僕の家での勉強会を終えた翌日。
明久がきちんと授業を受けている事を確認しながら作業を進めていた。
え? 何の作業かって? 明久の自宅の鍵の複製だ。
期末テストの件が終わったら明久の家の部屋を使わせてもらうからな。自由に出入りできた方が便利なので明久の鍵を借りて複製させてもらっている。
明久曰く『複製されても困る事は無いからね。家に盗られるような物も無いし……』とかなんとか。
そう言えば玲さんは長時間のゲームを禁止してたっけ? もしかしてゲーム類を売っ払ったのかもな。
……ゲームが無ければ盗られて困る物が無いってのもどうかと思うが……
……そんなこんなで昼休み……
「ふぅ~、複製完了だ」
適当に作ったので本当に機能するかは不明だが、多分大丈夫だろう、多分。
「明久、鍵返すぞ」
「あ、うん。複製はちゃんと管理してね?」
「当然だ」
他人の手に渡ったら僕も困るし。
「……明久よ、お主、剣が授業中に鍵を複製している事には突っ込まんのじゃな」
「え? だって剣だし」
そうだそうだ。何を今更。
ピロリン♪
「あ、メールだ」
携帯の着信音が鳴ったのでメールを確認する。
何々?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
From 空凪 光
To 空凪 剣
sb 連絡
代表への交渉完了。勉強会に代表の家を使わせてもらえることになった。
但し、坂本君を絶対に連れてくる事が条件。(大丈夫だとは思うけど念のため)
Aクラスからの参加者は代表と私を含めて4名。
優子と愛子が参加。
親の許可があれば泊まり込みも可能。
その場合は各自一泊分の着替え等を持ってくる事。
弁当の類は不要。
当然だが、勉強道具一式も持ってくる事。
参加者は代表の家に直接来る事。
必要なら地図を用意するので私に連絡する事。
但し、坂本君なら場所を知っているとの事なので、彼に付いていけば問題はない。
以上。みんなに伝えておいて。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
なんか凄く事務的だが、これが姉さんのデフォなので特に気にしない。
……いや待て? もしかして秀吉へのメールもこんな感じなんだろうか?
……後でそれとなく訊いておこう。
とりあえず参加するであろうメンバーにメールを転送する。
…………これでよし。
……そして放課後……
一度帰宅してから適当に荷物を纏めて霧島の家に向かう。
場所がちょっと曖昧だが……そこそこ有名な豪邸らしいので、きっと見つけられるだろう。
きっと。
「さて、行くか」
「ハァ、ハァ……や、やっと見つけた……」
延々と二時間、距離にするとおおよそ10kmほどさまよったような気がする。
「さて、ようやく休め……ん?」
建物の影に誰か居る。
文月学園の制服を着ているようだが……
「…………」
霧島の家の様子を窺っている?
こちらも物陰に隠れて様子を窺ってみる。
まず、今回の勉強会の参加メンバーではないな。
名前が挙がった連中と顔が一致してない。そもそもあの不審者は男だ。
誰かが飛び入り参加……という事も考えられなくも無いが、今回の勉強会は泊まり込みで行うものだ。
制服で出席するとは考えにくい。
制服の校章の刺繍の色を見れば学年は把握できるのだが……ちょっと遠すぎるな。相手も物陰に居るし。
不審者の顔は……見覚えは無い気がする。
僕が名前まで正確に把握しているのはFクラス全員にAクラスの一騎打ちに参加した5人、DBの各クラス代表、あと、二年生の女子の約半数。
他学年まで広げるなら常夏コンビくらいだから記憶になくても不思議では無いが。
……念のため補足しておくが、康太が女子の写真しか持ってなかったから女子しか覚えられなかったというだけの話だ。
康太が男子の写真も収集していたなら男子も半分程度はちゃんと覚える。
結論として、相手の正体は不明か。
ただ、あの不審者は今現在制服を着ている。
つまり、学校から直接ここに来ている事になる。
霧島の『家』が目的なら一度帰宅してから私服で来た方が良いだろう。あの恰好は目立ちすぎる。
着替えるべきなのに着替えていないという事は、尾行でもしていたのか?
今あの家の中に居る誰かを尾行していた……かな?
そう言えば、前にも尾行が付いた事があったな。Bクラス戦前だったか。
あの時の犯人も不明のままだが……まさか?
Aクラスはテスト期間が終わり次第Bクラスとの戦争になる。
偶然という言葉で片付ける事も不可能ではないが……
カメラであいつの顔を撮影してしまえば後で何か分かるかもしれないが、生憎とカメラ付きケータイはバッテリー切れだ。
バッテリーがあったら2時間もさまよってなかったからな。
あいつを締め上げた方が手っ取り早いか?
でもこんな時期に騒動を起こすのも面倒だしなぁ……
騒動を起こすデメリットと、相手の正体が分かる(かもしれない)というメリットか。
……どうやら、あいつを締め上げた方が良さそうだな。
気づかれないように、物陰に隠れながら少しずつ距離を詰める。
そして……
……半分くらい進んだ所で目が合った。
「「………………」」
そして脱兎の如く逃げ出す不審者!
「あ、こらっ、待てっ!!」
急いで追いかけようとした……が、止めた。
相手の足はそこそこ速いようだし、こっちは疲れてる。追いかけても振り切られる可能性が高い。
それに、収穫はあった。
「……行くか」
最初の目的通り、霧島の家での勉強会に参加するとしようか。