バカ達と双子と学園生活   作:天星

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16 そこであったこと

 とりあえず霧島の家の扉を蹴破る……などという事はせず、普通にチャイムを鳴らす。

 

ピンポーン

 

 …………が、返事が無い。

「もしもーし?」

 呼びかけてみても返事が無い。

 人の気配自体はするので誰も居ないという事は無さそうなんだが……

「……あ、鍵開いてる」

 勝手に入っちゃっても問題ない、よな?

「お邪魔しま~す」

 扉を開け放つ。

 そして、それと同時に鼻に妙な匂いが届く。

 これは……血の匂い!?

 急いで靴を脱いで廊下を駆ける。

「ここかっ!!」

 そして、匂いの元と思われる部屋の襖を開け放つ!!

 そこで僕の目に入ってきた光景は……

 

・死んだような眼で虚空を見ながら机に突っ伏す明久

・それをゆすって起こそうとする木下姉

・赤く染まった床に倒れ伏す康太

・それに対して引きつった笑みを浮かべながら呼びかける工藤

・まるで何かから目を逸らすかのように部屋の隅で黙々と勉強している秀吉と島田。それに勉強を教える光

・床に仰向けになり、服の中央が赤い染みで汚れている雄二、

 その前に立つ霧島。

 

 …………さて。

 

ピシャッ

 

 何も問題は無かったな。帰ろうか。

 

『ちょ、ちょっと!! 行かないで!!』

『剣くん! 来たなら土屋くんをなんとかして!!』

『兄さんやっと来たの? 少しは手伝ってよ!』

 

 

  ……数分後……

 

 

「よし、整理していこうか」

 カオスな絵になってはいたが、順序立てて整理すればスッキリ纏まるはずだ。

「まず、明久はいつも通り地獄を見ていた」

「そんなのがいつも通りになりたくないよ……」

「木下姉も頑張って教えていた。と」

「まあね」

 ここは割と問題ない。

「そして鼻血を出して倒れていた康太は……」

「…………卑劣な計略に嵌った!」

「ちょ、ちょっとからかっただけなんだよ! それがあんな事になるなんて……」

 鼻血を出して床を汚し、自身も貧血で倒れていたようだ。

 玄関で感じた血の匂いの元凶らしい。

 ……いつも通り、なのか?

「……で、服にトマトジュースがぶちまけられてる雄二は一体どうしたんだ?」

「翔子が突然トチ狂ってな……」

「……テレビでやっていた。女の人は好きな人の服を包丁で赤く染める……と」

「偏った知識だな」

 昼ドラでも見たんだろうか?

 いや、昼ドラに流血描写はそうそう無い気がするなぁ……

 まあいいや。

「……でも、包丁で刺したら雄二が怪我する。だからジュースで代用した」

「成長はしてるんかな。涙が出そうだよ」

 嬉しいから……だけでは決して無いな。うん。

「……雄二、着替えて。洗濯するから」

「替えの服は一着しか無いんだが?」

「……大丈夫。雄二の服は用意してある。はい」

「おお、こりゃぴったりのサイズ……って、何でそんなもん持ってるんだよ!!」

「…………? 何かおかしかった?」

「おかしいに決まってるだろうが!!」

 ……放っとこうか。

「……で、こんな状況でお前たちは……」

「ま、まぁ勉強会じゃからのぅ」

「そ、そうよ! 決して関わりたくなかったとかそういう事じゃないんだからね!!」

「放っといても特に問題ないかな~って」

「……なるほど」

 要するに放置したんだな。それが悪いことだとは言わないが……まあいい。

「最後に、姫路はどうしたんだ? 姿が見えないが」

「ああ、姫路さんならこの家の料理人さんに料理の秘訣を教わりに行ったみたいよ」

「姫路にとっては料理の勉強会になってるっぽいな」

 一応、自分の手で(?)美味しい料理ができたからやる気が出ているのかもしれない。

 秘訣を教わる程度であの味が簡単に改善されるとは思えんが……無理に止める事も無いか。

「っていうか兄さんこそどこ行ってたの」

「道に迷ってた」

「やった! 勝った!!」

 ん? こいつは何を言って……

「さぁ秀吉くん。賭けは私の勝ちよ! 覚悟を決めなさい!!」

「か、堪忍なのじゃ!!」

 こいつら……僕の遅れの理由なんかで賭けをしてたのか……

 一応、今ならまだ結果をねじ曲げて『道に迷ってた(人を送ってあげてたんだよ!)』と言う事も可能だが……

「さぁ、覚悟を決めて私の地獄の勉強指導を受けなさい!!」

「ご、後生なのじゃ! 剣も見ておらんで助け……」

「……ねじ曲げる必要無しと。秀吉。達者でな!」

「は、薄情者おおぉぉぉぉおおお!!」

 何を今更。

 ところで、少し気になったんだが……

「光、お前が負けた場合はどうなってたんだ?」

「え? 秀吉くんに優秀な家庭教師が付くだけだけど?」

 おかしいな。どっちが勝っても結果は大して変わらない気がする。

 引き分けとかなら話は別だとは思うが。

「(ね、ねぇ空凪?)」

「(ん? どうした島田)」

「(あの二人って、付き合ってるんじゃなかったっけ?)」

「(……光なりの愛情表現なんじゃないかな。きっと)」

 ドSというわけではない……と信じたい。

 ついでに言うとヤンデレでもない……はず。

 ……なんだろう、あいつはギャルゲー的属性を疑われる才能でもあるんだろうか?

 

 

「……剣も来たことだし、そろそろ食事にする?」

 ん? もうそんな時間か? やや早い気もするが……

 まぁ、明久も頑張ってたみたいだし、一休みって事で丁度いいのかもしれない。

 ほら、さっきまで土気色だった明久の顔が正常に戻って……

「霧島さん愛してる!!」

 なんてことをのたまいやがった。

「アキィ?」「吉井クン?」

「あ、アハハ、じょ、ジョークだよ」

「……吉井、悪いけど、私には雄二が居るから」

「大丈夫、知ってるから! 霧島さんと雄二がラブラブなのは!」

 全く、相手が霧島だったから、冗談で済んだから良かったものを……

 

 ……あれ? 雄二の突っ込みが飛んでこない。

 まさか、霧島とラブラブだと認めたわけでもあるまい。

「おい、どうした?」

 様子を確認すると、雄二は明久と島田と木下姉を見ながら何か考え込んでいる。

「……いや、何でもない」

「そうか」

 今の反応は……まあいいか。

「それじゃあ飯にするか」

「ああ。そうだな」


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