バカ達と双子と学園生活   作:天星

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01 それぞれの反応

 人は、常識で測れない事態に直面した時、様々な行動を取る。

 ある者は驚愕のあまり叫びを漏らし、

 またある者は現実を直視する事ができず自己の感覚を否定し、

 そしてある者は目の前の存在を否定しようとその存在を破壊しようとする。

 ……さて、彼らの場合はどうだろうか?

 

 

  ……早朝 校門前にて……

 

 

 鉄人先生は毎朝校門の前に居るらしい。

 『らしい』と断定しないのは、僕が早すぎて鉄人先生と会えない事が多々あるからだ。

 朝の挨拶をしながら全校生徒の様子を見ているのだろう。あの先生らしい。

 今日はちゃんと居るな。

「おはようございます。鉄人先生」

「おはよう鉄人!」

 僕も、そして隣の明久も元気に挨拶する。

 当然、鉄人先生も挨拶を返す。

「おはよう。空凪と……

 ………………よ、吉井……なのか?」

「何言ってるんですか鉄人。

 そんな事言ってると『鉄人の節穴』ってあだ名が付きますよ?」

 『節穴の鉄人』では無いんだな。

 二つの単語を前後させるだけで大分意味が変わるが。

「そ、そうだな。吉井か。間違いないな。

 ……で、何を企んでいる?」

「鉄人! 僕が朝早く学校に居たらいけないんですか!?」

「いや、そういうわけでは無いんだが、しかしだなぁ……」

「……鉄人先生。

 たまにはこんな奇跡もありますよ。

 学校に隕石が落ちて校舎が全壊するくらい奇跡的な出来事で信じられないかもしれませんけど、それでも今は喜びましょうよ。

 明久が早起きして学校に来たっていう事は喜ぶべき事なんですから」

「……そうだな。吉井、疑ってすまなかった。

 これからも頑張れよ」

「え、ああ。はい」

 

 鉄人の場合……まずは疑うが話せば分かる。

 

「い、今の、鉄人に褒められたのかな?」

「多分な」

 

 

 ……教室にて……

 

 

 教室に着いてから明久と適当に遊んだりしてたらいつものように雄二が入ってきた。

「「おはよう雄二!」」

「おはよう剣と……

 ……お前、何者だ!?」

「え? 僕は僕だけど……」

「嘘だ!! 明久がこんな時間に居るわけが無い!!

 偽者か? ドッペルゲンガーか!? クローンか!?

 いや、双子の妹のアキヒシか!?」

 一体誰だそれは。そして弟ではないんだな。

「……雄二。適当に質問してみろ。それではっきりする」

「な、なるほど。じゃあ……

 ユリウスカエサルが暗殺される際に腹心だった男に向かって言った名言は?」

 あ、ゴメン。それはついさっき教えちゃった。

「えっと……『ブルータス、お前もか』もしくは『ブルトゥス、お前も私を裏切っていたのか』だね!」

「やっぱ偽者じゃねぇか!!」

「すまん。偶然僕がついさっき教えちゃった」

「どんな偶然だよ!

 仕方ねぇ。じゃあ……そうだ。

 ジュリアスシーザーが暗殺される際に腹心だった男に向かって言った言葉は?」

 おい雄二、それは同じ問いなんじゃないのか?

「ん~っと……

 『ぐはっ!! この私が敗れるとは!

  だが心せよ。この世に光がある限り闇は蘇る! 何度でもな!!』」

「ホントだ。明久だ」

「だろ?」

 

 雄二の場合……最初は取り乱すが証拠を見せれば納得する。

 

「ところで、答えって何?」

「カエサルと同じな」

「そんなバカな!!」

 

 

  ……そして数分後……

 

 

「おはようございます」

 三人でのんびりしていたらこれまたいつものように姫路が登校してきた。

「「おはよう」」

 僕と雄二はいつものように返事をする。

「おはよう、姫路さん」

 当然、明久も返事をする。

「え……よ、吉井くん……?」

 当然(?)、姫路は驚愕する。

「え、そうだけど?」

 さて、姫路の場合……

 

「……うぅ、グスン」

 

 ……突如、涙を流す。

「え!? な、何かしたの僕?」

「だって! 吉井くんが、吉井くんが!!」

「僕がどうしたの!?」

「さ、坂本くん、空凪くん! 吉井くんは、大丈夫なんですか!?」

「……残念ながら……」

「俺たちも手を尽くしたんだが……」

「そんな!! どうにかならないんですか!?

 吉井くんはまだ17歳なんですよ!?」

「いや、精神年齢は8歳くらいだろう」

「まだ幼いのに、可愛そうに……」

「ねえちょっと、ここって病院なの!? 何で僕が事故ったみたいになってるの!?」

「え? 不治の病とかじゃないのか?」

「どっちもあり得るな」

「どっちでも良いよ!! 僕はまだ死なないよ!?」

「ほ、ホントですか!? 良かったでずぅぅぅう!!!」

「わ、ちょ、姫路さん離れて!!」

 

 姫路の場合……突如涙を流した後、なんか納得して号泣して明久に抱きつく。

 

「あ、しまった! 引き剥がさなければもっとあの感触を味わって……」

 明久クン?

「な、なんでもナイヨ? アハハハハ……」

 全く、僕の義弟(仮)の姉を泣かすような事は許さんからな?

「どうしたんだお前ら?」

「さぁな」

 

 なお、補足しておくと……

 明久と木下姉が付き合い始めた事は本人たちと僕以外誰も知らない。

 これが漏れたら……教室が血の海になるからな……

 血って落ちにくいから掃除が面倒なんだよね~

 

 

 その後、他のクラスメイトはまともな時間に登校して来たので極端に驚くような事は無かった。

 強いて言えば……

 

「あれ、アキ? 今日はいつもより早いのね」

「まあね、そういう日もあるさ!!」

 

 とか。

 

「おはよう秀吉!」

「む? 今日は早いのじゃな。

 こりゃ雪でも降るのかのぅ?」

「降ったら楽しそうだね!」

 

 とか。まあそんな感じだった。

 

 ……でも、僕はこの時、気づいていなかった。

 明久の異常は、登校時だけのものじゃ無かったという事に……


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