……昼休み(食事後)……
「で、何がどうなったんだ?」
昨日の反省を踏まえて昼食を食べた後、明久から話を聞いてみた。
「うん。実はあの写真が見つかってさ……」
「あの写真と言うと?」
「ほら、如月ハイランドの……」
「……アレか」
明久と木下姉との初デートの写真だったな。
「アレが問題になったのか?」
「うん。姉さんは不純異性交友をそれはもう厳しく禁止してるからね……
危うく5億の減点を喰らった上に人としての尊厳まで奪われそうになったよ……」
人間にはリカバリー不能な点数だなぁ……
明久の姉とやらは明久にbotにでもなれと言っているんだろうか?
『人としての尊厳を奪う』=『bot化』か。つじつま合うな。
「『危うく』という事は……」
「うん。『その写真に写っているのは実は男子なんだ!』って誤魔化して減点200で済んだよ……」
「オイコラ。後で木下姉に謝っておけよ?」
「うん。そうだね……」
しっかし減点200ねぇ……
もともとあった20も含めると220点。昨日僕が言った予測値なんてあっさりと越えそうだな……
「とりあえず、その姉とやらに会ってみるか。
メンバーは……どうするかなぁ……」
とりあえず秀吉は確定だとして、他にも何人か連れていくべきだろうか?
明久姉への印象を考えると友人が居る事をアピールする事は決して悪い事では無いと思うんだが……
「……明久、その姉が見ているのは生活態度と不純異性交友だけか?」
「まあそうだね。一応テレビゲームは一日30分までっていう制限があるけど……」
「広い意味では生活態度だな」
そうなると女子はとりあえず連れて行っちゃマズいな。不純な交友をしていなければ大丈夫なはずだが、グレーな行動は避けておこう。
「他には無いな? 身長制限とか、盗撮お断りとか」
「特別には言われてないけど、盗撮は普通にダメなんじゃないかなぁ……」
「……スマン、ちょっと錯乱してた」
まあ、康太ならそう簡単にはバレないだろう。問題ないな。
「結局、いつもの5人で行くのが一番妥当かな。
それで良いか?」
「……うん。覚悟はできたよ」
「そこまでなのか、お前の姉は……」
「……会えば分かるよ……」
「……そうか」
見たいような見たくないような……
まあ明久の為だ。頑張るか。
そういうわけで、訪問メンバーを集めて打ち合わせを行う。
「ってわけで諸君、明久の印象が悪くならないように上手く立ち回ってくれ」
「具体的には何をどうるすのじゃ?」
「基本的には『明久は毎日そこそこ真面目に勉強しており、女子との個人的な交流は殆ど無い』という設定で動くだけだ」
「そこそこ真面目……」
雄二のつぶやきに明久以外の全員が想像する。そこそこ真面目な明久の姿を……
「難しいのぅ……」
「無理があるんじゃないか?」
「…………激しく同意する」
「みんなヒドくない!?」
「くっ、まさかそんな所に落とし穴があったとは!
仕方ない。明久、諦めろ」(ニコッ)
「諦めないでよ!! 僕の人生が懸かってるんだよ!?」
そこまでなのか……?
って言うか、むしろ生活態度を矯正してもらった方が将来の役に立つ気がするんだが……
「……まあ冗談は置いておいて……どうしたもんか」
「下手に取り繕おうとすると余計に傷が広がると思うのじゃが……」
「それもそうなんだよなぁ……
……仕方ない。可能な限り当たり障りの無いように受け答えしてくれ」
「ずいぶんとずさんな作戦だな」
「それは言うな雄二。僕だって満足しちゃいない。
ただ、相手の実力が分からない以上はこのくらいしかできない」
嘘を吐き通せる相手なのか。説得できる可能性は無いのか。
逆らってはいけないタイプの人間なのか。その他色々。
相手の実力で最善策は変わるからな。
「まあとりあえずそういう事で。また放課後に」
「おう」「うむ」「(コクリ)」
……こうして、不安の残る打ち合わせは終了した。
……放課後 明久の自宅前……
「それじゃあみんな、覚悟は良いね?」
「明久、それだけ脅しておいて大したこと無かったら悲しい事になるぞ?」
「姉さんの恐ろしさを知らないからそんな事が言えるんだよ……」
「明久の姉じゃからのぅ……」
「あの
「…………
おかしいな。発音も内容も変わってないのにだんだんと言い方がヒドくなってる気がする。
「まぁ、バカだからしょうがないか」
「一番ヒドくなってるよ!?」
おっと、つい本音が。
「はぁ……じゃあ、開けるよ?」
そんな事を言いながら明久が玄関の扉を開ける。
ギギギ……と、RPGの魔王の城のような効果音が……特に発生せずに普通に開いた。
「何だ。明久の姉とやらも大したこと無いな」
「何が!?」
効果音云々は冗談だとして、オーラと言うか人の気配が感じられない。
……って言うかもしかして……
「お前の姉、出かけてるのか?」
「へ?」
玄関には靴は見当たらない。
一応すぐそばに収納スペースがあるが、簡単な棚ならともかくわざわざそんな所にしまい込むのは不自然だろう。
「……そう、だね。居ないみたいだ」
ロシアンルーレットが空だった時の気持ちってこんな感じなんだろうか?
いや、そこまでじゃないか。
「まあとにかく、上がってよ」
明久に続いて皆も家に上がる。
「とりあえずリビングに……」
明久がリビングへの扉を開け放つ。
そして、リビングの中の物が、僕達の視界に入る。
……例えば、室内に堂々と干されているブラジャーとか……
「「「「……………………」」」」
「…………はぁ」
いや、この家で女性が生活しているのは知ってたよ?
けどさ、客をまず通すであろうリビングに下着を干すってのは非常識じゃないか?
そもそも、弟が暮らしてる家に堂々と下着を干す事がおかしいんじゃないのか!?
「明久……お前も苦労してるんだな……」
「ゆ、雄二? えっと、ありがと」
雄二が妙にやさしいな。少々気色悪い。
「……とりあえず明久。ソレを適当に片付けてくれ。せめて隅っこに干してくれ」
「うん……」
明久が適当に片付け、皆がリビングの椅子に座る。
……さて、
「じゃあ明久の姉が帰ってくるまで勉強でもしておくか」
「うえぇぇぇっ!?」
「勉強会か。確かにやっておいた方が良いな」
「これ以上成績が下がると姉上にどやされるからのぅ……」
「…………保健体育なら任せろ」
お前は他の科目を上げろ。もう十分だよ。
「ちょ、ちょっとちょっと!? 何でみんなそんな自然に受け入れてるの!?」
「あのなぁ、仮に減点を減らせたとしても、お前が良い成績取んなきゃ意味が無いだろうが」
「……むしろ勉強しないつもりだったのか?」
「い、イヤ、ソンナコトハナイヨ」
「剣、ペンチ」
「明久、どこにある?」
「教えないよ!? って言うか何するつもりだったの!?」
「ああ。ちょっと爪を剥いで……」
「スイマセンデシタッ!! 真面目に勉強するので許してください!!」
「よろしい。じゃあとりあえず……
ガチャッ
『あら? 姉さんが出かけている間に帰っていたのですね、アキくん』
「……帰ってきたようだな」
さて、どんなのが来るのやら……