バカ達と双子と学園生活   作:天星

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06 姉

 明久の姉が帰ってきた。

 あと数秒もしたらリビングに入ってくるだろう。

 さて、明久によればとんでもない人物らしいからな。どんな事があっても動じないように心を静めておこう。

 スーハースーハー…………

 

ガチャッ

「あら、お客様ですか。ようこそいらっしゃいました。狭い家ですがゆっくりしていって下さいね」

 

 ……普通すぎて逆にビビったんだが……

 とりたてて奇抜な恰好をしているというわけでもなく、お客(僕達)に対して模範解答レベルの対応をしている。

 ……とりあえず。

「お邪魔しています。

 初めまして。貴女が明久君のお姉さんですね? 僕は空凪剣と申します。いつも弟さんにお世話になっています」

 しまったな。この人の名前を明久から訊いておくんだった。まあいいか。

「まあ、これはご丁寧に。私は吉井(あきら)といいます。皆さんこんな出来の悪い弟と仲良くして下さってありがとうございます」

 なるほど、玲さんか。

 ほらほら、お前たちも早く。

「あ、お、お邪魔しています。俺は坂本雄二。明久のクラスメイトです」

「…………土屋康太、です」

 雄二の反応が遅れてたな。どうしたんだろう?

(明久ぁ……仲間だと思ったのに!! この裏切り者!!)

(何が!?)

 ……意表を突かれていただけか。別の意味で。

「ワシは木下秀吉じゃ。よしなに」

「ああ、あなたが秀吉くんですか。弟がお世話になっています」

「あと、ワシはよく女と間違えられるのじゃが……」

「ええ。アキくんから聞いていますよ。男の子だそうですね」

「う、うむ。そうなのじゃ」

 例の写真が見つかった時に話したんだろうな。

 ちなみにその事は秀吉には既に伝えてある。

 誤魔化し切れると良いんだけどなぁ……

「ところで皆さん、お夕食を一緒にいかがですか?

 大したおもてなしはできませんが……」

 夕食には少々早い気がするが……じっくり料理すれば丁度いいくらいか?

 これはおそらく尋問の為の準備だな。食事時ってのは口が軽くなりやすいし、食事を待つ間も世間話(尋問)が可能だ。

 明久を厨房に追いやる事ができればなお良しと言った所か。

 ……そこまで考えているのかは不明だがな。

「あれ? 姉さんそれって……」

「はい。お夕食の材料です」

 玲さんの手には食材が入った袋が。

 なるほど。夕食の買い物に行ってたのか。

 普段の明久の家にはまともな食材なんて無いからな。

 ……そこの所、どうやって誤魔化したんだろう……?

「それにしては量が多い気がするけど……」

 確かに10人分くらい(?)作れそうな量だが……

 明久よ。うちの姉さんも空の冷蔵庫があったらそれくらいは買いそうなもんだぞ?

「いいえ。この量で合ってますよ」

 ほら、お前がとんちんかんな事言うから玲さんも不機嫌そうに……うん?

 さっきまで模範的(テンプレ)な応答をして感情を見せなかったのに、ここに来て初めて感情が出てきたな。

 食材の量……一応記憶に留めておこうか。

 さて、話を戻そう。この誘いに乗れば尋問を受ける事になる(と思われる)が、それは逆に相手の出方を伺うチャンスでもある。

 虎穴に入らずんば虎児を得ず、と言った所か。

 良いだろう。ここは乗ってみようじゃないか。

「それでは僕はご厚意に甘えさせて頂きます」

「そうだな。俺もありがたく頂かせてもらう」

「…………ご馳走になる」

「ではワシもご相伴させてもらおうかの」

 全員参加か。

「それは良かったです。ではアキくん。お願いしますね」

「うん。了解」

 これは明久を追い出しにかかったのか、それとも単純に玲さんは料理が苦手なのか、あるいは両方か……

 よし。訊いてみよう。

(おい明久。玲さんの料理って……)

(……生半可な覚悟で口にしたら地獄に行くどころかこの世の罪を洗い流して転生しちゃうレベルだよ)

(……スケールがデカすぎてイマイチピンと来ないんだが……?)

(そうだね……じゃあ……)

「姉さん、そろそろお米の研ぎ方くらいは覚えた?」

「何を言っているのですかアキくん。お姉さんをバカにしないで下さいよ?」

「それじゃあ言ってみてよ」

 研ぎ方って……普通に釜に入れてガシャガシャやるだけだよな……?

「まったく、何の為に砥石というものが存在していると思っているんですか?」

「「「包丁を研ぐ為だよ!(だろ!/でしょうが!)」」」

「アキくん、お姉さんを騙そうとしたってそうはいきませんよ?

 どちらも『とぐ』という単語が使われているではありませんか」

「確かにそうだけどさ!!」

 ……確かに、転生しそうな料理が出来上がるかもな……

(……明久、さっきはスマン)

(え、どうしたの雄二?)

 明久に怒ったり謝ったりする雄二か……

 割とレアな光景かもな。

 

 

「ところで、一人で作るのか? 大変じゃないか?」

「まあ、2人分作るのも6人分作るのもそこまで手間は変わらないけど、手伝ってくれた方がありがたいかな?」

「なるほど、だってさお前ら」

「そこまで訊いておいて俺たちに振るのか!?」

「だって僕は料理できないし」

「あぁ……そうだったな。

 まぁ、一方的にご馳走されるだけってのもアレだし、手伝うか」

「…………任せろ」

「ワシは……うぅむ……」

 確か秀吉はそこまで料理が得意ではなかったな。清涼祭の時も厨房班じゃなくてホール班だったし。

「じゃ、僕達はのんびり待たせてもらおう。明久(シェフ)期待してるぞ~」

「うん。任せてよ!」


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