……明久side……
「ほら、この関数を微分してみろ」
「うがぁぁぁあああ!! 数学なんかキライだぁああ!!!」
僕は今、地獄というものを体験している。
より具体的に言うと、雄二と美波に数学を教えて貰っている。
ムッツリーニや秀吉は普通に勉強してるみたいだ。
剣と姫路さんは……どこに行ったんだろう……?
「ほら、余計な事を考えるな。点数を上げるんだろ?」
それを言われるとなぁ……
姉さんに帰ってもらうためだ。この程度の地獄は……うぅぅぅ……
「アキ。微分積分は特殊な形を除けばルール通りにやれば簡単よ。
練習問題を解いてればできるようになるわ」
「そうは言ってもさぁ……」
「ほら、頑張れ。これが終わったら次は確率の勉強だからな」
「うぁぁぁぁぁぁぁ………………」
……そんなこんなで……
「はは、ははははは……
ああ、ポチ、もう疲れたよ。なんだかとても眠いんだ」
「死亡フラグ建ててないで、次の科目行くぞ」
「い~や~だ~!!」
「明久よ。わがままを言うでないぞ」
もういっそのこと諦めた方が楽になれるんじゃないかなぁ……
そんな事を考えていた時だった。
『ただいま~。
あれ? 誰か来てる?』
「うむ? 光が帰ってきたのかのぅ?」
「そうらしいな」
そして、居間のドアが開かれる。
「あ、えっと、お邪魔してま……
「秀吉くん!!」
空凪さんは僕が挨拶を言い終える前に秀吉に飛びついた。
「秀吉くぅぅん!! 会いたかったよ!!」
「ひ、光よ! おお落ち着くのじゃ!!」
「学校も忙しくてずっと会えなかったからね。寂しかったよ!」
空凪さんって、こんな性格だったっけ……?
「おい剣ぃっ! お前の妹を何とかしろぉぉ!!
ってかどこ行きやがった!!」
……まあ、放っておけば良いか。
ほら、さっき雄二も『余計な事は考えるな』って言ってたし♪
バキッ
「諸君、飯だ」
勉強を再開しようとしたら、剣と姫路さんが戻ってきた。
っていうか、扉を開ける時に『バキッ』って音がしたような……
「飯だぞ。席につけ」
「おい剣! 飯じゃなくて、お前の妹を何とかしろ!!」
「ああ、大丈夫だよ。あと10秒くらいしたら満足して離れるから」
「そ、そうなのか?」
「ああ。当然だ」
ほ、ホントかなぁ……
「ふ~すっきりした~。
あ、兄さん帰ってたんだ。お帰りなさい」
ほ、ホントに10秒くらいで離れたよ。
「おう。飯食うか?」
「に、兄さんの料理……しょうがないかぁ……」
? そういえば剣の料理って聞いたことないなぁ……
そんなに上手いわけではなかった気がするけど……
「ってあれ? 兄さんが作ったんじゃないの?」
「ん~、とりあえず配ってから説明するから、席についてくれ」
「りょ~かい」
剣が用意した料理は綺麗なオムレツだ。
これならさぞ味に期待でき……
「諸君、この中には姫路が作ったもんが紛れ込んでいる」
…………え?
「お、おおおおい剣!? 正気か!?」
「ど、どうしてウチらまで地獄を見なきゃならないの!?」
「…………(ダラダラダラ)」
「よ、よく聞こえなかったのじゃ。もう一度言ってくれんかのぅ?」
は、ハハハハ……
「ああ、タマ、疲れたよ。なんだかとても眠いんだ……」
それに、何か綺麗な川の向こうで手招きしてるおじいちゃんが見えたし……
「……少し、傷付きますね……」
「あ、ゴメン瑞希、そういうつもりで言ったんじゃなくて、えっと……」
「いえ、分かってますから」
「では諸君、ロシアンルーレットと行こうじゃないか」
「(雄二、『ろしあんるーれっと』って何?)」
「(ああ。拳銃に1発だけ弾を込めて自分のこめかみに向けて引き金を引くっつう命がけのゲームだ)」
「(なるほど。要するに今の状況だね)」
…………さて、どうしようか。
「……誰も食わねぇな」
「当たり前だろ!!」
「……一つ、予言してやろう。
一番最後に料理を口にした奴が一番キツいぞ?」
どうして、どうして皿がちょうど8枚なんだろうか。
これが欠けていれば、食べなくて済んだかもしれないのに!!
「ったく、じゃあ先に食っちまうぞ」
真っ先に食べようとしたのは剣だ。
……待てよ? これはチャンス!?
「待った!! その皿もらうよ!!」
「……ほう?」
この皿は多分安全だ。何故なら……
「ここまで料理を持ってきたのは剣と姫路さん。
それに加えて剣は危機回避の直感と強運がある!
だからそれはハズレではない!!」
「……クックックッ」
「な、何がおかしいのさ!!」
「そう思うならくれてやる。さぁ、食ってみるといいさ。ククク」
「くうぅ、うううぅぅ…………」
だ、大丈夫なはずだけど……なんかコワい!!
「……チッ、明久、問題だ」
「へ?」
「今この場に8本のクジがあるとする。
その中に一本だけハズレが存在する。
8人の人間が順番に一本ずつクジを引く場合、何番目の人が一番はずれくじを引きやすいか。但し、一度引いたクジは戻さないものとする」
「えっと……」
さっきそんな問題をやった気がする。
「確か……均等なんじゃなかったっけ?」
「……ちゃんと勉強してたんだな」
なんか、間違える事を期待されていたような……?
きっと気のせいだよね。うん。
「まぁ、何が言いたいかと言うと、どのタイミングで食べても結果は変わらないんだ。
自由に食え」
「そ、そうなのかなぁ……」
いや、理屈ではそうなんだけどさ。
「…………早く食わないと飯抜きだぞ?」
「ああっ! 僕の貴重なカロリー!!」
「じゃ、食え」
「……い、いただきます」
こ、これがもしハズレだったら……
いやいや、確率は1/8だ。そう簡単に当たるはずが無い!!
一口、掬って、口に入れる。
…………これは……
「……お、美味しいよ!!」
よ、良かった。本当に良かった!!
……でも、何か卵の味が微妙なような……
「チッ」
「雄二? 今の舌打ちは何!?」
「では次、誰が行く?」
う~ん、夕食ってこんなに緊張感あふれるものじゃなかった気がするんだけどなぁ……
「じゃ、私が」
名乗りを上げたのは空凪さんだ。
空凪さんも姫路さんの料理の恐怖は知ってるはずだけど……
「ひ、光!? 無理するでないぞ!?」
「さっき言ったように、どうせ平等なのよ。
それに、お腹空いたし」
適当な一枚を取って、適当に口に入れる。
う、動きに迷いが無い。大丈夫なのかなぁ……?
「うん。美味しい」
「ふぅ……良かったのじゃ」
「秀吉くんも食べたら?」
「そ、そうじゃのぅ……」
秀吉も恐る恐る皿を取る。
「……ふむ。美味しいのじゃ」
「秀吉。演技とかしてないだろうな?」
「いくらワシでもあの殺人料理を食べた直後に演技などできないのじゃ……」
確かに、秀吉でも無理だよねぇ。
「
「
剣が姫路さんに料理を適当に渡している。
あれがハズレだったら目も当てられない事になるんだけど……
えっと、残っているのは?
雄二に美波、剣。
あとムッツリーニ……って、いつの間にか食べてる!
「…………(グッ!)」
美味しかったようだ。
「の、残り3皿……
この中に一つ、瑞希の料理が入ってるのよね?」
「ははっ、これまで誰も不味いとは言ってないからな」
1/3かぁ……かなり危なくなってきたね。
「じゃあ、ウチはこれを……」
「俺はこれを貰うっ!!」
美波に続いて雄二が急いで皿を取る。
「剣との一騎打ちなんざゴメンだからな!!」
確かに嫌だなぁ……
そう考えると、最初に食べたのは良かったみたいだ。
「……セーフみたいね。美味しいわ」
「同じく。美味いな。誰が作ったんだ?」
「誰が作ったかは後で良い。
そして……最後に僕が残ってしまったな」
ってことは、これがハズレ……
「剣、ここに来て『食べない』ってのはナシだからね!!」
「当然だ。が、予知が外れたのは少し残念だ」
「さぁ、僕達をハメようとした報いを受けるんだ!!」
そして剣は深くため息をつき、料理を手元に寄せた。
「お前らこそ姫路に謝った方が良いぞ。
これ普通に美味いし」
「…………へ? アレ?」
剣は、平然と食事を続けている。
え~っと、あれ?
「ちょ、ちょちょちょちょちょっと!? 一体どういう事!?」
「簡単な事だ。これらの料理は全て姫路が作った」
「「「「えええええええっっっ!?!?」」」」