バカ達と双子と学園生活   作:天星

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13 分担

  ……遡る事数十分……

 

 

 ところで、

 急遽僕の家での勉強会になった今、僕はお客様ではなく客をもてなす側になったわけだ。

 だから料理を用意する等のもてなしをしなければならない。

 だが前にも言ったが、あいにくと僕は料理ができない。

 いや、正確にはできなくはないのだが、全力を出して普通な料理を作ろうとするとバテてしまう。不可能というわけではないが、ぶっちゃけ面倒い。

 適当に手抜きして作る料理は、親愛なる姉曰く『家族で食べる分にはあんまり問題ないけど、客に出すのは不可能』とかなんとか。

 しょうがないから出前でも取るかなぁ……と思った時、ある事を思い出した。

 料理、そして勉強会。丁度いい機会じゃないか。

 

  …………

 

「姫路」

「はい?」

「ちょっと来てくれ」

「え? はい」

 

 とりあえず姫路を台所まで連れてくる。

 明久の家と違って居間と台所は離れていて、お互いの声は届かない。

 ……明久がサボらないと良いけど……雄二がついてるから大丈夫だろう。多分。

 

「あの、一体何を……」

「忘れたのか? 料理の特訓だ」

「え? い、今からやるんですか?」

「丁度いい機会じゃないか。

 どうせお前は勉強しなくても平気……とまではいかなくても、明久よりは余裕があるはずだ」

「まぁ……吉井くんよりは余裕があるとは思いますけど……」

「それに、今なら実験体……じゃなくて、試食してくれる人がたくさん居るぞ」

「実験体って言いましたよね今!?」

「どうせ夕食が要るんだ。さぁ、作るぞ」

「いや、まあいいですけど……」

 

 当然だが、この台所には劇薬の類は無い。

 毒になり得るのはジャガイモの芽くらいか。

 この場所でならいつものような劇物は作られないだろう。

 

  ……数分後……

 

「で、できましたけど……」

「お、早いな」

 姫路が用意したのはシンプルな卵焼きだ。

 なんだこれ。店で出るようなものより美味そうなんだが。

「一応味見もしてみたんですけど……ど、どうぞ」

「では、頂きます」

 万が一の可能性を考えて香ってみて刺激臭がしないことを確認してから口に入れる。

 …………………………ふむ。

「……姫路」

「はい」

「……この外見でどこをどうやったらこんなに不味く作れるんだ?」

「わ、私に訊かれましても……」

 実に不思議だ。

 外見は素晴らしいのに味が驚くほど不味い!!

 前に劇物料理を味見した時は薬品さえ無ければまともな味になりそうな気がしたんだが……

「よし、もう一度やってみようか」

「が、頑張ります!!」

 今度は料理工程をもうちょっとだけ注意深く見てみるか。

 

 

  ……更に数十分後……

 

 

「……実に不思議だ」

「うぅぅぅぅ……」

 工程には何の問題も無いように見える。

 しかし何度やっても出来上がるのは素晴らしい外見を持ち、それを裏切るかのような不味さを持つ代物だ。

 不味いものができるだけならまだ分かる。だが、それの外見だけが凄いって、一体どういう事なのか……

「仕上げの調整だけが異様に上手い……という事なのだろうか?」

「そこまでの過程も上手くなりたいですよ……」

 人には長所短所があるものだ。そして、無理に短所を補うより長所を伸ばす事に専念した方が良くなる事は多々ある。

 プロ並の仕上げ技術だけを生かす方法となると……

「……ああ、簡単だったな」

「え?」

「ちょっと待ってろ」

 

  ……更に更に数分後……

 

「完成だ」

「え、えっと……そら、なぎくん? これは一体……」

「見て分からないのか。料理だ」

「あ、あの~……えっと……」

 僕が姫路に向かって突き出した皿の上には、何も知らない人が見たら『グロテスクな何か』と表現するであろう物体が乗っている。

 カップ焼きそばを熱湯に通して軽く解した後にいくつかの調味料をぶっこんだ代物だ。

 時間も手間もかからず、待ち時間も熱湯を沸かす時間だけという時間にもストレスにも優しい料理である。

「とりあえず、騙されたと思って味見してみ?」

「え、えっと、それじゃあ……」

 姫路がおずおずと料理を口に入れる。

 そして……

「なっ!? こ、ここここれっ!!」

「美味いだろ?」

「どどどうやったらこんなに美味しく作れるんですか!?」

「いや、まぁ……適当に調味料を調合してたらできた」

 以前、我が家では光が全ての料理を担当していた。

 だが、

 ・光が病気とかで料理が出来なくなったら大変な事になる。

 ・喧嘩とかしてボイコットとかされたら色々と面倒だ。

 等の危険があったため、自分で料理する技術を身につける必要があった。

 しかし、料理に集中しすぎるとその日の活動に影響が出て本末転倒だ。

 故に『時間や手間がかからない、そして美味い料理』を研究したわけだ。

 その結果、見た目はややグロいが何故か美味く、しかも栄養満点という謎の料理が出来上がったわけだ。

「さて、ここからが本題だ」

「はい?」

「お前の技でこれが美味しく見えるように上手く加工してくれないか?」

「え? こ、これをですか……?」

「ああ。お前なら出来ると信じてるぞ」ニコッ

「そんな期待を寄せられましても……」

 いやいや出来るって。あんだけ綺麗に料理が作れるんだから。

「卵焼きを薄く焼いてコレをくるむだけでかなり良くなると思うんだが……とりあえずやってみてくれないか?」

「それじゃあ……やってみます?」

 

  ……そして数分後……

 

「えっと、とりあえず作ってみましたけど……」

「おお! あの目に毒な感じの料理が上手く隠れている!」

「まだ味見はしてないんですけど……」

「じゃあ僕が食べてみよう」

 さて、お味の方は……

「…………………………」

「……あ、あの……?」

「…………姫路。食ってみろ」

「え? はい」

 姫路も恐る恐る口に入れてみる。

「……美味しい、です」

「やったじゃないか。初めての料理成功だ」

「あの~、これって料理って言えるんでしょうか?

 私がした事って卵焼きを薄く焼いて具をくるんだだけなんですが……」

「何言ってる、立派な料理じゃないか。

 偉大なる一歩だ。胸を張ると良い」

「う~ん……できれば全部自分でやって成功したかったですね」

「それはまた次の機会にしておこう。

 さぁ、人数分作るぞ。光も入れて8人分」

「……はいっ!」

 

 

  ……そして……

 

 

「完了です!」

「よし。じゃああいつらには『この中に姫路が作ったものが紛れ込んでいる』と言って配るか」

 嘘じゃないよ。具は僕が作ったし、皿はどこかのメーカーが作ったものだから。

「う~ん、どんな顔しますかね?」

「すぐに分かるさ。さぁ、行こう」

 2人でみんなの夕食を運ぶ。

 8枚の皿だから結構きつい。

 居間へのドアの前まで来たが……手が塞がってドアが開けられない。

 仕方がない。居間に居る誰かに開けてもらって……

 

『秀吉くぅぅん!! 会いたかったよ!!』

『ひ、光よ! おお落ち着くのじゃ!!』

『学校も忙しくてずっと会えなかったからね。寂しかったよ!』

『おい剣ぃっ! お前の妹を何とかしろぉぉ!!

 ってかどこ行きやがった!!』

 

「…………」

「あ、あの、妹さんを止めなくて良いんですか……?」

「……昔から良く言うじゃないか。人の恋路を邪魔する奴はなんとやらって」

「確かにそういう諺はありますけど……」

 ああ、平和だなぁ……

「……あ、そうそうお前は、どうなんだ?」

「へ? 何がですか?」

「お前は今でも明久の事が好きなのか?」

「え!? えええ、えっとあの……

 ……は、はい……」

 うん、知ってた。

 そうそう簡単に心変わりする奴じゃないってのは知ってた。

「明久に告白したりとかはしないのか?」

「えええっ!? あの、えっと……

 そ、そう! 今はテストで忙しいですから!」

「その言い方だとテストが終わったら告白するように聞こえるんだが……」

「い、いや、そういう意味で言ったのではなく……」

「……まぁ、告白するかしないかなんてのは自由だが……後悔したくは無いだろう?」

「そりゃそうですけど……」

「どうしたいのか、考えるんだな。

 何か手伝えることがあれば相談すると良い」

「……はい。そうですね。ありがとうございます」

「……気にするな」

 

 ……さて。

 

バキッ!!

 

「諸君、飯だ!」

「蹴破るんですか!?」


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