勝負が終わった後は、この後の予定を話し合った。
僕はとりあえず『続けて勉強』を提案したのだが。
『こんな出し切った状態で勉強しても身につくわけないじゃないか!』
という明久にしては珍しい合理的な意見が出た為却下となった。
ではどうするかと言うと……
「……お風呂にする?」
「休憩としては確かに丁度いいか。
ちなみに、この家の浴場って……」
「……大浴場がある。男湯と女湯で二つ」
「……ここ、個人の邸宅だよな? 旅館じゃなくて」
「……(こくり)」
霧島家パネェ。
そういうわけで男女に分かれて着替えを持って更衣室へ。
秀吉の扱いで一部の人の意見が割れたが……本人の強硬な主張により男湯へ。
脱いだ服はすぐに洗濯に出せば翌日朝には乾いているとの事なので、全員の分をまとめて籠に入れる。
浴場に入り、シャワーで適当に体を流してから湯船に浸かる。
「はぁ、疲れた」
「ああ。疲れたな。
一時はどうなるかと思ったが、翔子がまともな命令を出してくれて助かったぜ」
「ワシも、助かったのじゃ……」
「そうだよね。ああいう場での命令って本来はもっと和気藹々とした楽しいもののはずだよね」
「…………撮影が楽しみだ」
一位の霧島がとんでもない事を言っていたらこんな事にはならなかっただろうな……
「そう言えば剣」
「何だ?」
「お前、400点以上取れたんだな」
「あ、確かに、僕も気になった」
「そう言えばそうじゃのう」
確かに僕はさっきのテストで412点を出していたな。
言われた通り、いつもは400点だが……
「簡単な事だ。
僕の集中制限は厳密に30分というわけじゃない」
「そうなのか?」
「その日の体調やテンション、後は周囲の環境でも大分変わるが……テストならおおよそ40分は保つ」
「40分? じゃあなんていつも30分くらいで止めちゃうの?」
「理由は簡単だ。全部絞り尽くすとぶっ倒れてその日の活動に支障を来すからだ。
だから僕は約30分の時間を要する400点程度でいつも止めている」
「なるほど。時間じゃなくて点数で止めてたのか。それなら納得だ」
普段は30分未満、例えば29分で400点を取る。
今回はあと1分残っていたからその分で点数が増えた。
……1分で400点から12点も伸ばせるのかと問われると微妙なので実際にはもうちょい余裕がありそうではあるが。
「そうだよね。毎回毎回絞り尽くしてたら大変だもんね」
「ああ。だからこやって湯船に浸かって回復をぶくぶくぶく……」
あ、あれ? 景色が歪んで……
『お、おい剣ぃぃっ!?』
『し、しっかりするのじゃ!!』
………………
「と、まあこのように時と場合によっては非常に危険なので安全マージンを残しておく必要があるわけだ」
「窒息しかけて復帰しての第一声で解説するお前のメンタルって凄まじいな」
「お前や明久ほどじゃないさ」
「否定できないっ!!」
更衣室の床でしばらく横になっていたら回復した。
『風邪を引いた人は湯船に浸かってはいけない』と言われるように、入浴というのは結構体力を使う行為なのだ。
こんな大浴場にこの少人数で入れる機会などそうそう無いので少々勿体ないが、軽くシャワーだけで済ませる。
「さて、じゃあ僕は宿泊用の部屋で待ってる。
お前たちはゆっくり浸かっててくれ」
「ああ。そうさせてもらおう」
「お大事に!」
……一方その頃……
「ふ~む、服の上から見るのと直接見るのじゃまた違うネ~」
「あ、あの、工藤さん……?」
「私も、ソレ見てるとちょっとへこむわね……」
「いやいや、あっても肩が凝るだけですよ?」
「そんなに要らないならちょっと削り取ってウチにつけられないかしら?」
「み、美波ちゃん!? 目が本気なんですけど!?」
「だ、大丈夫。安心しなさい私。
サラシを巻けば平らになるくらいで丁度いいのよ。そうなのよ!
その方が演劇の手伝いも幅広くできるんだから!」
「そ、空凪さん? 誰とお話をしていらっしゃるのでしょうか……?」
「……雄二もこれくらいの方が好きなの……?
……病院を探さないと……」
「整形する気ですか!? 坂本くんなら無理に整形するより普通の方が好きだと思いますよ!?」
……錯乱する女子たち相手に姫路が頑張っていたとか何とか……