませんから」

「そ、そっか。はは、ははははは……」

「それより、そろそろ出かけないと遅刻してしまうのではないですか?」

「そ、そうだね! 行ってきます!!」

 かばんに教科書類と包丁を入れて学校に向かう。

 ()らねばならない事ができたから……

 

 

 

 

 ……その後明久がどうなったかは、語るまでも無いだろう……


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