バカ達と双子と学園生活   作:天星

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10 条約

 王水弁当事件の翌日の早朝。

 

「お願いします」

「……はい。完了です」

 例に習って早朝に補充試験を受けていた。

 科目は英語。選んだ理由は極めてシンプル。遠藤先生(英語教師)が職員室の出入り口の一番近くに居たから。

 

「おう剣。今日も早いな」

「雄二もいつも早いね。おはよう。

 昨日の事は光から聞いたけど……大丈夫か?」

「……何とか……な。

 俺もムッツリーニも姫路も何とかなりそうだ」

 その場に居ながら何も出来なかった自分が少し悲しい……

「それじゃ、今日こそBクラスに攻め込むぞ。

 準備は良いか?」

「問題ない。いつでも行ける」

 本来は昨日の午後にFクラスの様子を見て、場合によっては仕掛けるつもりだったらしいが……まぁ、事件のせいで不可能になった。

 みんな疲れてたっぽいから多分攻め込む事は無かったとは思うけどね。

「そういえばまだ宣戦布告はしてないよな?

 午前中の授業が始まる前に終わらしておいた方が良いと思うが、どうする?」

「……こんな早く来るのは俺たちくらいだと思うが?」

「まあそうだけどね。

 逆に考えよう。打ち合わせの時間が十分に取れたじゃないか」

「宣戦布告するクラスは決まってんだから打ち合わせ自体が殆ど要らない気がするが?」

 ふむ、確かに。

「では問題だ。各クラスの代表の名前は把握してるか?」

「ん? Bクラスだけじゃなくて各クラスか?

 面倒くさいな。えっと、上から……

 霧島(きりしま)翔子(しょうこ)

 根元(ねもと)恭二(きょうじ)

 小山(おやま)友香(ゆか)

 平賀(ひらが)源二(げんじ)

 ……Eクラス代表((中林宏美))は分からん

 後は(坂本雄二)だな」

 まあ言いたいことは色々あるが……

「Eクラス代表が分からないのは問題ない。狙う気も無かったんだろうからな。

 でもな……何でBクラス代表が『根元』なんだ!! 『根本』だろうが!!」

 イントネーションが微妙に違う。

「冗談だよ。ちゃんと分かってるよ」

「そうか、安心したぞ。

 という事は小山(こやま)友香(ゆうか)尾山(おやま)(ゆか)と言ったように聞こえたのも冗談だな?」

「……え? あ、それは素で間違えた」

「…………」

 凄く心配になってきたんだが……

「でも、戦う段になって調べりゃ良かった事だろ!?」

「雄二……それは甘いぞ。

 根本と小山の噂……知らないのか?」

「噂? 何だ?」

「あの二人が付き合っているという噂の事だ」

 本当なら、BクラスとCクラスは実質的な同盟関係になる。

「何!? それは本当か?」

「……実際には少々違う。

 お互いがお互いを利用……いや、小山の方がやや上手だな」

 同盟である事に変わりは無いがな。

 基本的に2対1という状況にはならないが……連戦となると面倒だからな。

「そうか……知らなかった。助かったぞ」

「相手はあの根本だからな。

 警戒もするさ」

 さて、根本という人物について少々触れておくか。

 

  根本(ねもと)恭二(きょうじ)

 とにかく卑怯な人物として有名。

 聞いた話では、

  ・テストはカンニングの常習犯

  ・喧嘩相手に一服盛った

  ・喧嘩にナイフはデフォルト装備

 ……等など。

 私見だが、テストのカンニングをあの鉄人先生や高橋先生が見逃すとは考えにくいので多分濡れ衣。

 あの監視をかいくぐってカンニングできるような有能な人間なら普通に高得点とれそうな気がするし。

 毒を盛ったのもやりすぎなければ正当(?)な戦術だ。

 相手がもの凄く憎たらしい奴なら下剤の一つや二つ僕でも盛るかもしれない。

 デフォルト装備でナイフを持っていたら普通に銃刀法違反でとっ捕まるので多分持ってない。

 そもそも使ったら殺傷沙汰になるのでこんな噂程度で収まるはず無いし。

 ……まぁでも、火の無い所に煙は立たないとも言うし、何かしらの卑怯な事に尾ひれが付いて噂になっているというのが真相だと思う。

 確証は無いが。

 

 こんなもんだな。

「当面の問題は、Cクラスをどうするか……だな」

「いや、大丈夫だ。

 Cクラスを処理する策は前から練ってあった」

「そうなのか?」

「ああ。上位クラスの教室をFクラスが手に入れたら他のクラスが動かない訳が無いからな。

 使う使わないは別にしてちゃんと考えてある」

「そうか。じゃ、頼んだよ。代表」

 さて、時間も潰せたし……そろそろ行ってくるか。

「開戦時刻はいつ頃に設定すりゃ良いんだ?」

「そうだな……前回と同じく昼食後で良いだろ」

「りょーかい。じゃ、行ってくる」

 

 

  ……Bクラス教室……

 

 

「失礼します。Fクラス副代表の空凪です。

 Bクラスの代表はいらっしゃいますか?」

「俺が代表だが、こんな朝っぱらから一体何の用だ?」

 その朝っぱらにちゃんと居る生徒に言われてもねぇ……

「我々Fクラスは、Bクラスに対して試召戦争を申し込みます」

「何だと!? 良い度胸だなキサマ!!」

「……開戦時刻は昼休みの終了時刻としたいのですが、宜しいでしょうか?」

「フンッ、いいだろう。お前らみたいな連中は捻り潰してやる!!」

「そうですか。では失礼します」

 宣戦布告を終わらせて、僕はFクラスまで戻った。

 ……え? ああ、襲撃は無かったよ。朝っぱらだったから大して人が来てなかったし。

 

 

 その後、いつも通り明久が遅刻してきて罵られたり、

 姫路が昨日死にかけた二人に対して誠心誠意謝ったりしたり、

 FFF団が謎の集会を開いていたりしながら時間は過ぎていき……

 そして開戦時刻となった。

 

 

「で、今回の戦いでは僕は何をすれば良い?」

「相手は根本だからな。ここを警戒しててくれ」

「教室……? あり得なくはないか」

 何か細工をされる可能性は一応あるが……

 ここは本陣で、常に代表が居座ってるぞ?

「失礼する! Fクラス代表は居るか!!」

 ん? 誰だ? あの腕章は……なるほど。

「Bクラスの使者か」

「何の用だ?」

「Fクラスと協定を結びたい。

 30分後に2階の空き教室で待つ。

 来なければ決裂したと見なす。

 以上だ」

「そうか……了解した。ご苦労」

「では失礼する」

 

 協定ねぇ……

「さて雄二、どう思う?」

「ここから引き離す為の作戦……という見方が妥当だろうな」

「協定の内容自体にも何か細工されてる可能性もあるけどな」

「そうだな。さてどうするか……」

 行った方が良いのは確かなんだけどね……

「仕方ない、全員で行くか。

 適当に人を配置しておいても補習室送りにされそうな気がするし」

「お前にしては何か消極的な気がするが、どうしたんだ?」

「文房具を破壊される程度で済むのであれば問題ない。

 一応クラス全員分の予備を置いてある」

「手が早いな……助かる」

「じゃ、行くか」

 あの教室なら、こういう時に備えて去年からちょっとした仕掛けがしてあるな。

 あの辺が空き教室になりそうだと思ったが、ドンピシャだったな。

 使わないに越した事は無いけど……どうなるかなぁ……?

 

 

  ………………

 

 

「よく来てくれた。Fクラスの諸君」

 教室には立会いの教師である長谷川先生、敵将の根本、あと護衛(?)が2人ほど居た。

「前置きは結構です。要件は何でしょうか?」

「今日の午後4時までに決着が付かなかったら明日まで停戦してほしい。

 それだけだ」

 停戦……? まぁ、こちらは体力バカの集団だから妥当な判断な気もするが……

 姫路の体力の事を考えたら逆に不利なんじゃないか?

「……分かった。飲もう」

「良かった。ではこの紙にサインを……

「待った!! それを見せてください」

「どうぞ。好きに見てくれたまえ」

 どれどれ……?

 

[20XX/04/XX  B、Fクラスクラス間協定]

 

 ・Bクラス、Fクラス間の試験召喚戦争が本日午後4時までに決着が着かなかった場合、明日まで停戦とする。

 ・両クラスは停戦期間中は試験召喚戦争に関する行為を一切禁止する。

 

「えっと……これだけですか?」

「そうだが?」

「軽いツッコミが一つと、重大な欠陥が二つあります」

「……言ってみろ」

「まず、この『明日まで停戦』ですが、

 開戦時刻は試召戦争の最速時刻の午前9時で宜しいですか?」

「ああ。その通りだ」

 システムの管理とか、教師の都合とかが考慮されていて、試召戦争の行える時間は午前9時から午後6時までとキッチリ決まっている。

「なるほど、了解しました。

 では欠陥の方ですが……

 『違反に対するペナルティ』と『時間規格の統一』が欠けてます」

「……どういう意味だ?」

 そう言われてもねぇ……

「ペナルティはそのまんまです。

 時間規格の統一は、例えば、一時間ほど遅れてる時計を掲げて『まだ戦争は続いてる!!』とか言われても困ります」

「おい、剣?」

 まぁ、流石にそれくらいはどうとでもなるとは思うけどね……

「他のパターンでは、時差のある外国の時計が突きつけられたらある意味では正論ですから。

 とにかく、時間規格の統一はあった方が良いでしょう」

 教室の方が気になるからとっとと切り上げたいが……穴のある協定は結べないな。

「……確かにな。で、どうするつもりだ?」

「そうですね、えっと……アレを使いましょうか」

 空き教室にある壁掛け時計を外して机の上に置く。

 デジタル表記とアナログ表記が両方あり、PMやらAMやらまでキッチリと書いてある無駄に高い時計だ。

 これにかける予算を少しでもFクラスに回してくれないかなぁ……

「代表さん、当然時計になるものは持ってますよね? 携帯とか」

「ああ」

「じゃ、こいつの隣に置いてください。雄二も置いてくれ」

「……なるほどな」

 代表二人の時計と、更に自分の時計も置いてから先生に話しかける。

「先生のケータイカメラでこの写真を撮って僕達に送ってください」

「……そういう事ですか。分かりました」

 

 全員が写真を受け取った事を確認して話を再開する。

「この時計を基準に、本日午後四時から翌日午前九時までを停戦期間としましょう」

「……いいだろう」

「では、次は協定違反のペナルティを設定しますか。

 破った場合は……そうですね、代表が即戦死で良いでしょう」

 すなわち、即敗北。

「そんなに厳しくて良いのか?」

「破る気があるんですか?」

「グッ、それは無いが……」

「なら問題無いでしょう。

 中途半端なペナルティを用意していつでも奇襲が出来るというのも困りますからね」

「……分かった。書き加えておこう」

 協定を強固にしたは良いが……ここも塞いどかないと。

「ただ、そうですね……この『試召戦争に関わる行為全て』という文ですが、

 アクティブな行動ではなくパッシブな行動も含まれるんでしょうか?」

「どういう意味だ?」

「例えば停戦中に教室でのんびりしていたらEクラス代表が来て交渉しようとしはじめたら……

 それだけで協定違反というのはやりすぎです。

 相手から持ちかけられた行動に関しては問題ない事にしましょう。

 もちろん、すぐに話を切り上げるという事は必要ですが」

 特に、BクラスはCクラスとつながってる(はず)だからな。そこだけは塞いでおかないと。

(チッ) 分かった。そうしよう。

 後は何も無いか?」

 何かあったかなぁ……?

 あ、そうだ。アレも付けておこう。

「そうですね、『濡れ衣に対するペナルティ』というのはどうでしょうか?」

「どういう意味だ?」

「例えば前線で『協定違反されたから戦争はもう終わりだ!!』何て事を大声で吹聴されたりでもしたら大混乱に陥るでしょう。

 そういう事に対するペナルティですよ」

「そこまで設定する必要があるのか!?」

「破る気ですか?」

「そういうわけでは無いが!!」

「ハハッ、冗談ですよ。

 で、どうします?」

「……内容に依るな。どんなペナルティになる?」

「そうですね……相手を一人指名して戦死扱いに出来る……とかどうでしょうか?

 但し代表は指名できませんが」

「そのくらいなら別に問題無い。書き加えよう」

「ありがとうございます。僕からは以上です」

 その後、長谷川先生の立会いの下、条文を書き換えて調印した。

 さて、急いで教室に戻るぞ!

 

 

[20XX/04/XX  B、Fクラスクラス間協定]

 

 ・Bクラス、Fクラス間の試験召喚戦争が本日午後4時までに決着が着かなかった場合、明日まで停戦とする。

  なお、開戦時刻は翌日午前9時とする。

 ・両クラスは停戦期間中は試験召喚戦争に関する行為を一切禁止する。

  但し、他クラスから一方的に交渉してきた場合は話をすぐに切り上げる事を条件に許可する。

 ・時間の単位は協定を結んだ空き教室の壁時計を基準にする。

 ・一方のクラスが協定違反をした場合、違反したクラスの代表は戦死する。

 ・一方のクラスが不当な告発を行った場合、そのクラスは相手に指名された人物を戦死扱いにする。

  但し、代表は指名されない。

 

  立会い教師:長谷川

  Bクラス代表 根本恭二 印

  Fクラス代表 坂本雄二 印




 以下は使者に関する本作オリジナルの設定です。
 こういったルールが無い限りは交渉は不可能と判断し、追加しました。
 何か問題点があればご指摘お願いします。

[使者に関する規程]
 ・各クラス代表は、教師の立会いの下、最大で二名まで使者を任命・解任する事が出来る。
  但し、代表は使者になれない。
 ・使者は任期中、『外交特権』を得る。
 ・『外交特権』を持つ生徒は、敵クラスに勝負を挑まれた場合に無視する事が出来る。
  但し、自分から勝負を挑む事も出来なくなる。
 ・使者に設定された者は、使者を解任されるまで規程の腕章を付けなければならない。
  (使者とそうでない人物をはっきりさせるため)
 ・使者はあくまで戦争中のクラスの為の使者であり、第三クラスとの交渉を行う事はできない。
  (他クラスとの連携を断ち切るのも立派な戦術なので)
  これに違反した場合、かなり重大なペナルティが設けられる。



[クラス間協定に関する規程]
 ・戦争中にそのクラス間で協定を結ぶ場合、提案する側のクラスは60分以上前に交渉開始時刻、及び交渉メンバー(代表を含む最大5名)を教師に提出する。
 ・提案する側のクラスは交渉開始時刻の45分以上前に交渉を提案する旨を敵クラスの代表に伝える。
  これが正常に行われなかった場合、相手クラスに却下されたものとする。
 ・提案されたクラスは、交渉メンバー(代表を含む最大5名)を最寄りの教師に提出する。
  又は即座に提案を却下する旨を最寄りの教師に伝える。
 ・交渉開始時刻の前後30分は、その交渉メンバーは『外交特権』を得る。
  但し、『外交特権』を得る前に提案が却下された場合は得られない。
 ・交渉メンバーは特権を得ている間は規程の腕章を付けなければならない。
 ・交渉にかかった時間を考慮して、立会いの教師は特権を得る時間を適宜延長、短縮する。
 ・交渉の提案は一日に一回のみ行う事が出来る。
 ・交渉を提案するクラスの代表が、外交特権を得る時刻に召喚フィールドに入っていた場合、その時刻を延長する。

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