波乱に満ち溢れた夕食を食べ終えた所で光が口を開いた。
「で、みんなして何してたの? 勉強会?」
「まあ、そんなところだ」
「吉井くんのお姉さんを追い出す為、だったっけ? 大変ねぇ」
「そう思うなら是非とも手伝ってほしいんだが」
「嫌よ。面倒くさい」
そりゃそうだな。
「そもそも、何が手伝えるのよ」
「………………特に無いな」
いや、無いわけではない。明久に勉強を教える事もできるし、明日以降なら料理を用意してくれれば助かったりはする。
ただ、どれもこれもわざわざ光に頼むような事ではないな。
「そう言えば、光はテスト勉強はしておらぬのか?」
「ん~? まぁ、最低限はやってるけど、それ以上は時間の無駄ね」
「う、うむ、そうか」
光は基本的にテスト勉強なんてしないからな。僕もだが。
「はぁ……そういう風に言えるのは羨ましいよ」
「授業中に先生の話をずっと聞いてると飽きるから、その時に自分で教科書読んでるだけなんだけどね~」
「それだけで誰もが良い点を取れたら苦労はしないよ……」
それだけってわけでは無いとは思うが……まあいいか。
「そう言えば、代表とかを誘って勉強会すれば効率上がるんじゃないの?」
「霧島を? う~ん……どうだろうなぁ……
とりあえず、雄二の学力は上がりそうな気がするが」
「学力と引き換えに何かを失う気がするんだが?」
……気のせいだろう。多分。
「単純に広い場所で出来た方が狭苦しくなくてはかどるでしょ?
ここでも出来ないとは言わないけど……」
「……なるほど」
霧島って確か良い所のお嬢様だからな。
豪邸に住んでるとかなんとか聞いたことがある。
勉強会に巻き込んでしまえば使えるというわけか。
「それに、代表なら坂本くんが頼めば断らないだろうし、泊まり込みも大丈夫だと思うし」
「なぁ空凪妹。それを通すのに俺はどれだけの代償を支払う事になるんだ?」
「霧島雄二を1人支払うんじゃないか?」
「人生を支払えと!?」
「ははっ、冗談だ。坂本翔子をマイナス1人支払うんだろうな」
「どっちも大して変わらねぇじゃねぇか!!」
「あの、さ」
声をかけてきたのは明久だ。
「ん? どうした?」
「さっき泊まり込みがどうこう言ってたけど、この家じゃできないの?
見た感じ結構部屋が余ってそうだけど……」
「あ~……」
確かに、この家の部屋を有効活用すればやや狭いが現在の人数くらいなら十分に収容できる。
……が。
「……ほとんど兄さんの物置になってるからね」
「お前の私物も少しは……ナンデモナイデス」
物置と化した部屋の内容の8割は僕の漫画本だからな。
それ以外だと、姉さんの業物の包丁とか、他にも色々。
「変な漫画を集めるのが兄さんの趣味だからね」
「コレクションと言いたまえ」
「同じでしょうが」
っていうか、そろそろいっぱいになりそうなんだよなぁ……何とかせねばならんのだが……
……あ、そうだ。
「明久。お前の家も部屋が余ってたよな?」
「え? そうだね。姉さんが今使ってる分を除いても1部屋余ってるね」
「……貸してくんない? 倉庫として」
「えぇ!? いちおう両親が帰ってきたときの為の部屋だから……」
「断るなら玲さんにあることないこと吹き込む」
「ちょ!?」
「おい剣、流石にそれはヒドいんじゃないのか?」
「ん? そうか。それもそうか」
流石に脅すのはやりすぎか。
ただ、明久の家の部屋の権利はちょっと確保しておきたい。
……仕方ない。ちょっと妥協するか。
「だったら、お前の両親が帰ってくる際には僕の私物は全部片付けよう。
それなら良いか?」
「できるの?」
「なんとかするさ」
「う~ん……それなら良いよ」
よし。これで大丈夫だな。
「兄さん……人ん家に預ける前に余った本を売っ払いなさいよ……」
「いつどこで必要になるか分からないだろうが!!」
「ちょっと待ちなさい。『必要になるかどうか』が分からないの!? 読むかどうかじゃなくて!!」
「当然だろう!! 漫画は酸素と同じで生きるのに不可欠な代物だ!!」
「訳わかんないわよ!!」
……閑話休題……
「さて、話が盛大に逸れたが……話の要点をまとめると『明日はどこで勉強会を開くか』という事だ」
「うちでやってても特に不満は無いけど、うちの代表とか、他の上位の面子も巻き込んだ方が効率は上がると思うわよ?」
「一理あるよなぁ。
明久、お前はどうしたい?」
「効率が上がるならそうしたいけど……」
「……だそうだが? 雄二」
「何故俺に振る!! 俺は何も支払う気は無いぞ!?」
「安心しろ。実際に支払うのは霧島翔子の好感度をマイナス数ポイントだ」
「いやまぁ確かにそうかもしれんが……
なんだかなぁ……」
「……まあいいわ。私から話をつけておくわ」
「……良いのか?」
「泊まり込みで勉強会なんて、ちょっとした合宿みたいじゃない?
面白そうな事に協力しない理由は無いわ」
「なるほど。分かった。頼んだぞ」
「お~け~」