……光side……
「み、皆! 今日は天気も良いから屋上でお昼にしない?」
……兄さん、優子に何を吹き込んだんだろう……?
今日の天気が良いのは確かだから別に問題ないんだけどさ。
「お、いいね~。ボクは賛成だよ」
「私も異論は無いわ」
「……雄二センサーが反応してる」
一人動機がおかしい気がするけど……全員参加みたいね。
そういうわけで屋上に移動。
扉を開けたら男子生徒Aが死体のように転がって……いるような事は無く、Fクラスのメンバーが和気藹々と食事していた。
「んあ? お~、お前ら奇遇だな。お前らも飯か?」
兄さんがいかにもな口調で話しかけてきた。
違和感と言うかわざとらしさ(?)を感じたのは……私だけなんだろうな。きっと。
突っ込むのも面倒なので華麗にスルーして会話を始める。
「ところで、兄さんが持ってるのは誰のお弁当なの? 兄さんのものには見えないけど」
「ああ。姫路の弁当だ」
「「「「ッッ!?」」」」
「お前らなぁ……姫路に失礼じゃないか?
気持ちは分かるんだが……」
「兄さんのその台詞も大概だと思うけど!?
って言うかどうしたの!?」
「姫路の料理の味見をしていただけだ。
もっとも、食えるものは少なかったが……」
「はぁ……どうやったら上達できるんでしょうかね?」
薬品を使わなければ良いと思うよ。
「それは置いておいて、お前らも飯を食いに来たんだろ?
早く食べないと昼休み終わっちまうぞ」
「……それもそうね」
5限目にこそこそお弁当を食べるのは悲しいからね……
優子の目的はただお弁当を食べる事だけじゃないと思うんだけど……まあいいか。
「あ、あの~……」
「ん? どうした姫路?」
「私、お弁当が……」
食べるものが無い……と。
最初から食べられるシロモノを持って来いという話であり自業自得でもあるわけだけど……
……って言うか、日々の昼食はどうしてるんだろう……?
「ふむ、ではこれをやろう」
兄さんが姫路さんに差し出したのは半分に千切られたメロンパン。
「あ、ありがとうございます!」
「それじゃ、ボクも」
愛子も自分のパンを千切って渡す。
「では、ワシも適当なおかずを……どこに置けば良いかのぅ?」
「お弁当箱のふたを裏返しにして使いましょう。
私からも……これを」
「それじゃあ僕からも」
「えっと、秀吉がそれなら私は……これかな」
「ウチからは……これが良いかな?」
「…………(スッ)」
「すげぇ豪華になってきたな。
俺からは……これだな。バランス良くなるだろ」
「……雄二のお弁当……
……誰に作ってもらったの……?」
「自分で作ったんだよ!!
ったく、ほら、これやるから」
「……あ、ありがと……
……瑞希、私からも、これ」
「み、皆さん……ありがとうございます!」
10人からのカンパかぁ……結構豪華になってるわね。
さて、いただきま……
…………ちょっと待って?
今の流れ、もう一度振り返ってみましょう。
兄さん、メロンパン半分を渡す。
愛子、オムそばパン半分を器用に千切って渡す。
秀吉くん、優子とお揃いのお弁当から適当な一品を渡す。
私、自作のお弁当から以下略。
吉井くん、綺麗なお弁当から……
「「そこだぁっ!!」」
同じように違和感に気づいた兄さんと声が重なる。
「ど、どうしたんですか!?」
「明久……白状しろ。
その弁当……どっから盗ってきた!!」
「いやいやいや、盗んでないよ!? 自分で作ったんだよ!!」
「嘘だな」「嘘ね」「嘘じゃな」「嘘ですね」「ダウト」
な、何故こんなに個性が……? っていうか兄さんだけ明らかにおかしい。
「嘘じゃないって! ホントに自分で作ったんだって!!」
「明久ぁ……お前は墓穴を掘った。それはあり得ない。何故なら……」
「吉井くんがそんなおいしそうな料理作れるはずありません!!」
「おいコラ姫路。明久は清涼祭の料理長だからな?」
「あ、そうでした。すいません」
そう、そこは問題じゃない。問題は……
「ソルトウォーターや
吉井くんの生活態度は目に余るものだという事は兄さんから聞いている。
……ホント、よく生きてられるわよね……
「お前が自分の意志で弁当を作るとは考えにくい。
だよな、雄二」
「ああ。同意見だ。となると……
① お前は偽者。
② どっかから盗ってきた。
③ 誰かに強制されている。
……って感じか?」
「ええっ!? っていう事は吉井くんは偽者!?」
愛子、悪ノリしなくて良いから……
「いや、それも違う。カエサルを大魔王にしちまうのは明久くらいのもんだ」
……何があったんだろう……?
「って事は……吉井くん。警察に行こう? まだ未成年だし、自首すれば許してもらえるかもしれないよ?」
「いや、だから! 盗ってないよ!?」
「……となると、最後の選択肢が有力だな。
強制されているなら……明久が飯を作ってきても不思議じゃない」
「でも、一体誰が何で? アキにわざわざお弁当を作らせるなんて……」
「良い着眼点だ島田よ。
では、もう少し視野を広げてみようじゃないか。
『明久がお弁当を作る』という行為の意味。例えばそうだな……『生活態度の改善』とか?」
「っ!!」
お、吉井くんが少し反応した。アタリみたいね。
「このバカの生活態度が改善して得をする人物。
長い目で見れば一番得するのは本人だが、それ以外だったら……」
「……家族……でしょうか?」
「だそうだが、どう思う明久?」
「エ、エット、ナナナンノコトカナー?」
思いっきり棒読みね。
確か吉井くんは一人暮らしだって聞いたけど……両親が帰ってきてる……とか?
「あ、そう言えば、前にお姉さんが居るって言ってたわよね?」
「っ」
あれ? 今兄さんが鋭く反応したような?
……ああ~、もしかして入れ替わりの時に得た『優子が知らないはずの情報』だったのかな?
これくらいであの日の入れ替わりがバレるとは思えないけど……後で注意しておこう。
「へ~、吉井くんってお姉さんが居たんですか」
「あ~、うん。まぁ……ね……」
「って事は、そのお姉さんか両親が帰ってきてる……と」
「……うん。実は、姉さんが帰ってきてるんだよ……」
やっと白状したわね。
……って言うか……
「だったら最初から言えば良いんじゃないの? 隠す事は無いと思うけど?」
「えぇっと……僕の姉さんは、ちょっと、まぁ、特殊なヒトでね、その……」
「特殊って?」
「それは……えっと……」
「おい、その辺にしといてやれ。空凪妹……じゃなかった、姉」
「あら? 坂本くんが吉井くんをかばうなんて珍しい事もあるのね」
「……世の中にはな、突っ込まれたくない色んな家族が居るんだよ……
なんだか、深い実感を伴った台詞ね。何となく胸が悲しくなってくるような……
「そうそう! そういうものだからもうこの話は終わりにしよう?
昼休み終わっちゃうよ?」
「……それもそうね」
このまま議論してたら本当に昼休みが終わりかねない。
それじゃ、今渡こそいただきま……
「待った。まだ終わってないぞ」
兄さん……お弁当食べさせて……?