バカ達と双子と学園生活   作:天星

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01 地雷

  ……屋上……

 

「こんな所まで来て何をする……のじゃ?」

「これからする話は人に聞かれない方が良さそうだからなぁ……」

「??」

「……木下、お前は光が危惧した通りに男装癖があったのか?」

「っっっ!? ななな何の事!?

 ……なのじゃ!?」

「いや、そんな取ってつけたように秀吉の語尾を付けんでも」

 むしろ悪化してる気がするから。

「な、何を根拠にわた、ワシがあ、姉上だ、じゃと!?」

 グダグダだなオイ。秀吉だったらこの程度の指摘で揺らいだりせず鮮やかな演技を続けるぞ。

「……証拠が欲しいのか?」

「う、うむ!! 証拠も無しに人を疑うのは良くないぞ!!」

「……秀吉は男だよな?」

「と、当然じゃ!」

「それなら……

 ……脱げ」

「……………………へ?」

「何をしている。これ以上無い証拠だぞ?」

「え、ちょ、しょ、正気……?」

「なんなら今から力づくで……」

「スイマセンデシタッ!!」

「素直でよろしい」

「脅迫だったじゃないの!!」

 何を人聞きの悪い事を。証拠を見せろと言うから提示しただけなのに。

 

 

「って言うか、どうして分かったのよ……」

「重心移動の癖が木下姉のものだったからな」

「そんなのが分かるの!? 怖いわよ!!」

「ってのは7割ほど冗談だ」

「3割は本気なの!?」

「微妙に内股だったし、僅かにだが胸があったし」

「僅かって何よ僅かって!!」

「え? じゃあ……明らかに胸が大きかったから」

「喧嘩売ってんのか!!」

「僅かな胸が明らかに見えていたから。

 大きかったと言うのは秀吉と比べてと言う意味だ」

「もう良いよ! もう良いから!!」

「ところで、秀吉はAクラスに?」

「……うん」

「となると……」

 

ピッポッパッ

プルルルル……

ガチャ

 

「もしもし光?」

『うん、どうしたの?』

「秀吉が居るなら屋上まで連れてきてくれると助かるんだが……」

『ん? 分かったわ。

 木下さ~ん』

『何?』

『ちょっと着いてきて』

『? うん、分かったわ』

 

ガチャ

 

「あいつも成長したよな~。

 きっちり看破してたぞ」

「……」

 

  ……side out……

 

  ……優子side……

 

 ま、まさかこんなあっさり看破されるなんて……

 親でも時々間違えるのに!!

「兄さん、秀吉くん連れてきたよ~」

「え? な、何の事なの?」

 秀吉は指摘されても堂々としてるなぁ……流石は演劇部。

「秀吉、良いのよ。もう全部バレてるみたいだから」

「!! ……もうバレてしもうたのか?」

「……ええ」

「…………」

 そんな目で見ないで!! 相手が悪かっただけよ!!

「ところでお前たち、何で入れ替わってたんだ?」

「そ、それは……」

「姉上よ、剣に隠し事は不可能じゃと思うぞい?」

 た、確かに……

「ではご期待に沿えるように推理してみよう」

「いや、やらなくていいから!!」

「まず、お前たちの男装癖、女装癖だという可能性だが……

 今やる意味が無い。まず間違いなく違うだろう」

 当たり前でしょうが!!

「そもそも、何故『今日』なのか。そこが気になる」

「本日の特別な何かって言ったら……アレよね。プロモーションビデオ」

「本日、しかも午後、更に学校でとなるとほぼ確定だろう」

 鋭いっ!!

「補足すると、優子が主役なんだよそのビデオ」

「なるほど、何らかの事情があって出たくなかった……か?」

「でも秀吉くんに女装までさせてるって事は、名前を出す事自体に抵抗は無いって事よね」

「……何かをやらされるんだな。自分にはできなくて秀吉にはできるような事を」

「そうなるかしらね」

「そんで、無駄にプライドの高いお前は、自身の能力不足を知られたくなくて秀吉に頼んだ……と」

「ええ正解よ!! 何よ! 文句でもあるの!?」

 って言うか怖いんだけど!?

「優子、何をやらされるの?」

「……校歌」

「姉上は、まぁ、音痴じゃからのぅ……」

 何でこの世に歌なんて物が存在するんだろう……?

「歌ねぇ……まぁ、気持ちは分からんでもないな」

「え? 剣くんも音痴なの?」

「下手という程ではないが……単純に自分の欠点は隠したいものだろうからな」

 このヒトにも欠点はあるのかなぁ……?

 ……想像できない。

「しかし秀吉の演技か……

 ……凄く不安なんだが」

「私も同意見。運が悪ければ音痴だってバレるだけじゃ済まないと思うわ」

「え? どういう事?」

「杞憂で済んでくれると助かるんだが……実際にやってみるか」

 そう言うと、空凪くんは秀吉の方を向いてこう言った。

「とりあえず……

 『やあ木下さん』」

「む? ゴホン。

 何かしら?」

 一瞬で演技に入る秀吉。やっぱり上手いなぁ。

「『参考までに聞きたいんだけど、木下さんの好みなタイプの異性ってどんな人かな?』」

「な、ななな何て事訊いてんのよ!!」

「うるさいぞ木下姉。おっと、今の僕は久保だった。ゴホン、

 『で、どうなのかな?』」

 久保くんの真似だったんだ……

「ええっと、私、現実の男の人には興味が無くて……」

 ちょっと?

「『な、なんだって!? 男子に興味が無いと言うことは木下さんも同性愛者だったのか!!』」

「え? えっと、その……」

「ちょっとぉぉぉおおお!!!

 それは流石に無いでしょうが!!」

「久保ならナチュラルにあり得そうなんだが……」

「それは……そうかもしれないけどさぁ……」

「まぁ今のは秀吉に非はあまり無いとは思うが……」

「いいえ、あるわ。

 秀吉! 一体いつから私が男に興味が無い事になってるのよ!!」

「む? では明久に興味があると正直に言えば良かったのかの?」

「どうしてそうなるのよ!!!!」

「あ~、二人とも、次行って良いか?」

 こんな調子だと他にも落とし穴がありそうね……

 仕方ない。秀吉を追求するのは後回しにしよう。

「え~では……ゴホン、

 『……優子、スカートめくれてる』」

 この特徴のあるトーンとテンポの声は代表の真似だろうか?

 う~ん……確かに秀吉ならついうっかりそういう失敗をしてしまう事もあるかもしれない。

 確かに死角だったわ。

「あ、代表大丈夫よ」

 え? 何が大丈夫なの?

「今日はちゃんと、下着を穿いてるから……」

「秀吉ぃぃぃぃぃぃぃっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「秀吉くん……それは無いわ……」

「何故じゃ!?」

 ナゼ? 何故って、本気で分からないの?

「おいおい……スパッツを穿いてるからと言う意味だろうし、厳密な定義で言ったらスパッツは下着なんだろうが……

 一般的な下着をイメージしたら危ないヒトにしか聞こえんぞ」

「むぅ……ダメじゃったか。済まぬ」

「ダメなんてもんじゃないわよ……」

 あ、危なかった……危うくノーパン露出狂のレッテルが貼られる所だった……

「後はそうだなぁ……あ、アレがあった。

 『木下さん!! 僕と付き合って下さい!!』」

 な、なんか吉井くんの声に聞こえたのは気のせい……よね?

「え? よ、吉井くん!? 突然どうしたの!?」

「そういう設定なの!?」

「うるさいぞ木下姉」

「一歩踏み出す時の歩幅とか、声のイントネーションの癖や、視点移動の癖が明久のものじゃったからのぅ」

 演劇部ってそこまで分からないと務まらないものなんだろうか……?

 そして空凪くんは微妙な違いまで伝えられるほど演技(?)が上手いのはどういう事なんだろう……?

「では最初から。

 『木下さん!! 僕と付き合って下さい!!』」

 そこからなの!?

「え? 吉井くん!? 突然どうしたの!?」

「『初めて会った時から、ずっと、好きでした。付き合って下さい!』」

 こ、これは……何というか……

「あの、でも……ごめんなさい……」

「『そ、そんな!! 一体、どうして……?』」

「わ、私……

 12歳以下の美少年にしか興味無いから♪」

 

ブチッ

 

「き、木下姉!? 気持ちは分かるが落ち着け!!」

「これが落ち着いていられるわけ無いでしょうが!!

 秀吉、あんたの中の私は一体どれだけ救いがたい人間になってるのよ!!!」

「むぅ……姉上の代わりに了承の返事を返してしまうのはマズいと思ったのじゃが……」

「何で私が了承の返事を返す前提なのよ!!」

「それで明久以外で当たり障りの無い答えを返したのじゃが……」

「どこが当たり障りの無い答えよ!! 当たり障りしか無いわよ!!!」

「危なそうだな~と思った質問をぶつけてみたが……地雷なんてもんじゃなかったな」

「本当に危なかったわ……」

 もしこんな核爆弾を野放しにしてたら……想像したくもないわね……

「ま、まぁ、私がフォローしておくから、優子は安心して行ってきなさい」

「光がそう言うなら……」

 もの凄く不安なんだけど……仕方ないかぁ……

 頼むから変な事だけはしないでよ……?


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